11.人のことを考えられる人
次の依頼がベリラ池周辺に生息しているハレン草の採取なんだが、その前に一旦飯を食おうということになった。
森の入り口辺り、比較的安全な場所の切り株へと腰を下ろす。
俺は、準備していた腸詰め肉を焼いたものとパンを取り出す。
視線を感じて隣を向くと、ニイナが不満そうに見ていた。
何が不満なんだと疑問を持ったけど、その答えはすぐに出た。
ニイナの用意してきた昼飯は干し肉だけだったのだ。
料理が苦手だから、ニイナは干し肉だけなんだろうな。
俺は今日の昼を見越して朝から用意していたんだ。
でもまぁ、一人で食べるのも気が引ける。
「アセイさん、よかったら腸詰め肉食べますか?」
「よいのか⁉ かたじけない!」
差し出した器から一本取って口にすると「うまっ!」という声を上げる。それを歯を食いしばりながら見ているニイナ。かわいそうだから、ニイナの前にも器を差し出す。
「よかったら、食うか?」
「ふんっ! も、もらってあげなくもないわ!」
ツンデレなのか?
嫌いじゃないが。
口角が上がるのをなんとか堪えながら腸詰め肉を配り終えるとパンへ挟む。
パンと腸詰め肉を一緒に頬張る。
肉のうまみが口の中へと広がり、パンの甘みとバターの香りが後から追いかけて来る。
「んー! んまっ!」
思わず声が出てしまった。
ニイナが物欲しそうな顔で見てくるが、これはあげない。
これは美味いわ。
肉を腸詰めしたのも、パンを焼いたのも俺じゃないけどね。
魔冷庫に入っていたのを焼いただけだし。
今度は、調理パン買ってもいいかも。
やっぱ飯って気分が上がるなぁ。
これだから、自炊はやめられないんだけどさ。
落ち込んだ時とか、よく自分でご飯作ってたもんなぁ。
そんなことを考えながら、目の前の草原を見つめていた。
その先には街を守る壁が見える。
俺は、この国を守るために、宮廷魔術師になりたかったんだ。
「あんたさ、なんで学院やめてきたの?」
その問いに驚いて、固まってしまった。何にも聞いていないのか?
「コクロウさんから、何も聞いてないの?」
「私は、聞いたけど本人から聞けって言われたのよ。教えてくれてもいいのに……」
唇を尖らせて不満を口にしている。まぁ、コクロウさんなりに俺のことを気遣ってくれていたんだろうな。辞めた理由は人の口から聞くもんじゃないって感じなのかな。
コクロウさんが辞めた理由もハクアさんは本人から聞いた方がいいって言っていたし。ローグの人たちは、人の気持ちを大切にする人たちなんだと思う。
「隠してないから、教えるさ。俺はな、雷属性しか使えない。それで、落ちこぼれ扱いされていたんだ」
「ふーん。それだけで?」
「ふっ。そう思うのはローグの人たちだけだ。魔術師は、複数属性使えて当然。雷属性は最弱。そう考えている」
腕を組んで何やら難しそうな顔をしたニイナ。俺の言ったことに納得いっていないらしい。
「でもさ、ゴブリンを一撃で倒せる雷が出せるのに?」
「それがな、触れて放てばいいってのは、つい最近発見したんだ」
「あぁ。そういうこと。まぁ、それがわかっていれば、戦えるじゃない?」
ニイナの目に嘘がないし、言葉も真っすぐだ。俺が今まで会った誰よりも素直なやつだ。
「そう言ってくれたのは、ニイナが初めてだ。俺は、今までハズレ属性で最弱扱いだった。触れて放てるとわかった途端、異端扱いされたんだ」
「……それで、やめたの?」
「あぁ。学院長に言われたんだ。俺に合うギルドがあるって」
ニイナは少し考える素振りをして、合点がいったように手を叩いた。
「あぁ! あのー……あの人でしょ? えーっと、ゴイス……ユーケスだっけ」
「そう。その人にローグを薦められたんだ。コクロウさんも知っているようだったけど?」
「うん。コクロウさんも元は学院の人だからねぇ。ごめん。これに関しては、あんまり言っちゃいけないんだ。本人に聞いて?」
「おう。そのつもりだったから」
俺の答えに満足そうに「そう」というと干し肉を口にし、こちらを見つめている。何かまだ言いたいことがあるんだろうか?
「あんたさ、ここへ来てよかったと思う?」
「あぁ。さっきそれを考えてた。……ローグの人たちは、人のことを考えられる人たちなんだと思うから」
ニイナはニコリと微笑むと「みんな、何かしらの傷を負っているからねぇ」と軽く流して言い放った。聞かなかったことにした。でも、妙に納得できたんだ。
だから、みんな人の気持ちを大事にするんだ。最初に聞かれた"信念を持て"っていうのもそこに繋がってくるのかもしれないな。
自分の気持ちを大切にして、冒険者をして欲しいってことなんだろう。
「ゴウキは、よくやっていると某は思うぞ?」
アセイさんのその言葉に、胸の奥が熱くなる。
唇を強く結んで、なんとか堪えた。
ここで涙なんか流していられない。
ここから頑張らないといけないんだから。
「……ありがとう……ございます」
そう答えるのが精いっぱいだった。
アセイさんは、笑みを浮かべて頷くと立ち上がった。
「よしっ、では、行くか!」
次の目的地、ベリラ池へ出発だ。
果たして、どんなところなんだろうか。
何にも情報がないんだよなぁ。
まぁ、二人もいるしどうにかなるさ。




