0 正妻と愛人と元恋人と天使が同居する家
首都郊外のこの小さなお屋敷は三家族が共に暮らしている。気になるほど古くはないが、新しいとも言えない。だからこそ手の届く値段で売りに出されていたのだろう。
でも私はこの家の、薄緑の縞模様に苺やレースが描かれた壁紙や、備え付けの丸まった脚の棚など、歴史を感じさせるデザインがとても好きだった。
立地も気に入っている。家の周りは緑が多い。
白いレースのカーテンを掛けたリビングの窓からは、芝生でピクニックが出来るエリアと、遊具や砂場が並ぶエリアに分かれた広めの公園、木々が長く並ぶ土手、少し遠くに細い川も見える。川面に日差しが反射して魚の鱗のようにキラキラとしている。夏は涼みに行くのも良いかもしれない。
ただ緑が多いという表現には、「首都にしては」という枕言葉が必要で、隣家まで何分も掛かるというほど田舎でもないので、女ばかりの生活でも安心している。
一年ほど前、半ば怒りの勢いではあったが、引っ越してきて本当に良かった。
この家の住人は三世帯。今リビングのテーブルで一緒に朝食を囲んでいるルイーズ・プティとレオ・プティの可愛い親子に、いかにも姉御肌といった独身女性アルバ・ロベール、そしてジャッド・ベルナールつまり私だ。
四歳になったばかりのレオが一生懸命スコーンを食べながら、「僕もう硬めのパンも食べられるんだよ」という顔で、母親のルイーズ私見上げており、大きなお目目がキラキラして可愛い。スコーンで膨らんだリスのようなふっくらほっぺも可愛い。起きたばかりで後ろの髪の毛がピコっと丸まっているのも可愛い。
ルイーズだけでなく、私もアルバも目尻をデレデレに下げて誉めてあげた。
私たち三人の関係だが、正妻と愛人と恋人だ。
実に不服だが、私は絶賛離婚裁判中のクソ野郎の正妻であり、ルイーズは奴の愛人であり、アルバは恋人だった。
辞書に代名詞として載せて良いほど、絵に描いたような屑の夫も、私も一応は貴族だ。
私は愛人や浮気の恋といったものには一定の理解があった。むしろ私は婚約者に据えられる前から奴が嫌いだったので、あの虫以下野郎の相手をしてくれる女性たちには感謝しているくらいだった。
ノア・ベルナールという虫以下にしては立派な名前の、誠に認めたくないが私の夫も、私のことは昔から嫌いなようで、結婚してから約三年、一度も同じ寝台で寝たことがない。
そんな背景があって、私たち三人は周囲の人々が期待するようなキャットファイトをすることなく、仲良く暮らしている。
ちなみにルイーズとアルバも、奴に気持ちはない状態で、この先もベルナール夫人が代わって揉めるということはなさそうだ。
ルイーズはノアが勝手に婚姻届を提出しないよう、役所に無効届まで出している。
まあ奴は本当にレオの父親なのかと疑いたくなるほど屑なので、真に気持ちがある女性などいないだろう。
「そういえば保育園はどう?」
アルバが訊ねる。保育園とは、私の会社の福利厚生として、社員が子供を保育士に預けて働けるようにする制度のことを指している。
「ええ、四月に間に合いそうよ。やっぱり会社の場所を郊外にして良かったわ。広い施設が作れるもの」
内装もかなり進み、保育士の採用も十分に出来た。
「社員寮も良いアパートでしたよね、古いお屋敷を区切られていて」
この辺は最近路面電車が走るようになって便利になったが、少し前までは車がないとかなり不便だったので、お屋敷の持ち主が高齢になると手放すことが多かったようだ。
時期的にもちょうど良いタイミングで買えたということだろう。これから不動産の価値が上がりそうだと読んでいる。
もうクソ野郎に足を引っ張らせない。私はにんじんをずっと飲み込めないレオのほっぺと困った様子の眉毛を見て可愛い、この子が大人になるまでずっと幸せだと思えるようにしないといけないと改めて誓った可愛い。
「ごっくん出来た〜!偉いレオくん〜!」




