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全属性適性ゼロと鑑定された俺、〈空欄〉のまま世界の仕様外で生きることにした 〜スキル欄が空白の俺は、なぜか全ての魔法と職業を条件無視で使えるらしい〜  作者: 空白 シオン


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第22話 責められる善意

 翌朝、住宅区画はいつも通りの朝を迎えていた。


 人々は仕事に向かい、子どもは走り、店は静かに開く。

 昨日の亀裂のことなど、もう話題にしていない。


 ――それが、逆に重かった。


「……あの家の人」


 リアが、小さく顎で示す。


 昨日、壁に亀裂が入った家の住人が、通りの向こうからこちらを見ていた。

 しばらく躊躇うように立ち止まり、それから、意を決したように歩いてくる。


「……あの」


 中年の男性だった。

 声は低く、荒れてはいない。


「昨日は、ありがとうございました」


「いえ……」


 言葉に詰まる。


「大事にならずに済みました」

「本当に、助かりました」


 そこで、一拍置く。


「ただ……」


 胸の奥が、嫌な音を立てた。


「もし、あなたが来なければ」

「そもそも、あの場所は触られなかったんじゃないか、と」


 来た。


 怒りじゃない。

 正論だ。


「……管理官の方が言ってました」

「完全に封印していれば、二次被害はなかった、と」


 男性は、視線を逸らす。


「責めたいわけじゃありません」

「ただ……少し、怖くなったんです」


 その言葉が、何より重かった。


「“助けてくれる人”が、同時に」

「“何かを残していく人”だとしたら」


 言い返せなかった。


 事実だからだ。


「……すみません」


 それしか、言えなかった。


 男性は、首を振る。


「謝られると、違う気がします」


 それだけ言って、去っていった。


 しばらく、言葉が出なかった。


「……来ると思ってた?」


 リアが、静かに聞く。


「ううん」


 正直に答える。


「でも……分かってた」


 善意は、免罪符じゃない。

 結果が残れば、評価は分かれる。


 昼前。

 神殿の小会議室に呼ばれた。


 セドリックと、記録官が二人。

 机の上には、昨日の案件の詳細ログ。


「住民からの苦情は、一件」


 セドリックが、淡々と言う。


「数としては、問題ないレベルです」


 数としては。


「だが」


 視線が、こちらに向く。


「“境界介入は、不完全だ”という印象は残りました」


 印象。

 数字に載らないが、無視できない要素。


「管理側としては」


 セドリックは、続ける。


「責任の所在が曖昧になる行為を、推奨できません」


「……それは」


 反論しかけて、言葉を止めた。


 正論だ。


「境界は、選択肢として有効です」

「しかし、第一選択にはなり得ない」


 線を引かれた。


「あなたの介入は、今後――」


 一瞬、言葉を選ぶ。


「**補助的手段**として扱います」


 補助。

 脇役。


 胸の奥が、微かに痛む。


「異論は?」


 問われて、首を振った。


「ありません」


 それしか、言えなかった。


 会議室を出ると、廊下の窓から街が見えた。

 整然とした、人の流れ。


 この街は、正しい。

 だからこそ、歪みを嫌う。


「……ねえ、アレン」


 リアが、足を止める。


「それでも、やめる?」


 答えは、すぐに出なかった。


 昨日の家。

 今朝の言葉。

 会議室の評価。


 全部、重い。


「……やめない」


 ようやく、口にする。


「誰にも文句を言われない方法なら、楽だった」

「でも……それだけじゃ、届かない場所がある」


 リアは、少しだけ笑った。


「だと思った」


 その夜。

 宿の部屋で、一人考える。


 境界は、万能じゃない。

 善意は、必ずしも感謝されない。


 それでも――


 世界が、正しく回るために切り捨てられるものを、

 誰かが拾わなければならない。


 拾った結果、責められるとしても。


 窓の外。

 管理区域の夜は、静かすぎる。


 その静けさの下で、

 今日もまた、小さな歪みが生まれている気がした。


 それを見過ごすか、

 不完全でも触れるか。


 選択は、明日も続く。


 境界に立つ者に、休息はなかった。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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