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アナザーロール  作者: 清澄 武
第1章 旅立ち編
9/61

9 決着


「ほーーーーーっほっほっほ! 勝負ありましたねえ!」


 攻撃がヒットし、緑の悪魔が高らかに笑う。


 しかし勝利の余韻よいんも束の間、カマキリ男の目の前からゼロの姿がきりのように消えていく。


「なっ……! 残像……だと!? ヤ、ヤツはどこへ……」


 ゼロの姿を探すべく、カマキリ男が顔を横に向けた瞬間。


「じー」


 カマキリ男の肩に立ったゼロが、怪物の血走ったまなこをのぞきこむ。


「ぬわあっ!?」


 少年と目が合った瞬間、カマキリ男が後ずさる。


 そのはずみ、ゼロは悪魔の肩から軽やかに飛び降りて、怪物の足元に着地する。


 少年は何事もなかったかのように怪物を見上げて。


「いままでの戦いでわかった」


 そこまで言うとゼロは怪物を指さす。


「お前、A級悪魔の中でも結構強いほうだな」


 それは本心からの言葉。今までに数多くのA級悪魔を倒してきたゼロだが、このカマキリ男という相手は、その中でもそこそこ強い部類だった。ゼロとしては純粋に相手を称賛しょうさんしたつもりだったのだが……。


 悪魔はほおをピクピク震わせ。


「なめるなあーーーーーーーーーッ!」


 怒りに顔を歪ませた怪物が、巨大な足で蹴りつけてきた。


「――!」


 散々、上段攻撃を放った末の、不意打ち的な下段攻撃。唐突な攻撃パターンの変化に、ゼロは、まるで反応できない。無防備な腹に、緑の足裏がクリーンヒットする。


 ゼロの、はるか後方、クレーターの向こう側にいるサーニャの顔がサッと青ざめる。少女の視線の先で、少年の背中が浮かび上がる。


「まずい! モロだわ!」


 体重60キロのゼロの体は、その重さを感じさせない恐ろしいスピードで、はるか彼方かなたへ吹っ飛ばされる。受け身も取れずに背中から大地に叩きつけられる。全身に衝撃。華奢きゃしゃな体が、地面を勢いよく転がる。さんざん大地を転がった後、その体は次第に減速し、クレーターに落ちる寸前でやっと止まった。静止した少年は、仰向あおむけに倒れたままピクリとも動かなかった。


「おっと残念。ホールインワン賞は、おあずけですねえ」


 嫌味な顔で、くつくつと笑う怪物。攻撃が命中したことで、怪物は上機嫌だった。


 そのとき、クレーターのふちに倒れている少年の指先が、ピクリと動く。


「ほほー。あの攻撃を受けてまだ息があるとは。人間の分際ぶんざいでタフですねえ。しかし大ダメージは確実。ひとおもいに殺してあげましょう」


 怪物はゼロにトドメを刺す気らしい。


 と、倒れているゼロがムクリと体を起こり、無言で立ち上がる。


 倒れたはずみに服に土や砂がついてしまったようだ。パンパンと払って衣服をきれいにする。念のため全身を確認する。とくに漆黒のマントを入念に。


「よかった、やぶれてない」


 お気に入りのマントにキズが無くてホッとする。


「バ、バカな! なぜ立ち上がれる!?」


 渾身のケリをモロに食らっても、少年はピンピンしている。


 カマキリ男のカマ先が震える。


(震え? この私が?)


 カマキリ族のエリートは、たった一人の人間ごときに恐怖していた。


「ふざけるな! おのれ人間ごときが! 後ろの娘もろとも消し去ってくれるわッ!」


 恐怖をかき消すように、カマキリ男は全身を怒りで塗り固める。その全身はワナワナと震え、今にも飛びかかってきそうだ。


 その時。


 ゼロは怪物に向かって、無言で右手を突き出す。


 今まで攻撃らしい攻撃をしなかったゼロの異変。悪魔はピタリと動きを止める。


「なんだ? あんな遠くから、なにをする気だ?」


 不審がる怪物に対して、ゼロはなにもしない。構えたまま、ただじっとしているだけで、次の行動に移らない。


(ふん。奴はおそらく魔法使いではない。であればあんな遠くからできることなど、なにひとつ無い!)


 悪魔は笑う。


「クックック。ハッタリ野郎め。冷静に考えればキサマはさっきから逃げ回っているだけ。どうせまともな攻撃など、できんのだろう?」


 そして見下みくだすような目を少年に向けると、続ける。


「そもそも私の防御は鉄壁! 人間ごときの攻撃では、キズ一つつけられんぞ! さあ、やれるものならやってみなさい! ほーっほっほっほ!」


 勝ち誇ったように笑うカマキリ。


 ゼロは冷静な口調で。


「そこ、間合まあいだぞ」

「……あん?」


 その瞬間、ゼロの右手が光り輝く。手のひらから鈍く輝く剣先が現れ、空に向かって斜めに伸びる。剣は、一瞬のうちに少年の背丈を超え、さらに怪物の背丈さえもあっさりと超えてしまった。


「なにいっ!?」


 驚愕する怪物。超巨大サイズに成長した剣は、怪物の視界を完全にさえぎる。


 巨大なカマキリ男の、さらに数倍はある超巨大な塊が、空に向かって斜めにたたずむ。


「バ、バカな! なんだこれは!?」


 鈍く輝く銀色の塊は、先端が鋭利えいりにとがっている。その下には刀身が続き、さらに下はつかになっていた。


「こ、これは……剣!?」


 目の前の巨大物質が剣であることに、怪物はやっと気づく。


 それはデタラメに大きな剣。あまりにも巨大すぎて一目見ただけでは、それが剣であることに気づくことさえ難しい。


 超巨大剣は太陽の光を完全にさえぎり、カマキリ男の全身を闇のような影で覆い隠した。


「勇者の剣ッ!」


 ゼロの叫び。同時、剣がカマキリ男の全身に襲いかかる。まるで規格外のその武器に、カマキリ男は、なすすべもなく、剣の下に姿を消していく。


「ぐわーーーーーーーーーーーーーーーっ!」


 草原にこだまする怪物の絶叫。


 勇者の剣が作り出した、すさまじい風が、草原のかなたへ駆け抜ける。


 剣は大地に接触していない。叩きつけてしまうと草花がつぶれるからだ。ゼロは勇者の剣の根元を片手で持ったまま、宙に保持している。


 すると巨大な剣が、突然、煙のように消えていく。剣が完全に消滅すると、つぶされたはずのカマキリ男は見当たらない。かわりに、さっきまで怪物がいた場所には、キラキラと光り輝く、手のひらサイズの玉が落ちていた。


「ウ、ウソでしょ!? A級悪魔を、たった一撃で!」


 サーニャがクレーターの向こう側で驚いている。


 ゼロは、大地に転がる光り輝く玉に小走りで近づき、満面の笑顔でつかみ取る。むんずと握られた玉が、手の中でキラキラと輝く。


「ヒャッホーゥ! 本日、二個目!」


 嬉しさのあまりピョンピョンと飛びはねる。勝利の喜びを満喫まんきつすると、玉を握った手を背中にまわして、マントをガサゴソ。しっかりと中にしまう。せっかく手に入れたのに落としてしまったら台無しだ。


「さーてと、パドの街に帰るか」


 漆黒のマントをはためかせながら、ゼロは、ものすごいスピードで、その場を後にする。


 そんな少年の背中を、遠目に見つめるサーニャ。


「な、なんなの、あのとんでもない強さ……」


 A級悪魔をたった一撃で倒した少年。それは、どう考えても人間の戦闘レベルを超えていた。ゼロのことが気になるのか、少女は、うーんと頭をひねる。


 と、サーニャが考え込んでいるほんのわずかの間に。


「って、もういないじゃない!」


 一瞬で消え去った少年にサーニャが呆れる。


「にしても、なんだったのかしら、あの力……。あたしの使う魔法とも違うみたいだし。……でも、とんでもなく強いことは確かね。あの力の秘密を解き明かせば、もっとすごい魔法が作れるかも……」


 サーニャは、ゼロの立ち去った方角を見つめ。


「あの男の子、パドの街に帰るとか言ってたわね。……よーし」


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