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全属性適性ゼロと鑑定された俺、〈空欄〉のまま世界の仕様外で生きることにした 〜スキル欄が空白の俺は、なぜか全ての魔法と職業を条件無視で使えるらしい〜  作者: 空白 シオン


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第35話 境界の外で

 季節が、ひとつ巡った。


 広場を封じた町は、不便になった。

 だが、崩れなかった。


 仮設の市場は最初こそ混乱したが、

 人々は少しずつ慣れ、祭りも規模を縮めて続いているらしい。


 正解だったかどうかは、誰にも分からない。


 それでも――

 「決めなかった」と言う者はいなかった。


 神殿から正式な呼び出しが来たのは、その頃だった。


 応接室。

 もう何度目か分からない、静かな部屋。


「……君は、結局どこにも属さなかったな」


 セドリックが、穏やかに言う。


「勇者にも」

「神殿にも」

「制度にも」


「はい」


 否定しない。


「なれなかった、ではなく?」


「なりませんでした」


 わずかに、口元が緩む。


 セドリックは、椅子の背にもたれた。


「境界対応組織の案は、白紙だ」

「管理は、従来の方法を続ける」


「分かっています」


「ただし」


 一拍。


「現場で“問いを返す者”がいる限り」

「我々も無視はできない」


 それは、敵対でも、承認でもない。

 微妙な距離。


「君は、危険だ」


 はっきりと言う。


「だが」


 視線が、まっすぐに向く。


「危険でない世界は、もう壊れ始めている」


 否定できない。


「……世界は救えるか」


 最後の問い。


 以前と同じだが、重みが違う。


「救えません」


 静かに答える。


「歪みは消えない」

「間違いも、なくならない」


「なら、何が残る」


 少しだけ、考える。


「……誰か一人に」

「全部を押し付けない構造」


 言葉は、派手じゃない。

 英雄譚でもない。


「誰かが間違えたとき」

「一緒に悩む余白がある世界」


 セドリックは、目を閉じた。


「非効率だ」


「はい」


「遅い」


「はい」


「だが」


 わずかに、笑う。


「人間的だ」


 立ち上がる。


「管理は、君を監視し続ける」

「それは変わらない」


「構いません」


「敵になる可能性も、ある」


「その時は」


 一歩、扉に向かう。


「ちゃんと、迷います」


 セドリックの小さな笑い声が、背後で響いた。


 神殿を出ると、リアが待っていた。


「終わった?」


「うん」


「何者にも、ならなかった?」


「ならなかった」


 並んで歩く。


 町の外れ。

 空は高く、風は穏やかだ。


「……後悔してる?」


 リアが聞く。


 少しだけ、考える。


「してる」


「どれを?」


「全部」


 イリスのこと。

 三軒の家。

 逃げた日。

 拒否した提案。


 全部、重い。


「でも」


 空を見上げる。


「一人で背負ってない」


 リアが、隣で笑う。


「ええ」


 それだけで、十分だった。


 遠くの町で、誰かが選び、

 誰かが迷い、

 誰かが間違える。


 歪みは、なくならない。


 それでも。


 答えを持たないまま、

 一緒に立つ者がいるなら。


 世界は、正しくはならない。


 だが。


 誰か一人だけが、壊れる世界でもなくなる。


 境界は、制度にならなかった。


 英雄にも、ならなかった。


 ただ――


 選択のそばに、立ち続けただけだ。


 それで、よかった。


 風が吹く。


 歪みは、今日もどこかで生まれている。


 だがもう、

 誰か一人が、全部を引き受ける世界ではない。


 その余白の中で。


 僕は、歩き続ける。


                 ――完――

 ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。


 この物語は、派手な無双も、世界を救う大戦もありませんでした。

 主人公は英雄にならず、神にもならず、制度の中心にも立ちませんでした。


 それでも最後まで書きたかったのは、

 「誰が正しいか」ではなく、

 「誰が引き受けるか」という話だったからです。


 間違えない世界は、きっと安心です。

 でも、間違えないために誰か一人に全部を背負わせる世界は、

 どこか歪んでしまう。


 境界という言葉を使いましたが、

 それは特別な力のことではなく、

 “答えを持たないまま立ち続ける姿勢”のことでした。


 イリスを完全に救わなかったことも、

 組織を作らなかったことも、

 正解だったかどうかは分かりません。


 でも、主人公が「全部を決める側」にならなかったことだけは、

 この物語の答えです。


 読まれないから完結させる、という選択もまた、

 一つの「引き受ける」でした。

 それでも最後まで書き切れたのは、

 ここまで読んでくださったあなたのおかげです。


 もしどこかで、

 何かを決めるのが怖くなったとき、

 あるいは全部を背負いそうになったとき、

 この物語を少し思い出してもらえたら嬉しいです。


 世界は、正しくはならないかもしれない。

 それでも、

 誰か一人だけが壊れる世界でなくすることは、できる。


 ここまで、本当にありがとうございました。


 またどこかの物語でお会いできれば幸いです。

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