愛は負けないんだと僕は思う
「待っていましたよ。」
すると、そこにいた少女にいきなりそう言われた。待っていたってどうゆうこと? てか誰? 会ったことある人かな……。
「すぃー? どうゆう意味ですかいな。」
何か、不思議な少女だね。子供っぽくて可愛らしい顔には、悲しげな微笑みが浮かんでいる。でもなぜかその表情は、少女にとても合っていて……。って、このままじゃ警戒していちごが楽しめないじゃん。
「貴方達がここで苦しんでいる夢を見たのです。それで、助けたくて……。」
私達が苦しんでいる、夢……? どうゆうことなのさ。
「さっぱり分かりませんぞ。ちゃんと説明してくれませんかいな。」
まあいちごでも分からないんだったら、私が分からなくてもしょうがないよね。
「この場所で、幼い場所からずっと遊んでいたこの場所で。誰かを嫌な気分にさせたくないんです。だから、助けに来ました。」
え? 私は嫌な気分になんて……。あぁあ、意味分かんないや。
「そもそも、私達が苦しんでいる夢って何ですかいな。」
本当だよ。夢を見て、夢に出た人を助けたいなんて……。普通思わなくない? 意味分かんないよね。
「詳しくは分かりませんが……。貴方の雰囲気? みたいなのが急変して、そちらの方が悲しそうな顔をしていました。時間は、今日の18時19分です。」
私が急変して、いちごが悲しむ? 大体……5分後に? どうして。
「それって、未来を見たってことですかいな。」
てことは、もしかして……!? まさか愛世界になっても、星世界の地だからって動かなかったとか? いやでも、もっと若そうか。
「私の種族が分かったってことですか? しかし私の能力は、そんなに便利な物ではありませんよ。あまり役に立ちませんし……。」
月明りに照らされた少女の影が妖しく揺らめいた。
「そうだ! ねえ、私達を助けてくれるって言いましたよな。」
いちごの目がギラリと光った。何をするつもりなの? ある意味楽しそうだからいいんだけどさ……。
「ええ、言いましたよ。」
「なら、悪世界で働いて下さいな。私を……助けて下さいな……。」
いちごの言葉を聞くと、なぜか少女は嬉しそうに笑った。
「ええ、お助けします。悪世界で働きはしませんが、悪世界を甘世界に戻す為になら働きます。全力でやらせて戴きます。」
悪世界を甘世界に戻す、か……。そうしたら私も、『最高の王様』に戻れるのかな……。
「え、あ、すぃー。そんなこと頼んでいませんぞ。」
今は楽にしてもいいんだよ? いちご、縛られなくてもいいんだよ。
「いいえ、確かにそう頼まれました。目が訴えてましたもん。」
ああそうだね、さっきのいちごの目はそうだったよ。珍しく顔に想いが表れてたよ。これが想い出の丘の力かな。
「私は貴方の願いとして、働かせて戴きますので。でも本当の意思の確認が出来て良かったです。きっと私が……助けてあげますからね……。」
ありがとう、私はそうお礼を言おうとした。でも私の口から出て来たのは違う言葉だった。
「いや、君の助けは必要ないよ。」
いつの間に!? 私は私じゃない私になり、私の意志で私の体を動かすことは出来なくなった。でも今日は、この時間は私は私でいさせて貰える筈だったじゃん。
「王様、久しぶりですなー。」
いちご!? もう涙目だよ、大丈夫? ……ん? 私が急変して……いちごが悲しむって……、こうゆうことか。
「間に合いませんでしたか。またあとでお会いしましょう。」
少女は月光に溶けて行った。転移でもワープでもない移動方法? それも特殊な物なのかな。
「いちご、あの少女は知り合い?」
「いや、私も知らない子ですぞ。」
ー葵の彼女だった気がするわ。よく知らないけど多分、瑠美って名前だった気がするー
口ではそう答えたが、テレパシーでいちごはそう伝えてくれた。って、葵くんの彼女!? ビックリだよ。彼女いるんだ……。
「まあいいや、こんな所にいないで帰ろう。」
えっ? ヤダよ。いちごを楽しませてあげたかったのに……。帰りたくな~い~。
「すぃー、了解ですぞ。悪世界までですかいな。」
私が微笑むと、悪世界にワープされてしまった。
「王様、こんな時間にどうしたんですかいな。」
ほんとだよ。嫌がらせのつもり? 信じらんない、迷惑極まりないね。人の体勝手に使ってるくせに、生意気なんだっつの。
「どうしたって何かな? 別に深夜でもないし、いいでしょ。」
可笑しな時間ではないけど……。この時間だったらいつも、私に戻して貰ってるよね。
「何かやりたいことでもあったんですかいな。」
今日中にやっておきたいことが……? 何だろう。
「雪くんにアイテムを……。」
あっそれだったら、私がもう貰っちゃってるじゃん。いちごが持ってる筈だよね。
「すぃー? ああ、そうなんですかいな。私はそんな話しりませんぞ。知らせてくれてもいいんじゃないですかいな。」
いちごは不機嫌そうにした。絶対知ってるよね、だって私がアイテム渡したもん。
「あれ? 教えたと思うけどな……。まあいいや、地獄にワープお願い。」
「ん、すぃー。了解しましたぞ。」
嫌である筈なのに、いちごは嫌な顔1つ見せなかった。そして地獄なんかにワープしてくれる。
「雪くんはいるかな。」
私は近くにいた鬼に問い掛けた。
「雪様ならもう、とっくに家に帰ってしまわれましたよ?」
そっか、雪くんは別に地獄に住んでる訳じゃないもんね。
「いちご、鬼雪山に。」
「すぃー。」
多少悲しそうな声だったね。でも今のいちごの変化は、多分私じゃないと分からないレベルの些細な物。そして私達は暗闇にワープした。でもさっきはこんなに暗く無かった筈。想い出の丘と距離は無い筈なのに、月だって全く見えなくなってる。
「随分と暗いね。何も見えないよ。」
「当たり前でしょうぞ。今は夜ですからな。」
まだ夜って言うほどの時間ではないと思うんだけどね……。
「それに鬼雪山に、光は届かない筈でしたから……な。」
えっそうなの? 光が届かないって、どうして雪くんはそんなところに。
「いちご、明かりを付けて。」
五月蝿いな、いちごは道具じゃないんだから。それもいちごは私のであって、お前のじゃないっつの。私の口で言ったって、それは変わらない事実なんだから。
「すぃー? 闇属性である私に、光属性魔法を使えと言うんですかな。」
さすがのいちごでも反対属性は難しいの? って、そんなことないよね。
「出来ないの? 光属性って、一番簡単な魔法でしょ。」
だったら自分でやればいいじゃん。まあ私には封印が掛かってるから、私自身じゃないと魔法は使えないけどね。
「そうですけど、あまり得意ではないんですよな……。」
得意じゃないにしても、十分なくらいには使えるよね。
「じゃあ、火属性でもいいんじゃない? それなら使えるでしょ。」
さすが頭良いね。でもだったら、いちごの帰りたいというメッセージを理解してあげて。どうせ、分かっててわざとだと思うけどね……。
「分かりましたぞ。」
いちごが呪文を唱えると、いちごの手の上には赤く光る小さなボールが乗っていた。いちごはそのボールを上に投げる。すると周りが明るくなり、いちごが倒れた。そうゆう手段に出たか……。
「どうしたの!?」
私はいちごに駆け寄って行った。10年以上いちごを傍で見ていた、この私の目に狂いはない。これは演技だろうね。さあて、私じゃない私さんは見抜けるのかな。
「すぃー? 大、丈夫ですぞ……。はあ、はあ。」
いちごがよろよろと立ち上がった。さすがはいちご、超演技派って感じだね。
「鬼雪山、……行ける?」
私じゃない私さんも、いちごのことは大切にしているみたい。これは効果ありと見た。
「行けますぞ。明るくなったし、行きましょうぞ。」
いちごは歩き出した。無理しないで、そう止めて貰うことを望んでいるんだろう。
「心配だしな、今日はやめとく? 日にちを変えて貰うとかしてさ。」
てか、元々今日じゃなかったよね? でもまあ、このまま忘れてくれれば嬉しいな。
「すぃー? どうゆううつもりですかいな。人のことを心配するなんて、貴方には似合いませんぞ。」
ん~、まあ似合わないよね。自分の利益の為に動くタイプだったから。だからつまり、いちごの存在が利益になるって分かってるんだね。……ったく、信頼し過ぎなんだよ。分かってるんでしょ? いちごは私と一緒にいてくれてるの。私の体とじゃなくて、この私とだから。
「いちごの心配はしてないよ。ほらもう、早くワープしてくれる?」
私じゃない! それ私じゃなくって、完全にツンデレ少年になってるじゃん。
「そうですかいな。分かりましたぞ。」
悪世界にまたワープした。結局、無駄にいちごの魔力を使わせただけだね。
「今日は何も出来なかった。でもまあいちご、疲れてるんならもう休んでいいよ。」
「そうですかいな。ありがとう、ございます……なあ。」
いちごが悲しげに微笑んで去って行った。私も部屋に戻って行く。そして部屋に入った時、私の体は止まった。私に戻ってくれたんだ。仕事するか! そう思ったんだけど、私はそのまま眠っていたらしい。
翌日私は、パンを急いで食べていちごのところに行った。
「すぃー? あっ雄哉あ♡」
いちごが私の目を覗き込み、嬉しそうに微笑んだ。ずっと一緒にいただけあって、いちごも私のことは顔を見ただけで分かるよね。
「美世界に行くの? あの……瑠美? に聞いたらどうなのよ。」
そうだよね。ウサギさん探しって言っても、昨日会っちゃったしね。
「でも、葵くんの彼女なんでしょ? いちごと葵くんって……。」
私のせいだから……会うのは……すべてが終わるまで……、待って欲しいかな。もう結構、会わせちゃったりしてるけどさ。でも葵くんに、いちごを信じて貰いたいから……。
「大丈夫よ、気にしないで。」
でも、気にしないって言われてもさ。
「えーでもさ、葵くんは……私があんまり……さ。」
えっ? 私、喋ってないよ!? いつの間に……。
「王様っ!? 全く、驚かせないで欲しいですな。」
私本人が気付いてなかったもん。さすがのいちごでも気付かないよね。
「いやいちご、驚かせないで欲しいな。」
今日は早く起きたのに、私じゃない私の人さんも早起きだったのかな。
「んで、何の話? 葵くんがどうかしたの? ねえ。」
美世界に! とか、その辺は聞いてないのかな。
「どうしたのとは何ですかいな。葵はどうもしなでしょうぞ。」
ん? ウサギさん探しのこと、いちごは隠しとくつもりなの? まあ、私からは伝わることないしどっちでもいいけど。
「え、今言ってたじゃん。何? 何の話してたの~? 内緒の話なんてずるいよ。」
「すぃー、美世界に行くかいかないかという話ですぞ。」
おお、正直に言ったね。隠す必要はないとの判断かな。
「美世界? 何で行くの? てかそれで、何で葵くんが出てくるの?」
……!? 何か……今、何かを感じた。……何だろう、これから……何かが始まる……そんな予感が……。私の頭の中に、1枚の絵が過った。私は、消えそうになるその絵を何とか掴み取る。絵はどんどん鮮明に見えてくる。そしてその絵は9つに分かれた。……これはどこ? 全部甘世界だね。私も甘世界の様子くらい知ってるさ。これはどうゆう意味? 少しだけ黒く染まっている、甘世界の各地の姿? よく見ると、プリン山に何か人影らしきものが写ってる。これは……、乙女くん? 苦しそうな顔。それも、何かに縛られている感じが。まあいいや! いちごにしっかり伝えなきゃだよね。今の私に出来ることはそれだけだから。
ーねえいちご、乙女くんが苦しんでるかも。鍵は、甘世界ねー
はあ、私のこの言葉はいちごにどれだけ届いてるんだろうか。あんまり伝わってないと思うんだよね。普通にテレパシーを使えば、恐らくさすがにばれてしまうもん。
「すぃー? あっそれはね、ウサギを仲間にしたいって話よ。」
届い、てる? 今のいちごの表情からは、何も読み取れないよ。
「えっでも、葵くんは普通に猫じゃなかった?」
「そうよ。だから葵は関係ないのよ。そもそも葵の話していないし。」
へえ、いちごは葵くんの話はしていないと。どうして? そんなことどうでもよくない? ウサギとか美世界のことは言っちゃうのに、葵くんのことだけは言わない。確かに、葵くん自身の話はしてないけどさ。説明すればいいじゃん? どうゆうことなのかな。
「それは嘘でしょ。葵くんって……とか言ってたじゃん!」
変なとこから聞き始めたね。いや逆か。こうすれば疑って、いちごと葵くんを離すかも。会わせないでおいてくれるかも。それに葵くんに目を向けさせれば、少しの間は……。
「言ってないわよ、そんなの。」
でも私ほどではないにしろ、そこそこにはいちごを知っている。いちごの様子を見て気付くか……? それともいちご、それさえも読んで策が用意してあるのか。だって口調が私と話す時みたいになってる。それも計算のうち? 分かんないな。
「そう、言ってないのね。分かった、信じるよ。」
そして遂に説得できたらしい。私じゃない私さんも、さすがにめんどくさくなってきたかな? どうでもいいもんね。
「ありがとう、ございますな。まあそんなことより、今日は何をするんですかいな。」
いちごが首を傾げたとき、世界が歪んだ。歪んだ世界の中に、1つだけ動かないものがある。これは、見たことあるな。私が考えていると、沙都子くんと海香くんが現れた。何の用だろう。神様が2人も、私のところに……? てかむしろ、この歪んだ空間はどこなの? 何なの? 今、何が起こっているの? ここは私の想像が作り出した世界なのか、それとも現実に起こってしまっているのか。私は様々な疑問を浮かべた。私のその様子が可笑しいのか、2人はクスクスと笑っている。しかし、暫くすると喋り始めてくれた。




