人々の屍を超えて、争いの果てに手にした平和なんて…僕はいらないよ
「え? …誰!?」
…いちごが警戒したような、でもどこか嬉しそうな声で叫んだのです。
「いちご…それ…。」
…葵が震えながら言ったのです。
「すぃー? 葵ですかいな。どうしてこんなとこに来たのか、私には理解できませんぞ。」
…結びかけのツインテールのまま、いちごは涙目で駆け寄って来たのです。
「葵、殺されたいんですかいな。すぃー。」
…ここから悪世界にばれることないんだろうし、本音で話せばいいではないですか。…それとも、私達が邪魔なのですか?
「いちご、それ、まだ持っててくれたんだね。」
…葵がいちごに手を伸ばし始めたようです。…それってのが何だかは知らないけど、葵がいちごのことを分かってくれるならなんだっていいのです。
ー今も近くに、悪の者がいるわ。一応私達を、2人きりにして貰えるかしらー
…口調は違うけど、この高い声はいちごですね。…しかし、悪の者とは何なのですか?
「葵、いちごとゆっくり話すといいなの。みるくたちは地上に出てるなの。」
ー希や由里、と…健人? あと霞様も? まあ私が攫ったりした人を、助けて欲しいわ。私からは流石に渡せないの、だからお願い。誰も怪我しないうちに…。彩世界の、黄雷エリアに、いるから…ー
…いちご、ありがとうなのです。…教えて貰えなきゃ、そんなの見つからなかったですよ。
「あっ、ちょっと待って! 帰りはどうすればいいの?」
…葵なら出れると思うですよ。
「すぃー、帰しはしませんぞ。」
…いちごは何の為に、そんな事を言ってるのです? …理由が分からないのです。…悪の者って奴のせいなのですか?
「あうっ。やっぱまだ、いちごと2人は…怖いよ…。いちごは悪くないって、分かってるんだよ?でも…でも…!」
…葵が私のドレスの裾をつまんで、見上げて来たのです。…可愛いですぅ♡
「なら、…怖いなら、貴方も一緒に逃げればいいんじゃありませんかな。す、すぃー…。」
…いちごが笑顔を歪ませたのです。…結局私達は、どうすればいいのです?
「3人も、僕と一緒にいてよ。…僕だけ…置いてかれるみたいだよ。あはは…、いちごのこと…信じたいんだけどな…。」
…葵は頭を掻いたのです。
「すぃー、信じようとしても無駄でしょうなー。だって葵は、何度もそれで騙されてるんですぞ?いいかげん、脳が学習してくれますからな。」
…さっきから、いちごはどうしたいのです? …全くもって意図が読めないのです。
「私達はこれから予定があるの。『寂しがり屋の葵ちゃん』に付き合ってるほど、暇ではないわ。」
…蘭が言ったのです。…よう意味が分からんです。
「何でおいらたちの秘密の部屋に、こんなに人がいるんでい?」
…少年が出て来たのです。…誰です?
「乙女姉様!? じゃあ、ありませんな。誰かいるんですかいなー。」
…乙女姉様? ですか。…しかしその、乙女姉様? は薄れて消えたのです。
「ひゃひゃひゃっ! 久しぶりだなあ!」
…みるくがキャメルに変身したのです。…さっきの少年は、その為に出たのですか。…だってあの少年が出たとき、少しいちごに乱れが生じたですから。…しかし、どこかで見たことのある姿ですね。
「オレはくるみだぜぃ。華世界攻略隊長だぜぃっ!!」
…やはりそうですか。
「いちご、お前ぇ裏切り…いや、初っ端から大王に従う気がなかったのかぁ?」
「それは違うっ!!」
…みるく…くるみが言うと、少し重なるようにいちごが叫んだのです。
「愛華たちと一緒に、大王を狙っ「違うわよっ!!」…うっせーな。」
…くるみのセリフの途中で、いちごは大きく首を振って叫んだのです。
「うん…んー。ん、僕分かったかも!」
…葵は何が分かったのですか?
「だって人質の場所、教えやがったじゃねぇかよぉ。やっぱ「狙ってないもんっ! 私が止めたのよっ!! 私が防いだじゃないの!」…うっせーってば。」
…いちごが叫んで更に大きく首を振ったため、ツインテールは解けてゴムが下に落ちたのです。
「何だぁ、これぇ。」
…くるみがそのゴムを拾ったのです。
「ダメッ! それは…。」
…いちごは唇を噛みしめたのです。…その子供っぽい顔なら、頬を膨らませた方が似合うと思うのです。
「…いい加減にしろ。」
…葵が呟いたのです。
「何か言ったかぁ!? ひゃはははは!」
…その笑い、私には恐ろしいのです。
「…いい加減にしろって言ってんだよ!!」
…葵は叫び、高速で呪文を唱え始めたのです。
「…!?…う…ぐ…あぁ…。」
…くるみが苦しみ始め、少しするとみるくに戻り、もう少しして…消滅してしまったのです。
「みるくが、あのくるみだったなんて…。」
…蘭が乾いた声で呟いたのです。…そうですか。…蘭は華世界で戦ってたですから、くるみのことも見たのですか。…もしかしたら、闘ったこともあるかもです。…両方とも、凄い暴れっぷりだったですし。
「いちご、大丈夫?」
…葵がゴムを拾い、いちごに手渡したのです。
「ありがとう、ございますなー。」
…いちごが、満面の笑みを咲かせたのです。
「すぃー! いい事を思いつきましたぞ!」
…いちごが『パン』と手を叩いたのです。
ー葵と2人で話をしたいと思っていたけど、気が変わったわ。悪世界の見張りも消えたようだし、貴方達も楽しんでー
…どうゆうことです?
「すぃー!!」
…いちごが叫ぶと光で何も見えなくなり、周囲の景色が豪華なパーティ会場のようになったのです。…どうゆう魔法なのです?…光の感じ的に、多分転移系ではなさそうですし。
「皆、座って下さいな。」
…私は、近くにあった椅子に座ったのです。
「そのゴム、何か特別そうね。聞かせて貰えるかしら、どうゆうものなのか。」
…蘭が訊いたのです。…てか、蘭はくつろぎ過ぎだと思うのです。…蘭は小さいので、大きめの椅子に寝っころがってるのです。…それも、足まで組んでるのです。
「すぃー、葵がくれたんですぞ。」
…葵が、ですか?
「8年前の今日のことですぞ。」
☆
私と葵は、いつも通り一緒に遊んでいた。そして外が暗くなってきたので、いつも通り帰ろうとすると、葵に手を掴まれた。
「いちご、今日でいいの? 誕生日。」
私は理解出来なかった。私には、葵に誕生日を教えた覚えなんてなかったから。
「そう、でしたなー。すぃーすぃー。」
自分でも気づかなかったのに、何で葵が?
「いちごって、1人暮らしなんだよね。もし良かったら、今日…僕ん家に泊まって行かない?」
何で? 何で誕生日だと泊まってくの? 繋がりが読めないわ。
「すぃー? 泊めてくれるなら、お願いしますぞ。でもどうして、今日だけそんなことを言い出したんですかいなー。」
「だって誕生日だから、パーティをやろうと思って。」
どうして誕生日だとパーティをするの? 私は王様ではないのに…。
「来てくれるんなら早く行こう☆」
葵は私の手を掴んだまま走り出して、転移の光に入って行った。
「ただいま!」
「おじゃましますぞ。」
葵の家に来るの、久しぶりね。
「今日は僕1人でお留守番だから、夜遅くまで遊んでいられるよ♪早くぅ、えへへへ。」
葵…あっこれは…可愛い…。
「でもいちごが来るってことは、ちゃんと許可貰ってるから安心してね?」
「すぃー。」
私は真っ暗な部屋に案内された。おばけ、いない…?
「お誕生日、おめでと~。」
葵が拍手をしながら、電気を点けたわ。
「すぃー!?」
何これ…。部屋は、とても可愛らしく飾りつけされていた。上から『happy birthday I♡TI♡GO』と言う文字がぶら下がっていたり、私が好きなピンク色が明らかに増やされていたり、…すぃー? あれは…? 何だろう、このキラキラとした飾りは…えっと…幻惑魔法と光魔法かしら。
…あーこれ、見抜かずに楽しむべきだったな。
「今日のいちごはお姫様だよ☆ほら、座って。」
王座? 素敵ね。こんなに可愛くて豪華で綺麗な椅子、初めて見たわ。
「座り、ますぞ。」
恐る恐る、座ってみた。!? 凄いふわふわ~、気持ちいい♡
「料理出しとくから、食べてね。」
手作り料理ね。8歳の男の子が作ったものには、とても見えないんだけどね。
「いただきますぞ。」
私は、足をくねくねさせた形のタコ、らしきものを始めに食べることにした。私が足? をナイフで切ろうとすると、『パキ』と言う音がして折れてしまった。何で出来てんのよ。
「食べれば何だか分かると思うよ。」
怖いわー、超怖いわー。折れた部分でさえ一口で食べるのが怖かったので、先っちょを少しだけ舐めてみた。………甘っ!!
「すぃー、チョコレートですな。」
「正解! ちゃんと甘くなってる?」
私はもっと甘くてもいいけど、でもとても甘くなっているとは思うわ。
「私が甘いの好きだから、チョコを用意したのは分かりますぞ。でも、何でタコなんですかいな。すぃー。」
奥の方には、イカやクラゲもあった。凄い上手にできてるとは思うけど、そんな形にした理由が分からないわ。
「可愛くしようと思って…それで…、タコとイカとクラゲと火星人しか出てこなくて…。」
全部可愛いって思わないし、さり気無く火星人とか言う変なの入ってるし! 確かにイメージ的には、同じような形してそうだけどさ!
この後もなんやかんやあって、深夜になった。
「すぃー、楽し過ぎて疲れましたぞ。」
はしゃぐなんてこと、しなかったから…慣れてないのかな…。
「じゃあ、もう寝る?」
お風呂は…しょうがないか。1日くらい大丈夫よね、夏じゃないし。明日の朝入れば問題ない筈よ。
「すぃー。」
何か、急に眠くなってきたわ。
「いちご、お誕生日おめでとう。おやすみ。」
葵は私に可愛い紙袋を渡し、その場に倒れて眠ってしまった。
私もその紙袋を握ったまま、葵の隣で眠りについた。
☆
「すぃー、その中に入っていたのがこれですぞー。」
…ピンク色のいちごのゴム…ですか。
「でもあの日以来着けてんの見なかったから、もう捨てちゃったんだと思ったよ。まだ持っててくれたんだね。」
…あの日っていつです?
「すぃー。だってつけてても、葵は嫌味と思うでしょうぞ。私1人で葵1人のところに行って、友達に戻りたいとかあれは言わされてたとか言ったって、どんなに謝ったって、…信じてくれないに決まってますしな。」
…あの日って何です?
「んー、まあそうか。そうだね。」
…葵はいちごから目を逸らし、頭を掻いたのです。
「ねえ、ちょっといい? あの日とか、あれとかじゃ私達は分からないわ。私達にも分かるように、話して頂戴よ。」
…さすが蘭です。…その質問を待ってたのです。…まあ、自分で聞けばいいだけの話ですが。
「また説明に入るんですかいな。今言ったあの日ってのは、7年半くらい前の話ですぞ。」
☆
「葵。久。」
「元気だったか?」
葵が連れてくるって言ってたのは、この人達かな。
「久しぶりだね。」
そう言って葵は、笑顔で握手をしていった。
「すぃー。葵の友達ですかい?」
私が訊くと、葵はくるっと回って笑顔を向けて来た。
「紹介するよ。中島和と斉藤桜。こっちは、いちご。」
中島、和。どっかで、訊いたことあるような。
「宜しくな。」
「すぃーすぃー。宜しくお願いしますぞ。」
私が喋ってる途中に、命令が聞こえてきた。
ー中島和くんの中にある、破壊神を目覚めさせてー
あっそうだ! 雄哉が話してた名前ね。でも、目覚めさせるって…?
ーそんなのも分からないの? 和くんを気絶させればいいだけだー
気絶か…。私は桜と握手をしながら和に近づき、力を集中させて攻撃した。よしっ、上手く当たったわ。和が倒れると、桜は私の手を払って和の体を掴んだ。
「和!!どうしたんだ。私桜ヨ。私ノ声ガ聞コエナイアルカ?おいっ!!」
桜はなぜか片言で、和の体を揺らした。そして葵は心配そうな顔で、和を見つめていた。
ー和くんを連れて戻っておいで。あっ! 会わせて貰ったんだから、お礼は言わなきゃダメだよー
お礼か、それ私がやったって言えってことだよね。そしたら葵もさすがに、私のこと憎むよね。一緒に遊べなくなっちゃう。…いや、それが目的? もう私に、葵とは仲良くするなって言ってるの?
「すぃー。ありがとうございますなー。和さんを呼ぶのを、ずーっと待ってたんですぞ。」
どうせそんな命令なら、滅茶苦茶にしてやる。
「お前がなぜ。和を待つんだ。」
桜が和の手を握りしめた。すると、和が起き上がった。えっ何で?
『和!!』
和は、桜の手を振り払った。
「うるさいわっ!! 人間の分際で、神であるこの私に触れるなっ!!」
え…!? 和が豹変した。破壊神が、目覚めたってこと…?
「もうこんなところに用などありませんぞ。思う存分、殺っちゃって下さいなー!すぃーすぃーすぃー!!」
最低ね。私が葵の立場でも、酷いと思うよ。失望するよ、絶望するよ。
「…どうゆうこと? いちご。」
葵が戸惑いながら訊いてきた。そうなるよね。
「すぃー。どうゆうも何もありませんがな。全てを壊す破壊神、和さんの力が欲しかっただけですがな。すぃー。ありがとー。葵、お別れですなー。さいならー。」
私と和は、雄哉の部屋にワープした。
「王様、どうゆうことですかいな。」
「いちご、分かってるよね。」
王様は和に何かを魔法をかけた。アイテムかしら。
「よし、OKだよ。すぐ葵くんと桜くんを追いかけて。悪世界で働いてくれるようにお願いするんだ。断ったら殺していいから。」
殺、す…? 私が…?
「早く行って!!」
「すぃー。」
王様に怒鳴られて、私は急いで葵のところにワープした。王様は、何であんなに不機嫌なんだろう。何かあったのかな。
「すぃー。逃げちゃいけませんぞーっ!」
もう葵とは、遊べないのかな。
「悪世界で働くのと、ここで死ぬの。どっちがいいですかいなー?」
葵、お願いだから、頼むから悪世界に来てよ。でも見張りがいるから、正直に伝えることは出来ないんだね。
「馬車になんか乗ってないで、答えて欲しいですなー。」
「きゃっ。」
私が馬車から引きずり落とすと、葵は女子のような可愛らしい悲鳴を上げた。
「いちご、なの?」
まだ、信じようとしてくれてるんだね。葵、ごめんね。
「そうですぞー。私はいちごですぞー。どこかおかしいですかいなー。」
葵は悪くないのに、私なんかと関わったりしたから。
「あ・お・いー。悪世界に、来て下さいなー。」
こう頼むのは、いいんだよね。命令の、うちよね。
「葵様っ!!」
男性が叫びながら、私の足を掴んだ。私は驚いて足をあげてしまい、男性は吹き飛んだ。普通の人が私みたいな怪物を止められるはず、ないんだから…。そんな、命を無駄にするようなことしないでよ。
「ごめんなさいっ。愛世界まで、連れて行けなくて。ぐはっ!!!」
男性は、大量の血を吐きだして倒れた。嘘…殺し…ちゃったの? 動揺してこの辺は、記憶が少し曖昧だわ。
「…いちごは…そんなこと…しない。…僕の親友である…いちごは…いちごは…絶対そんなことしない…。…いちごを…返してよ…。僕の…親友を!」
まだ…こんなことしても、まだ…私を信じてくれようと…。本当に、ごめんなさい。
「いつまでもそんなこと、言ってないで下さいな。私は、あんたらとお友達ごっこするほど、低俗な奴じゃないんですぞー!」
酷いね…。私、酷いね…。
「…あんまりだよ。…助けて、くれたと、思ったのに…。」
本当に、ごめんね。ごめんね…。そうだよね、あんまりだよね。
「あ・お・いー。早くぅ、答えて欲しいですなー。働くか死ぬか。」
ああ、私はどこまで最っ低な奴なの?
「葵、行こう。」
桜が葵の手を掴み、走り出した、ありがとう、桜。私がこれ以上最低になる前に、逃げだしてくれて。そうね、悪世界にどうしても来たくないなら、逃げてくれるんでも…。でもよかった、死のうとか言いださなくて…。これなら、追い掛けるふりをして逃げて貰えばいいだけ。
「ふふふふふ。この神である私から、逃げられると思っているのか?」
和!? 和もいたんだ…。だとしたら、捕まえちゃうかも。ひょっとしたら、殺しちゃうかも。
和が葵たちに追い付きませんように、そう願いながら後を追った。
あれ? 隠れ身を使ったの? でもそれ、残念ながら私にも和にも通用しないんだよ。だから、普通に走って。
「その術は通じませんぞ。逃げたって無駄ってことですなー。」
この言い方なら、助けるためにってばれることなく伝えることが出来るわ。
「…く。」
桜が唇を噛んだ。
「逃げて。2人。」
和!? 破壊神を、封印したのね。自分の、力だけで。
「まだ意識あったんですかいな。この野郎!」
私は和を軽く蹴った。軽くなら、大丈夫だよね? 和には、破壊神がいるんだから。
「仲間なんじゃ、ないの?」
葵のその言葉には、堪えていた涙が溢れそうになったわ。ふふふふ、本当に仲間だったらいいね。でも私が、誰かと仲間になったりするのはいけないみたい。
「仲間ぁ? 意味が分かりませんなー。他人の事なんか信じても、裏切られるだけですぞ。この時代、信じられるのは、自分だけってことですなー。すぃーすぃーすぃー。」
だから、私なんかを信じちゃダメよ。
「行って。」
和が葵と桜を転移させた。さすがね。
「和さん、戻りますぞ。」
私はワープを使い、雄哉の部屋に戻った。
逃がしちゃったって言ったら、その後凄い怒られたわ。そして私は、トボトボと自分の部屋に戻ったの。1人で暮らしていた家じゃなくて、悪世界の城にある自分の部屋に。それで…。
「もう一緒に遊ぶこともないだろうし、…。」
あの頃を思い出さないように、捨てようと思った。…けど、捨てる勇気もなくて…鞄にしまっておいた。
☆
…そんなこと、あったのですか。…でもそれだと葵って言うよりも、桜の方が憎むところではないのですか?…親友に裏切られた、このショックは大きいと思うですけど。…親友を苦しめた奴、こっちの方が嫌いなのです。…そして桜の方が、和を大切にしてるようだったですし。
「いちご、そう…思って、たの? ごめん…ね。」
…葵が震えながら言ったのです。…俯いた顔には、涙と微笑みが浮かんでいたのです。
「すぃー、謝ることありませんぞ。私がしたのは、憎まれて当然のことばかりですからな。それにそのまま死ぬならば未練も残ってしまうけれど、今日会いに来てくれて誤解は解けたんだから、私は十二分に満足ですぞ。」
…いちごはこれから、何をするつもりなのです? …何か、壮大なことを始めるような表情ですね。
「いちご、もっと期待したらどうなの? そんなので満足しちゃいけないわ。夢は絶対に叶うはずないものにするべきよ。」
…絶対に叶うはずのないものとか言っちゃダメです。…しかし私も、蘭の意見に同意するのです。
「…幸せは無限大なのです。…満足して想像をやめなければ、夢は広がり続けるのですよ。」
…私が言っても、信憑性が微妙ですね。
「いちご、僕が結ぶ!」
「すぃー!? 本当ですかいな。嬉しいですぞ。」
…葵はいちごからゴムを受け取ると、髪を整え始めたのです。…さすが葵、手慣れているのです。
「…いいかもね。」
…蘭が(メールを見てるですか?)ぼそりと呟いたのです。
「…何がいのです?」
「いいえ、こっちの話よ。」
…何なのです。…苦笑いで頷くとか、気になるのです。
「はいできた☆」
「すぃー。ありがとう、ございますな。」
…可愛いのです。…ピンクのいちごのゴムにツインテール、それと満面の笑みがいちごの幼い顔にとても合っているのです。…やはり闘ってる時の嫌味の嫌味がこもった作り笑顔なんかとは、全然違うのです。
「ねえ悪いけど、予定が入っちゃったわ。残念ね、帰らせて貰うわ。」
…蘭が消えたのです。…しかしおかしいですね。…無効空間って言ってたのです、それに呪文が聞こえなかったのです。…そのうえ、転移の光もワープの闇も出なかったです。…蘭は、どうやって姿を消したのです?
「すぃー? おかしいですなー。」
…いちごと葵も首を傾げたのです。…2人も私と同じ疑問を持ったのなら、蘭は怪物ですよ。
「すぃー、残念ですなー。まあその分、2人に楽しんで貰いますぞ。」
…いちごが手を広げると、食べ物が出現したのです。
「そろそろお腹空く時間でしょうぞ。そう思って出したから、いくらでも好きに食べて下さいな。」
…ありがたいのです。…ですが、あまり美味しそうに見えないのですよ。
「可愛くて食べずらいですかいな。」
…いちご、違うのです。…可愛く無すぎて、なのです。
「凄い可愛い♡こいつは、ワラスボだっけ?」
…ワラスボって何です。
「こいつは、チワワかな。」
…本当です。…普通に可愛いです。…気付かなかったのです。
「…いただくです。」
…私は見ないようにしながら、少し食べてみたのです。
「…美味しいです。」
…甘すぎるです。…チョコレートですか。
「僕が大好きな深海魚達もいる。でも、何でこんなの用意してあんの? だってこれ、どんなに頑張っても1週間も持たないよね。常にある筈ないし、自分で食べるには…ねえ。」
…それもそうですね。
「今日はもともと、パーティのつもりだったんですぞ。」
…いちごがまた、悲しそうな表情になったのです。…パーティって、誰か来るのですか?
「すぃー。葵を待ってたんですぞ。来ないって分かってたけど、夢は大きく持とうって、思ってたんですぞ。でも、本当に葵が来たから…。」
…何かを言おうとして、口を閉じたのです。
「んー? 何で、パーティ?」
…葵は何かを考えてるような顔で、頬に手を当てたのです。…女の子みたいですね。
「え!? 覚えて、無かったんですかいな。覚えててくれたんだと…。じゃあ今日来たのは、偶然ですかいな。偶々今日だっただけなんですかいな。」
…どうゆうことなのです。
「はんはおう。」
…って葵!? 考えてるんじゃなくて、食べてたのですか。
「…葵、珍しくよく食べますな…。」
…そうですね。…葵は基本、全然食べないですのに。
「ん? ん!! え、なくなってんの全部僕が食べたの!?」
…気付いてないのですか。…無意識に食べてたですか。
「…まあ、殆どそうです。」
「何か、急にお腹いっぱいになって来たよ。」
…言わなきゃ、いくらでも食べるつもりだったのですか?
…話題が変わり私達は、何事もなく流してしまったですが、いちごの心は傷付いていたのです。
…自分でも、気が付かずに…です。




