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……皆がここにいるのなら、全世界を敵にしたって構わないのです

 私じゃない私さんにもこんな優しさが……。

「すぃー? ほんとに? いいんですかいな。」

 いちごが嬉しそうに言った。

「ありがとうございますっ! いちごの部屋でいいんだよな。」

 乙女くんも嬉しそうな顔をしてそう言ってくれた。

「では、ワープしますぞ。」

 私が頷くと、いちごの部屋の前にワープした。でも私じゃない私さんの優しさを見れたし、リンくんのことなんかどうでもよくなるよね。

「王様、ありがとな。」

 乙女くんはいつもと違い、女の子らしく可愛らしく笑った。

「お姉ちゃん、ほら入って♡」

 いちごだって、いつもより更に可愛らしく笑っている。

「じゃあ、私も部屋に戻るね。」

 そう言うと私は私に戻った。ああ、お腹空いて来たな。私はさっさと部屋に戻り、パンを食べ始めた。少なくなってきたし、そろそろ仕入れないとかな。

「王様、いらっしゃいますか?」

 ノックの音と女性の声が聞こえてきた。この声は……、愛華くん?

「うん、いるよ。何か用かな。」

 私は今持っていたパンを食べ切りドアを開けた。

「書類を纏めて来ました。」

 やっぱり愛華くんだ。ってうわ! 書類をって、……その量? めんどくさっ。

「あ、ありがとう。……ご苦労様。」

 私は書類を受け取り机の上に置いた。

「あの、王様。何か新しい作戦をしようとしているんですか? いちごさんがそれらしきものを書いていたのですが……。」

 いちごが? あっそだ。愛華くんに伝えるんだっけ。なんか上手くやったんだね、さすがはいちごって感じ。でも思いっ切り探る気満々だよね。

「あっ、あのね。蘭くんを攫おうと思うの。作戦なんてものじゃないよ。」

 蘭くんを攫うとだけ言うと、何だかただの変態みたいだね。

「……あっ、なるほど! では、失礼しました。」

 少し考え、何かが分かったのか礼をして部屋を出て行った。これは効果大だ。さすがいちごだね、何をしたんだか分からないけどさ。まあそれよりも、この書類の山だよね。今の時間は11:46だから、夜までには間に合うかな。

「雄哉、入るわよ。」

 半分ちょっと終わった頃に、、部屋にいちごが来てくれた。どうしたんだろ。

「愛華はどうだった?」

 心配にでもなったのかな。

「バッチリだよ。あの様子なら大丈夫じゃないかな。」

 でも確認だったら、わざわざいちごが聞きに来る意味ないんじゃないかな。

「もう、大丈夫みたいね。分かったわ、ありがとう。じゃあ、頑張ってね。」

 何かに安心したような、いちごはもう部屋を出て行った。疑問には思ったけど私は、いちごなら悪いことじゃないと思い気にせず仕事を続けた。今日も含めて4日は特に何も起こらなかったので、仕事がよくよ~く進んだ。

「どうも、久しぶりですね。ゆうやん☆」

 息抜きに散歩していた時、目の前に妖精が現れた。

「ひなのこと覚えていませんか? ほら、伝説の戦士の妖精ですよ。ずっと怪しいとは思ってたんですけど、本当にゆうやんが悪世界ダークワールドの王だったんですね。」

 ひな……? 戦士の……? えっと確か、雛乃くんだっけ。

「でも雛乃くん、若いよね。雄哉のこと知ってるの?」

 なんか変だね。私は私なのに、私のことじゃなくて雄哉のことって言っちゃったよ。

「それくらい知ってますよ。ひなをバカにし過ぎです。」

 あれ、雛乃くんはもっと子供っぽいイメージあったけど。表と裏みたいなのかな。

「そうか、それはゴメンね。で、私に用があるのかな。」

 まあ、何も無いんだったらこんなところに来ないよね。

「はい、ゆうやんにお願いがあります。華世界フラワーワールドのこと、見張っといて欲しいんです。」

 華世界を、見張る……? どうして。

「よく分からないんだけど、詳しく説明して貰えるかな。」

 私も言おうとはしたけど、まだ言ってはいないよ? ってことは、久しぶりに私じゃない私さんが来ちゃったってことか。

「秘密の話だったりするのかな?」

 でも理由も言えないようだったら、私に頼むなんてする訳ないよね。だってそんなの、私が引き受ける訳ないもん。

「いいえ、違います。別に隠すようなことではありませんよ。」

 秘密の理由は別にないのね。だったら何なんだろう。雛乃くんが私に協力を求める華世界のこと。

「みきたんが何か、何かをしようとしてる気がするんです。でもひなは、ずっと見てはいられませんので……。ゆうやんにお願いします。」

 みきたんってのは美希くんのことだよね。

「何で私に? 他の人に頼めばいいじゃん。」

 それは確かに思うかも。

「考えてもみて下さい。ひなは伝説の戦士の妖精ですよ? 華世界を信じる心が100%でなければならないのです。でもみきたんのこと、気になりましたので……。この世界が1番、噂とかも広まることが無さそうですし。」

 ふ~ん、なるほどね。やっぱり雛乃くんが子供っぽかったのはただのキャラなの? 蘭くんと同じ。

「じゃあ華世界というより、塔に見張りを付ける感じ?」

 えっそのお願い、受けるつもりでいるの!? 意外だね。

「う~ん、多分それでいいと思います。ゆうやん、ありがとうございますね。」

「ちょっと待ってて、伝えたらすぐ戻るから。」

 そう告げて私はどこかへ小走りで向かう。

「何? 何? どうしたの? です!」

 佳子くんか。でも佳子くん、何でそんなに嬉しそうに私を見ているんだろう。

「華世界にある魔王の塔を見張って貰ってていいかな。何か怪しいんだよね。つまんない任務だけど、やってくれる?」

 その任務、つまんないからやんない! 何て言う人普通いないでしょ。

「やるやる……です! だって王様、全然ケイに頼んでくれないんだもん……です!」

 ああ、確かにね。あんまり佳子くんに頼むことはないかも。

「ごめんごめん。まあ、頑張ってね。」

 でもそんなどうでもいい任務、優秀な人を使うのは勿体無いもんね。

「了解……です! 塔で待ってくからね? です! 任務終了の時は、忘れずに迎えに来てよね……です。じゃあ、行って来る! です!」

 佳子くんがワープしたのを確認すると、私は雛乃くんのところに戻った。でも佳子くんの迎えって、絶対覚えてる訳ないよね。

「随分待たせてくれましたね。まあいいでしょう、何をしました?」

 何をって、どうゆうことだろう。それに折角雛乃くんの為に動いてあげたのに、随分待たせてくれたってそれはないんじゃないかな。

「誰をどこにつけてくれましたか?」

 言い方を変えてくれたけど、そんなことを雛乃くんが知ってどうするのさ。

「塔の見張りに佳子くんを送ったよ。」

 正直に言ったね。ちょっとビックリしちゃったよ。

「1人ですか?」

 雛乃くんは、少し不満そうに言った。何だよ、折角送ってあげたってのにさ。

「まあ1人でも構わないのですが……。もう少し人数が多いと思いました。」

 何でだろう。ただの見張りなんだから、別に人数は大丈夫だよね。確かに1人だと、その1人が寝てる間とか何かあったりしたら無理だけどさ。

「だって見張ってるだけならさ、1人いれば十分じゃない?」

 十分ではないかもしれないけど、十分だよね。

「それもそうですね。では、何かあったら蘭ちゃんに行って下さいね。」

 蘭くんに? 何でだろう。何でわざわざ、雛乃くんじゃなくて蘭くんに伝えなきゃなんないのさ。

「蘭ちゃん、みきたんのことがとっても心配みたいなんです。」

 私は聞いていないのに、質問にしっかり答えてくれた。でも蘭くんにも話さないで、美希くん1人で何かしようと? 多分、そんなの怖くも何ともないよね。だから逆に蘭くんが心配するってことか。

「だからゆうやん、蘭ちゃんを安心させて下さいね。じゃあ、ひなはもう行きます。まだ学校の途中ですので。」

 そう言って雛乃くんは転移した。学生なのか、学校か……羨ましいな。雛乃くんは確か人間世界の学校に、わざわざ通ってるんだったよね。大変だろうに……。

「あっもう1つ忘れていました。」

 転移の光が発生し、再び雛乃くんが現れた。めんどくさいよね? どうしたんだろう。

「ゆうやんは堀越亜夢って人知ってます? ちなちゃんやみきたんが言ってたんですけど……。有名な偉い人ですか?」

 堀越亜夢? 知らないね、聞いたこともないよ。

「多分、彩世界カラーワールドの……どっかの地域の領主だったと思うよ。それが何か?」

 知ってるの? えっ、何でそんな細かいとこの人まで。各世界の姫と王くらいは知らなきゃだけど、彩世界の何とかエリアのとかは最早ただの社長さんとかと変わんない程度じゃん。

「彩世界? そうなんですか。じゃあその人と華世界が関わった情報とかありますか? でもひなの勘では、華世界にとってあまりよくない存在だと思うのですが……。どうです?」

 他世界同士の関わり的な情報は、この世界にあんま入んないんだよね。

「聞いてないよ。彩世界と華世界の交流は、お世辞にも盛んとは言えないような感じだって。私はそう聞いてる。」

 彩世界はどこの世界とも関わらないイメージあるけど。

「ひなもそうだと思っています。彩世界の領主なんだったら、華世界と交流するとしてもただの罠っぽいですよね。」

 そうだね。悪いけど彩世界のこと、信じる気にはなれないよ。

「罠には乗っといた方がいいよ。それと、亜夢くんのことも調べておく。」

 へえ、妙に協力的じゃん? 私じゃない私さんにも、何か気になることが……?

「本当ですか? 本当にありがとうございます。でもやっぱり、”今のゆうやんも昔のゆうやんと変わらない。いえむしろ、今の方がとっても優しいと思います”。」

 今の方が優しい? つまり私は、皆に慕われるキャラを作っていたのに。それなのに、好きなようにやっているだけよりも酷いっていうの? そんなの、昔の私を知らないから言えることだよっ! バカにしないで。

「そうかな、それはありがと。」

 でも私はそう言った。私の気持ちは言葉にならない、顔に出ることもないんだ……。まあそれは、いいことと言えるかもしれないけどさ……。

「皆悪世界の王は最低だって思ってるみたいですが、やっぱりそんなことありませんでした。ゆうやんはゆうやんです。」

 私は私? 私じゃないのに? 何言ってるのさ。

「ふふふふ、残念だね。悪世界の王が最低なのは本当だよ。私は雄哉じゃないから。」

 そ、私じゃないから。でもさ、妙に正直だよね。

「いいえ、いくら操られていてもゆうやんはゆうやんです!」

 操られていても? 何を言っているのかな。

「知ってたの? ねえ、どうして……。」

 あら、ビックリなさってるのね。私じゃない私さんすら驚かすとは、相当な子なんだね。

「だから、ひなをバカにし過ぎですって。それくらい知ってますよ。」

 それくらいって、えっ? でも。

「何で知ってるの? どこまで知っているの?」

 私の疑問は私の口から出て来た。でも手は動かせないから、私じゃない私さんが同じことを思ったってだけだね。

「ひなは結構情報を持っているつもりですよ? ゆうやんを操ってる正体くらいまでなら、大体は分かります。」

 私じゃない私さんの正体が分かるってこと? えっ誰なのさ。教えて欲しいんだけど。

「そっか、それは大変だ。じゃあ私も注意しないとかな。」

 私じゃない私さんも注意しないとだけど、私自身だって注意した方が良さそうだね。

「はい! もっとも~っと、ひなを警戒した方がいいですよ。」

 イメージ通りの可愛らしい子供っぽい言い方で、雛乃くんはそう言ってくれた。雛乃くんか……、確かに気にしてなかったね。

「分かった、そうするよ。」

「では今度こそ、ひなはもう行きますね。」

 転移の光が発生し、雛乃くんが消えてしまった。でも雛乃くんは本当に、裏なんてなさそうだったんだけどな。分からないね……。私はそのあと私に戻して貰える。だからそのまま散歩から帰ろうとしていると、陰で何かをしている子供を見つけた。あんなところで何やってるんだろう。

「そこで何やってるの?」

 不思議に思ったから近付いて行って、私は声を掛けてみた。

「あれ、もしかして……蘭く」

「何よ、どうかしたの?」

 えっ蘭くんだったの? 私まだ攫ってないよ。

「いや、それはこっちのセリフだよ。こんなところでどうしたの。」

 超怪しいんだけど、何してたんだろう。

「どうしたのって、しょうがないじゃないの。いちごに連れて来られたわ。」

 えっ、いちごが? もう連れて来たんだ。

「でも何でこんな所にいるの? 普通なら逃げないようにしとくんじゃないかな。」

 蘭くんみたいな子、目を離したらすぐいなくなっちゃうでしょ。何でこんな所にいるんだろ。

「すぃー、王様? あっ、蘭を連れてきましたぞ。」

 いちごがテクテク歩いて現れた。

「檻を掃除している間、ここにいて貰ったんですぞ。魔力がないのだから、逃げられませんしな。」

 魔力がないって……? どうしてだろう。

「私は今、魔法を使えないってことよ。」

 だから放っておいても逃げるのは困難なんだね。それにこんな世界だからさ。

「まあもう綺麗になったから、早く来て下さいな。」

 いちごは城の後ろに回り、隠しドアを開いた。そしてそこに飛び込むと、私達を呼んだ。地下の奥深くまで長い階段を駆け下りて、奥の方へといちごはどんどん歩いて行く。どこに向かっているの?

「蘭、ここにいて貰いますぞ。」

 何これ。変な森みたいな……。でも地下深くにどうして? こんなのあったっけな。

「何よここ。貴方、檻を掃除って言わなかった?」

 うん、蘭くんの言う通りだと思うよ。檻なんてないじゃん。

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