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全属性適性ゼロと鑑定された俺、〈空欄〉のまま世界の仕様外で生きることにした 〜スキル欄が空白の俺は、なぜか全ての魔法と職業を条件無視で使えるらしい〜  作者: 空白 シオン


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第20話 境界を越える音

 境界を越えた瞬間、空気が変わった。


 肌にまとわりつく圧が、はっきりと増す。

 条件が濃い。

 世界が、こちらを“測ろう”としている感覚。


「……久しぶりね、この感じ」


 リアが、静かに息を吐く。


「管理が、ちゃんと息をしてる」


 遠くで、鐘の音が鳴った。

 町のものとは違う、低く、硬い音。


 合図だ。

 誰かが、こちらの“越境”を記録した。


「……もう、戻れない?」


「戻れるわよ」


 リアは即答する。


「ただし」


 少しだけ、間を置く。


「“何もなかったこと”には、できない」


 それでいい。

 いや――それがいい。


 街道を進むと、空気の歪みが濃くなる。

 管理された土地特有の、整いすぎた感触。


「……来る」


 今度は、はっきり分かった。


 前方。

 古い関所跡。


 そこに、人影があった。


 白い外套。

 神殿の紋章。


 だが、剣も杖も構えていない。


「お待ちしていました」


 穏やかな声。


 セドリックだった。


「……早いですね」


「観測は、もう始まっていましたから」


 責める様子はない。

 驚きも、怒りも。


 ただ、“想定内”だと言いたげだった。


「隔離の提案を、拒否するとは思っていました」


 セドリックは、視線を僕から逸らさない。


「境界に立つ者は、檻を嫌う」


 リアが、一歩前に出る。


「だったら、止めに来た?」


「いいえ」


 首を振る。


「確認です」


「何を?」


「あなたが、どこまで逸脱するかを」


 胸の奥が、静かに熱を帯びる。


「……逸脱、ですか」


「ええ」


 セドリックは、淡々と言った。


「ここから先は、管理下」

「あなたが動けば、世界条件に影響が出る」


「それでも、動いたら?」


「記録されます」


 当たり前のように。


「判断材料になります」

「排除か、利用か、固定か」


 リアが、歯を食いしばる。


「人を、物みたいに」


「世界にとっては、同じです」


 セドリックは、否定しなかった。


 その正直さが、逆に恐ろしい。


「……一つ、聞かせてください」


 僕は、静かに言った。


「もし、僕がここで“何もしなかったら”」


「評価は、安定寄りになります」


「もし、誰かを救ったら?」


「不安定寄りです」


 即答。


「……じゃあ」


 空を見る。


 雲が、速く流れている。


「もし、僕が――」


 一拍、置く。


「**救いながら、壊さなかったら**?」


 セドリックの目が、わずかに細まった。


「……理論上は、あり得ません」


「理論上、ですね」


 小さく、息を吐く。


「じゃあ、試します」


 セドリックは、すぐには答えなかった。

 数秒の沈黙。


「……興味深い」


 それが、彼の評価だった。


「では」


 一歩、下がる。


「あなたの“次の行動”を、見せてください」


 合図のように、地面が微かに震えた。


「……来たわ」


 リアが、低く言う。


 関所跡の奥。

 管理区域のさらに内側。


 歪みが、膨らんでいる。


 制限区域より、濃い。

 地下水路より、深い。


 ――止めれば、歪む。

 ――止めなければ、被害が出る。


 だが。


 ここは、境界の外。

 檻の外側。


「……リア」


「分かってる」


 彼女は、頷いた。


「今回は、あなたのやり方で」


 一歩、前に出る。


 胸の奥が、ほどける。

 でも、力は――流さない。


 触れない。

 押さえない。

 壊さない。


 ただ、**繋ぐ**。


「……ト」


 声は、ほとんど出ていなかった。


 地面が、わずかに脈打つ。

 歪みの“端”が、周囲と噛み合い始める。


 世界が、抵抗する。

 条件が、軋む。


 それでも――


 破裂しない。

 崩れない。


 歪みは、縮んでいく。


「……記録値、異常」


 背後で、セドリックが呟く。


「条件安定度……回復?」

「介入ログ……不完全」


 彼の声に、初めて戸惑いが混じった。


 歪みは、消えた。


 何も、壊れていない。

 誰も、傷ついていない。


 風が、静かに吹く。


 世界は、平然としている。


 僕は、ゆっくりと息を吐いた。


「……これが」


 振り返る。


「境界の、外側です」


 セドリックは、しばらく黙っていた。


「……記録します」


 やがて、そう言った。


「前例なし」

「再現性、不明」


 視線が、こちらを捉える。


「あなたは……」


 一瞬、言葉を探すように。


「**分類不能**だ」


 それでいい。


 分類されない。

 管理されない。

 排除も、利用もされない。


 簡単じゃない。

 きっと、これからも危険だ。


 でも。


 境界を越えた音は、確かに鳴った。


 静かで、小さくて、

 それでも――


 世界の奥まで、届く音だった。


 物語は、ここで一区切りだ。


 だが、終わりじゃない。


 **境界の外で生きる話は、ここから始まる。**


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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これからもどうぞよろしくお願いします!

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