第20話 エピローグ
「え? 結婚式?」
彼女の栗色の瞳が丸くなる。
夕食も終えて、彼女の部屋のソファで、ふたりでゆっくりとくつろいでいた。
ちなみにエリアスは彼女を膝の上で横抱きにしている。
最初の頃は逃げられたのだが、今は大人しく座ってくれるようになった。
「うん、規模はどうしようか?」
「……いまさら、挙げるんですか?」
直球の返事に、エリアスは、うっと唸った。
過去の自分を殴りたくなる。
本当に殴ることができたら、今頃、過去の自分の顔は原型をとどめていないと思う。
「領民に君と結婚したことを知らしめたいし」
エリアスはそこで一旦、言葉を止めた。
「君の花嫁衣装が見たい」
もう単なる願望というか欲望だ。
正直、そのために他の欲望も抑えている。
彼女は何も言ってこないのだが、気にならないのだろうか?
最近のエリアスの悩みは、おおむねそれだ。
「もしかして!! わたくしは、エリアス様の花婿姿が見れるということですか?」
頬に自分の手を添えて、真っ赤になっているのだが。
どうしてそうなるのか?
エリアスの花婿姿が嬉しいのか。
そうか。嬉しいのか。
(……可愛い)
「どうしましょう? いつにしましょう? 早い方がいいですけれど、でもエリアス様の花婿衣装はちゃんと用意しなくてはいけないし」
話が凄い勢いで広がりそうなので、エリアスは彼女の妄想を止める。
「で、規模はどうする?」
「……規模」
「そう。大々的にするか、身内だけにするか」
「エリアス様の結婚式ですもの。もちろん大々的にですわ!」
ぐっと拳を握りしめているが、自分の結婚式だと分かっているのだろうか。
「そうなると、早くて三か月……か」
まだまだ我慢を強いられると思うと、ため息が零れそうになる。
「ダメですわ! エリアス様の結婚式の準備はもっと時間を掛けて」
「なるほど……君は、俺に我慢をさせたいわけだ」
とうとうエリアスは口にした。
そうでないと全然伝わらないと思った。
「我慢?」
こてんと首が傾く。
小リスだと思っていたが、どうやら小悪魔らしい。
「アルヴァに触れたい」
彼女の髪に触れて、手に取る。
柔らかなそれにそっと口づけた。
「……あ、あの?」
真っ赤な顔が本当に可愛い。
目が吊り上がっていようが、下がっていようが、アルヴァはアルヴァだ。
「アルヴァのすべてを愛したい」
じっと栗色の瞳を見つめる。
意味を理解したのだろう。
答えに窮した彼女が下を向いてしまう。
エリアスは彼女の顎に手を掛けた。
少し熱をもった瞳がエリアスを刺激する。
「本当に君はずるいな」
アルヴァの額、鼻先、目尻、耳に口づけを落としていく。
「え……エリアス様……」
震える声を抑え込むように、唇を押し付けた。
そのまま。
何度も何度も触れた。
ついばむように。
彼女の唇を味わった。
「……アルヴァは、まだ我慢できそう?」
腕の中でぐったりしている彼女の手は、ぎゅっとエリアスの胸元を掴んでいる。
そして潤んだ目でエリアスを睨む。
「酷いですわ」
どこまでも愛おしくて可愛い、エリアスの所有者。
永遠にエリアスだけを見てほしい。
エリアスだけに愛されてほしい。
「酷いのはどっちだろうね?」
エリアスはもう一度、アルヴァへと口づけを落とした。
END




