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「リリア様本当に学園をお休みするんですか?」
「今日はライアンに会いたくないの。」
ベッドの上で座るリリアは枕をぎゅっと抱き締める。いつもと違う主人の姿に、ミラは何も言わずに静かに部屋を出た。
ずっと心の底に押し込んでいた恋心。嫁に来いとは言われたが、ライアンに本当に好きな人が出来れば、その約束は破られる。それくらい簡単な…冗談にも取れる言葉だった。
「何で今更あんな言葉を言うんだよ。」
このままライアンに女装をさせて、恋愛をしない人生を歩ませたら、私と結婚してくれる。愛のない家庭。幸せになれないかも知れない。それでもライアンと結婚できるならと、囁く自分がいることに嫌悪する。
「ライアンは私と結婚したら幸せになれるかな。」
「呼んだか。」
「………ラ、ララ!?」
突然現れたライアンにリリアはパニックになり、何も言えない。
「ミラにメイクを頼みに来たんだが、リリアが風邪だって聞いてな。慌てて部屋の前まで来たんだが、ノックをしても返事がなくてな。心配で部屋に入ったんだ。」
そう言えば、ライアンとは毎日同じ馬車で登校していた。学園の前に城で会うのをうっかり忘れていたリリアは、顔を赤く染める。
「リリアが風邪なんて珍しいよな。確か子どもの頃、剣術の授業を休んだとき以来だよな。」
「うん。」
覚えていたんだ。小さな事なのにリリアの心が暖かくなる。
「なあリリア。俺と婚約してくれないか?」
「…はあ!?急に何なの。婚約って、結婚するってことでしょう。本気でライアン一生恋愛しないつもりなの。」
ライアンの告白に嬉しさより、悲しさが優った。最近は常に男装しているリリアを、ライアンが女だと認識してなくても仕方がない。
ライアンは私を男だと思っているの。私がライアンに女装をさせて、女の子と恋愛する機会を奪ったのが原因なの。
自分の感情を言葉に現せないリリアは涙を溢す。
「ごめん。でも、リリアにどうしても伝えたかったんだ。俺はリリアが好きなんだ。」
「…ウソ。」
「嘘じゃない。昨日リリアに大嫌いって言われて、凄いショックだった。それで俺はリリアとずっと一緒に居たいんだって気付いた。嫌いな女装だって、リリアの側にいれるから、我慢できた。」
ライアンの言葉に、悲しみの涙が消えて嬉し泣きする。ライアンは泣き止まないリリアを、そっと抱き寄せると言葉を続けた。
「俺はリリアをひとりの女性として愛している。俺と結婚してください。」
*****
「そうか。やっと告白したか。」
「2人が結ばれて良かったわ。」
ミラの報告に国王とサリーの顔が綻ぶ。全員がライアンとリリアが恋人になる日を待ちわびていたのだ。
「本当に2人は鈍感でいつ告白するか、見ていてとても焦れったかったわ。」
「そう言うな。あの変装で本当に周囲を騙せていると、勘違いしている所とか可愛くてワシは好きだぞ。」
ライアン達は知らないが、彼らの変装は周囲にバレていた。ライアンの顔を学園に入学するまで知らない生徒は多かったが、リリアはこの国の姫である。肖像画が広まっており、周囲の人間の多くは直ぐに別人だと見破った。知らないのは勉学は不要と考える者や、次期当主の座に胡座を掻く連中だけである。
「私も2人の勘違い好きよ。特にライアンじゃなくて男装したリリアが学園で人気がある所が1番好きだわ。」
周囲の者は2人の入れ替わりとリリアの恋心に気付いていた。それほどリリアの態度は分かりやすかった。男装姫の切ない恋。カッコいいリリアが見せる恋する表情。周囲の女子はリリアの恋を応援し、鈍感なライアンに苛立ちを覚えていた。
「アハハ、男の姿で登校したライアンが、自分が女子に人気がないと知ったときの顔を見てみたいもんだな。」
知らないのは本人達だけ。2人が恋人になったと言うニュースはその日の内に、学園中に広がり、大勢から祝福されるのだった。