皆が楽しいんなら、僕はもうそれでOKだと思うよ
風
「山中さん、同じチームなんて…運命を感じますね。」
眼鏡の男性が由里に言う。
「いいえ、全然感じないわ。」
由里にはっきりと言われ、男性は凹んだ…と思ったけどすぐに立ち直ったようだった。
「ねえちょっと! あたしに名前教えてよ。てゆうか、自己紹介しよっ☆」
優花が二人に向かって言った。名前も知らないのね…。
「瞳にきらめく青い星、勇気と希望のゆかたんこと! 北条優花で~す☆えへっ☆」
優花は最後に、笑顔でウィンクまで決めた。自己紹介ってそうゆうことなの?
「私は山中由里よ。えっと…えへっ♡」
由里も最後に笑顔でウィンクを決めた。…そこは真似しなくていいところじゃないかしらねえ?
「僕は鈴木一志です。」
さすがにここは真似しなかったか。にしても、カチカチのガチガチね。緊張してんのかしら。
「ひにゃっ!!」 「きゃっ!」
三人が軽く礼をしたとき、強い風が吹いてきたのか、…由里と優花のスカートが捲れかけた。
「うぎゃあぉうわぉ!」
そして化け物の呻き声? (ちょっと違う気がする)が響き渡った。遂に最初のモンスター出現!?
「何か面白そうな声、早く行こ☆どんなモンスターが待ってるのかな。」
優花がスキップで進んで行った。ていうか、面白そうな声!?
ああ、私が何でそこまで分かるのかって? それは、全員の視線を映像に映しているからよ。で、雲の上からそれを見ているだけ。まあ、だけってことないけど…。
ふふっ、そんなのはどうでもいいわ。せっかく今から闘い始めるんだから、映像を見てましょ。
「何よ…これ…。」
3人を待っていたモンスターは、本当に恐ろしい姿をしていた。…恐ろしいってか…気持ち悪い? 巨大なゴキブリから、人間の手足が生えているような。でも口は大きくて、そっから大きな牙と…細長い舌が伸びてて…。やだあ、映像でももう見てたくない。
「ぎゃらるぅ!」
ほ、吠えてるの…? モンスターが音を発すると、下から風が出てくる魔法なのか、由里と優花のスカートが完全に捲れあがった。何その、女子に無茶苦茶嫌がられそうなモンスターは。ただでさえその見た目なのに、その魔法って…。まあ戦闘に、スカートで来るのもどうかと思うけどね。それは…いきなり闘わせた私達が悪いわ。
『いや~っ!!』
2人はスカートを両手で押さえながら、同時に蹴りを入れた。息ぴったりね、おぉ怖。
「2人とも水色ですか。」
一志、…。
「変、態!!!」
優花は、何か…強力な…まあ…赤く光る何かを放った。説明もしたく無くなるわ。
「奥義、『あなたのハートにドッキューン』を喰らえば、み~んな即死だね☆」
凄い名前ね…。その、『あなたのハートにドッキューン』は、モンスターに直撃した。そして爆発が起き、モンスターは消えていた。
「ねえ、一志…大、丈夫…?」
由里が心配そうに問い掛けた。一志も少し巻き込まれたのか、爆発ヘアーになっていた。
「いや~、ドンマイ☆」
優花、酷いわね。
「僕は大丈夫ですよ。」
髪を整え、眼鏡を直して微笑んだ。偉いぞ変態!
「箱があるよ。…開いた開いた、あははは。」
優花が笑った。本当に楽しそうな笑い方ね。王様が彼女らを利用する為のゲームでも、それでも楽しんでくれる。ましては優花じゃ、そのことを分かっているでしょうに。本人が楽しんでるんならいっか、そう思えて来ちゃうわね。罪悪感も、消えて行くわ…。あの裏表のない笑顔、私も釣られて笑っちゃうわよ。
『ステージ2 解放』
機械感のある声が、辺りに響き渡った。
林
「何で私が健人なんかと一緒に…。」
「若奈と一緒かよ…。」
健人と若奈? は、互いに悪口を言い合った。
「おいお前ら、名前は健人と若奈でいいのか?」
花恋は歩きながら、2人の喧嘩を止めた。
『うん、合ってる。君は?』
2人の声が完全に重なった。こっちも息ぴったりね。
「何で真似すんのよ。」
「こっちのセリフだ!」
似た者同士なんだね。
「私は花恋だ。取り敢えず、仲良くしろよ…。」
さすがに花恋は、優花みたいな名乗り片しなかったわね。でも花恋が仲良くしろって言うのが、何だか新鮮な気がするわ。
『だってこいつが!』
でも健人が悪口言うってのも新鮮な気がするわよね。
「きゃっ!」
言い合ってる途中で、若奈が悲鳴を上げた。
「珍しく女子みたいな声出して、どうしたってんだ?」
若奈の手が、木に噛まれていた。
「モンスターが出ると聞いてたが、木の姿なのだとしたら…どいつか分からんよ? どう闘うんだ。」
花恋が若奈を噛んでいる木を燃やしながら言う。
「熱っ!! ちょっ痛い~!」
若奈が、自由になった手をパタパタさせながら言った。
「あれ? 可笑しいな。前、風の攻略行ったんだが…敵を倒したりすると、ステージ解放とか言われたぞ?」
え!? 花恋…攻略に行ったことがあるの!?
「ミッションを達成すれば、次のステージに進める…とか? そんなんだったと思う。」
へえ、そうなんだ。…花恋は何でそんなの知ってるの? まあそれくらいは、何と無く分かるかもしれないけどさ。
「ミッション? じゃあ、それが何なのか分かればいい訳か。」
健人が周りを見回しながら言った。
「だが…風と林で同じとは限らぬしな。」
花恋も同じように周りを見回していたが、何かに気付いたのか上を見上げた。
「さっきみたいな木の怪物を倒せばいいの?」
「オレは知らねえよ?」
若奈と健人が話していると、行き成り花恋が走り出した。そして立ち止まり、地面に火を点けた。放火は犯罪ですぞ!
『ステージ3 解放』
え? どうして? どうゆうミッションだったのよ。若奈と健人に気を奪われて、肝心な時に花恋の画面を見れなかったじゃないの。あと風の方は機械っぽい女性の声だったんだけど、こっちは人間らしい男性的な声だわ。
火
「僕は坂井夏澄です、君は?」
「わたしは北条桃花だよ。宜しくね♡」
2人はのんびり歩き始めた。
でも結構…アレじゃない? だって自分がゆっくりしてると、長い間他のところにいる人たちの時間が止まっているということでしょう? 1人では絶対できないものよね。最低でも3人は必要。まあそもそも、1人でクリアできるほど簡単なミッションじゃないわよね。
「うわっ! 何よこれぇ」
桃花が飛び跳ねた。
「火、ですね。大丈夫ですか?」
夏澄が呪文を唱えて、氷を発生させた。戦士も魔法使えるのね。
「びっくりしたけど、大丈夫よ。夏澄くん、ありがとっ♡」
2人はまたのんびり歩き始めた。1つこのペースでやってたら、最後までに何時間掛かるのかしら。てか、最後ってステージいくつなのかしら。
「いえ、助けるのは当然ですよ。」
そのセリフ、悪いけどちょっとキモいわよ? もっとカッコいい人が言うんなら、マジキュンだけどさ。
「ぎゃるるるる。きゃきゃる、きゃるるる。」
どっかから、甲高い声が聴こえてきた。
「何の音だろう。」
「不快な音ですね。」
桃花と夏澄が顔を顰めた、本当に不快な音ね。
「あっ! 見つけたよ。あそこ!」
桃花が高速で呪文を唱えて、葉っぱ? を沢山飛ばした。高速で唱えることも攻撃することも、何か桃花のイメージに合わないのよね。
「僕も発見しましたよ。」
夏澄もその方向に、氷? を放った。
「きゃあるう!」
そのとき、鳴き声が大きくなった。どこか怒っているような声が辺り一帯に響き渡ると同時に、炎を纏った鳥型モンスターが桃花に突っ込んできた。
「危ないですっ!!」
夏澄は咄嗟に桃花の前に氷のバリアを、桃花自身も葉っぱのバリアを纏った。…が相手は炎、氷と葉っぱじゃ不利に決まっていた。
「まあ、私のバリアが燃えて来ちゃってるよ…。」
桃花は何でそんなに暢気なの?
「僕のバリアは融けてますね。…どうしましょう。」
ホントに何でこの人達は、そんな冷静でいられるのよ。あんなの、焼け死ぬわよ?
「しかし相手は炎なのでしょう? ふふふ、氷属性は水魔法も得意なんですよ。」
それは…そうね。氷属性魔法と水属性魔法は、スペルもコツも似たようなもの。それに水なら、炎にも効果ある筈…! へえ、それで冷静だったのね。
夏澄は呪文を唱え、攻撃とも言えない量の水を出した。そして、凄いドヤ顔で決めた。でもいくら炎属性モンスターとは言え…そんなコップの水程度じゃあ、死ぬ筈ないわよねえ。てかそんなのじゃ、ダメージも受けてないようなものでしょう?
「何、ですって!? 嘘でしょう? 無敵じゃないですか。」
夏澄は驚いた顔で1歩下がった。いやいや無敵って、あの量で死ぬと思ってたの? そんなに弱けりゃ葉っぱのバリアに燃え移ったりしないわよ。…てか本当に、それが切り札だったのね。
「じゃあわたしが、風属性魔法を試してみる。」
待ちなさい! よほど強力じゃないと、風は火を強くしてしまうわ。
「あなたのハートにどっきゅ~ん!」
桃花も、優花が放っていた赤い何かを放った。優花なら似合うけど、桃花じゃ似合わないわね。…ん? …って、あれ…風属性魔法だったの!?
「きゃるるる、きゃあ。」
赤い…まあ何かを喰らった鳥は、赤い光に包まれ赤く光り、やがて光と共に無くなった。
「僕は君が活躍するために、あえて倒さなかったのですよ。」
絶対に嘘よ。
「そうなの? ありがとう♡」
桃花は優しいからそう言ってるの? それとも素直だから信じてるの?
『ステージ4 解放』
低い声でそう聞こえた。機械の女性的なの、人間の男性的なの、獣の呻き声的なの。何でわざわざ、全部全然違うんだろう。




