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第12話 ハートに火を点けて

 十年の休戦期間の頃に、徹底的に修復と強化を重ねたブルーノの城壁は、まさに数万の軍勢さえも寄せ付けない程の、無敵要塞の名をますます強めるようなものとなっていた。

 山のように高くそびえ立つ城壁に向かって、エフェス兵達は角砂糖に群がる蟻のように押し寄せてくる。

 私は前の百年戦争を知らない。だが、その頃もエフェスを最も怖れるのは、命を惜しまず押し寄せてくる、その圧倒的な数にあると言われていた。

 ラシケントも戦争をする際は、時にブルーノから打って出る事もあった。だが、どれほどの精鋭達を投入しても、満足な結果を得られるどころか、圧倒的な数に飲み込まれて、全滅をすることばかりだったという。

 防戦に於いては無敵だが、攻撃には弱いラシケント。それが一般的な認識であり、その理由は何という事はない、このブルーノという町の存在のおかげなのだ。左右をほぼ人間が踏み込む事ができない、絶壁の岩山になっているからこそ、ブルーノさえ守ればラシケントは平和という、そんなくだらない理由だけで、私達は戦争を百年に渡って繰り返してきた。

 犠牲者達の家族は、大切な祖国を守るために死んだと、誰もが歓喜の涙を流しながら、残された者達が死出の旅路を見送るのだ。

 タネがバレれば実にくだらない。こんな子供だましの茶番だけで百年も持ちこたえる我が国。しかし、それほどにブルーノの守りというのは鉄壁のものとなっている。だが、以前父が言っていたように、もしエフェス全土の兵が本気になって戦争をしたならば、ブルーノは陥落するかも知れない―それは想像するだに恐ろしい事だ。

「ねえ、普通に考えてさ、このブルーノが陥落したらラシケントって総崩れなわけだし、それって凄く危ないんじゃない?」

「逆に言えばブルーノさえ守ってればラシケントは平和ということなのです。実に答えはシンプルです。なので、ボクのように天才的な少年が辺境伯として派遣されたのです。

勝利です! 絶対的で圧倒的で完全無欠で史上最大の勝利を、ボクがもたらすのです!」

 胸を反らし、遥か高みにある城壁の上、その中にある楼閣の中から、必死になってブルーノ攻略を目指して這い上がろうとするエフェス兵を見下ろす。その姿は、まるで何も知らない愚かな神のようだ。

 あの気球に乗っていた時もそうだった。今も、敵であるエフェス兵達と対峙するその顔は、まるで子供らしい表情を感じさせない。万能感に支配された、狂気の横顔。

 否定したくは無いけれど、それはあまり好きになれない。

 目を逸らすと、相変わらず戦争は続いている。眼下に見下ろす果てしなく、高く長い城壁に向かって、エフェス兵は決死の覚悟で昇ろうとしてくる。叫んでいるのは、あの時と同じ祈りの言葉。神を称える古代エフェス語。

彼らはラシケント人と違って、死を怖れない。それは以前述べた通り、神への供物となることで、天国に昇る事ができるという、絶対的な安心感を持っているからだ。

 彼らは喜びの中に死んでいく。歓喜の内に天に召される。そして、必死になって戦う。

 彼らの前に立ちはだかるのはこの少年、ネイ・ハーマン。

「ねえエンドさん、正直言ってボクらは今、無敵って感じじゃないですか。百年戦争なんて言われたのは、結局物量の面で負けたからですよ。ボクらが真剣になって戦えば、今度こそラシケントは勝てると思いませんですか?」

 ああ、小僧の神様が何やら調子に乗り始めた。万能感が毒となって、全身を巡って脳までやられちまったんだろうか。だが、気持ちは分からないでもない。銃というものの威力は凄まじい。弓矢の比ではなく、圧倒的な力で、迫り来るエフェス兵達をねじ伏せている。

「確かに銃は強い。けれど、以前のラシケントが侮られていた事は、さすがのネイも知ってるでしょう? 何よりも死を恐れない、このエフェス兵達。未知の武器でぼろ布のように蹴散らされているのに、後から後から、まるで恐怖という感情が抜け落ちているように這い上がってくる。こんな奴らを相手に私達は百年の長きにも渡って争い、同時に、侮られてきたのよ? まだエフェスは本気を出してないだろうし、状況は予断を許さないと思うわ」

「確かに、彼らは操り人形か、蟻のように群がってくるのです」

「ラシケント兵は死を恐れる。彼らと対等に争えるのは、神に全てを捧げた武装神官達くらいのもの。いわば、武装神官だけで組織化された兵達。そんな恐ろしいものに、正面切って突っ込んでいったら、過去の繰り返しになるだけよ」

 葡萄酒を酌み交わしながら、血煙が上がる城壁の様子をゆっくりと眺める。

 カルが指揮をする銃兵達は、長城の上にびっしりと並び立ち、一心不乱に眼下の兵達に向かって、銃を撃っては弾を込めるという、単調な作業ともいえる戦いを繰り返している。

 最初の頃は、何の魔法かと怯える兵士達だったが、彼らは死を覚悟している。すぐに恐怖は忘れ去り、一心不乱にブルーノの城塞に群がり、少しでも体が動かせる者達は、立ち上がり、城壁を昇ろうと腕を伸ばし、足を前に進める。そんな姿を見た老兵は、またあの頃と同じ光景だと、ぽつりと呟いたのがまだ耳に残っている。

 その皮肉混じりの自嘲気味な言葉は、とても印象的だった。きっと私が生まれる前から、こんな光景がこの町の日常だったのだろう。

 一方では平和な都市生活が営まれ、もう一方では血と砂埃にまみれた戦争が行われる。奇妙で不思議なこの町は、ラシケント全土の生命線を握っている。

「エンドさんがボクらに銃をもたらしてくれました。そして、元武装神官であり、デトラ脱出の立て役者でもあるカルさんが現場の指揮を執る。兵達は意気軒昂だけれど、打って出る事はもちろんできない。それじゃあまるで、なんだかボクたち、自由なつもりになっているだけの、籠の中の小鳥みたいですね」

「そうね、やっと気付いた?」

「このままじゃいけないのです。打って出られるような方法を、デトラまで攻め上がるための方法を考えないと、またも百年をだらだら無駄に戦争をするハメになるのですよ」

 ネイは防戦一方に不満があり、勝ちたいと思っているらしい。辺境伯ともなれば、ラシケントとエフェスの国力差は理解しているはずだ。若さ故の万能感と、暴走しがちな冒険心。さて、これをどう鎮めてやるべきか。

 銃は確かに素晴らしい武器だが、一発一発撃つたびに、銃弾という消耗品の費用がかさんでくるのだ。昔ながらの方法も含めて、あまり財務を逼迫させないような方法も考えねばならないし、課題は山積している。

 この小僧の神様に、果たしてどうやって伝えればいいだろう。そう考えていると、ネイは嬉しそうに私の顔を覗き込み、こう言った。

「こいつ、頭大丈夫かって思ってるんですよね?」

「そんなこと!」

「マーシャからもたらされた銃は確かに強いです。しかし、その消耗品である弾の値段は決して安くないため、これを自由に使うわけにもいかないのです」

「そこまで分かるなら、後は言うまでも無いわ」

「今朝からずっと、カルさんが戦場に立ってくれていますが、さすがに銃弾を使い過ぎだと思いませんですか?」

 その指摘に、思わず時計を見る。かれこれ何時間戦っているかは分からないが、ずっと銃を休み無く使っている。ブルーノの財政を考えれば、こんな調子で戦っていては、財政はとんでもないことになってしまうはずだ。

 まじまじとネイを見ると、彼はさらに笑みを深くした。いたずらが成功した、まさにそんな表情をしている。

「ネイ、どういうこと? ブルーノの財政はそれほど豊かじゃない。金鉱を見つけたわけでも、金の卵を産む鶏を手に入れた訳でもないでしょう?」

「やっと気が付いてくれたのです。それじゃあ、さらに質問なのです。炸裂弾や、銃弾の価格が高いのは、なぜですかエンドさん?」

 くりくりとした目をさらに大きく開いて、ずいと体を乗り出すネイ。

 なるほど。誰かに自慢したくて仕方ない、素晴らしい秘密を持っているらしい。そうならば、遠慮なくその企みに乗ってやろう。この錬金術師が、いったい何を発見したのか。

「火薬が高いからよ。私も良くは知らないけれど、この火薬を作るための材料ってのが、なかなか手に入らないんでしょう? そして、炸裂弾も銃弾も、ともにこの火薬が必要だから」

「そうです。そして、ボクらのラシケントでも火薬は製造できますが、ごく小量しか作れないので、炸裂弾にしても、マーシャから火薬を購入して僕らは作っていました。そして今もまた、銃という武器を手に入れましたが、この銃に使う弾にも火薬が使われ、この火薬が高いが為に、ラシケントの戦争は今後も苦戦を強いられる、そのはずだったのです」

「まさか、火薬の量産に成功したの?」

 私の言葉を聞いて、待ってましたとばかりにネイは笑う。そして、彼は従者を呼びつけた。

 初老の上品な男は、大きな籠いっぱいに、二十個近い炸裂弾を載せている。

 ネイはそれを一つ取り上げると、そばにあった燭台のろうそくで火を着け、エフェス兵達に向かって放り投げる。

 辺りに響き渡る爆発音と共に、赤いしぶきが花のように咲く。同時に、数名の兵士は壊れた人形のようにバラバラになって地面に転がり落ちていく。

 一瞬、何が起きたのかわからない兵士達は、動きを止め、銃兵達もこちらを振り向いた。

「ボクだよ! ボク! ボクがやったんだよ! エフェスのみなさーん! 炸裂弾だよ! 命が惜しければ、あまりボクらを怒らせない方が良いと思うんだ! 炸裂弾はたくさんある! キミたちはボクらに負ける。勝てるはずがない。感じるんだよ、絶望を! ほら! ほら!」

 言いながら、さらに二つの炸裂弾に火を着け、思い切り強く放り投げる。

 耳をつんざくような爆発音が二度響き渡り、今度は二カ所で、八人ほどの兵達が肉片となって城壁の下に落下していく。さすがのエフェス兵達も、今回ばかりは恐れを為し、散り散りになって逃げていく。

「銃は携帯し易くて強い。けれど、炸裂弾の威力には叶わないのです」

「火薬を量産……本当にやれたの……?」

「ええ、マーシャの連中に依存しっぱなしじゃあ、戦争はいつまでも終わらないです。それに、マーシャの奴らにできて、ボクにできないはずがない。森羅万象の全ては、何らかの合成によってできあがるのであれば、それを解き、人工的で正しい手順を踏めば良いのです。

 火薬だろうと雷だろうと、いずれボクらは全てを手に入れられるはずです。ただし、それは平和な世界になったらの話です。そして、平和を手に入れるためにボクらは武器を手に取り、戦うのです。なぜ戦うのか? 勝つためなのです。

 勝ちましょうエンドさん。ラシケントに勝利をもたらすのです。ボクとエンドさんとカルさんで、ヨシュア様が夢見た世界を、ラシケントの民が望む世界を、神のみぞ知る世界を、この手で、この目で、掴んで、拝んでやるのです!」

 確かに目の前に今、炸裂弾は山のように盛られている。錬金術師ネイ・ハーマンという少年であれば、火薬の量産化という事も夢物語ではないのかも知れない。そうすれば、マーシャの思惑、つまり銃弾などの消耗品を購入してもらうという目的は、一気に破綻するだろう。

 ただ、実際にはどうしているのか。火薬とはそもそも何かと言われても良くは知らないが、幾つかの成分を合成すると完成する、まさに錬金術の一種として製造されるということは知っているが、そんな簡単に作れるものではない。

「信じられない、そんな顔をしているのです」

「そりゃあそうよ。火薬がどれだけ高いか、ネイだって知ってるでしょう」

「付いてきて下さい。ボクのひみつを教えてあげるのです」

 こちらの返事もまたず、ネイは席を立つと、楼閣を出ていく。

 あたふたする私を見て、こっちだと言うように、ぴょんぴょん跳ねながら手を振る。

 子供だなあと思いながらも、果たしてどんな秘密を見せてくれるのか、私としても胸が高鳴るのは事実。錬金術というものには、ついぞ興味は無いのだが、彼がどんな方法で火薬を量産しているのか、その点については興味深い。

「カルーっ、私ちょっと出かけるから、そこ守っておいてね!」

「え? エンドさんとネイ様だけですか?」

「大丈夫、すぐ戻るよ!」

「ちょっと待って下さい。僕も行きます」

「いいの、現場離れて?」

「はい!」

 炸裂弾が出て以降、確かにエフェス兵達はかなり及び腰になっている。残った炸裂弾についても、兵が手に余るようなら使って良いと言っていたし、まあ大丈夫かも知れない。

 それに、カルが私の心配のはやっぱり嬉しい。仮にもここは最前線。時折だが、勢いを失った矢が飛んでくる事もある。

「エンドさん、まだですか?」

「カルも一緒に行くから待ってね」

「ああ、来られるなら是非、一緒に見に来て欲しいのです!」

 銃を一応持ったまま、カルがこちらにやって来る。

 少し離れた場所から微かに聞こえるのはエフェス兵達の悲鳴、そして祈り。

 百年の長きに渡って、こんな事を何度繰り返して来たのだろう。マーシャは不毛の地から、一転して世界屈指の商業都市国家として成功したが、大国だったラシケントとエフェスの血を、長年掛けて吸い上げただけに過ぎない。

 そんな情勢も、火薬の量産化という手段が手に入れば、戦争の様子は一変するだろう。後は銃の量産さえ行うことができるようになれば、もはやマーシャなど必要もない。

 石造りの薄暗い廊下を抜け、階段を下りて城壁の内側、戦争とはおよそ無縁な、のどかな田園風景が広がる方に出ると、思わず胸一杯に緑の空気を吸い込んだ。

 血しぶき、鉄臭さ、そして砂ぼこり。鼻を突くのは硝煙の匂い。耳に届くのは狂信の祈り。あれはまさにこの世の地獄だ。それに比べて、ブルーノの内側にある平和な世界は、まさに心の清涼剤と言えるだろう。

 そして、ネイは私達の少し前を歩きながら、時折付いてきているか不安そうに、くるりとこちらを振り返る。

「ところでエンドさん、カルさん、僕達の目の前にある、このそこら中に生えてる雑草は何という名前か、ご存知ですか?」

 そう言って、彼は緑の濃い、一本の草を抜いて鼻の前で匂いを嗅ぐ。ちょっとした謎掛けのつもりかも知れないが、さすがにこれはよほど幼い子供でなければ、間違うはずもないだろう。囓るととても苦い事でも有名で、ネイが酒の材料にもしていた。

「ニガヨモギでしょう。さすがに分かるわ」

「正解です。では、そのニガヨモギって、どんな用途がありますか?」

「健康に良い薬草だってのは知ってるけど……」

 それ以外に何に使う? 考えても思い浮かばない。すると、ネイはとても嬉しそうに私の前に駆け寄ってきて、正解を言った。

「答えは、これを使って火薬を量産するのです!」

「ニガヨモギで火薬?」

「時間は掛かりますけどね、できます」

 自信満々に、ネイはどんと胸を叩き、今度は馬を飼っている牧場の方へと足を向ける。

私としては、何が何だかさっぱりわからない。ニガヨモギ、馬、共通項が全く見当たらない。

「ちょっと、どこに行くの?」

「火薬を取りに行くのです。付いてきて下さい!」

「カル、ニガヨモギと馬で火薬ってできるの?」

「さあ……僕にも検討がつきません……」

 ネイは牧場で干し草を固めている男に挨拶をして、厩舎の裏に回り込む。

「こっちです。こっちなのです!」

 呼ばれるがままに歩いていくと、私は初めて驚愕した。そこには何と―

「何も無いんだけど……」

「無いのです!」

 なんかきっぱり言われた。逆に清々しいぞネイ。でも、説明になってない。やり場の無い怒りと、震える私の拳はどこに矛先を向けるべきか。

「ネイ様。さすがに嘘や冗談で呼んだ訳ではないでしょう? そろそろ答えを教えて下さい」

「ふふふーっ、答えは僕達の足下にあるのです」

「足下? ただの地面じゃない」

「ちょっとだけこのスコップで掘ってみると……ほら、出てきたのです」

 そう言ってネイが私に見せたのは、変な匂いのする干し草のようなものだ。多分これらが、さっき私達に見せた、ニガヨモギなのだろう。だが、ニガヨモギが枯れたら火薬の原料になるなんて、そもそも聞いたことが無い。

「この地面の下に、たくさんのニガヨモギを置いて、そこに馬の尿をたっぷり掛けるのです」

「は? ニガヨモギに馬の尿?」

「そう。そして、そこに覆いをして土を被せ、しばらく雨などに当たらないようにしながら、上でたき火をしたりして、温かな状態、つまり、発酵をさせるのです。その後、これを水で抽出し、藁を焼いた灰を入れて混ぜ、濾過したものを煮詰めると、火薬の原料として最も手に入らない貴重品である、硝酸カリウムが手に入るのですよ」

 得意げに胸を張るネイ。ああなるほど、これが錬金術師というものか。彼らは必ずしも金を作る事が目的ではない。その課程で、様々な発見をすると言われている。そして、その発見が時には世界をひっくり返すようなものになることもあるという。

 私にはよく分からない。少なくとも、ニガヨモギはただの食べることができる雑草であり、馬の尿は汚物に過ぎない。その二つを組み合わせ、ましてや発酵をさせようなど、およそ考えが及ぶ事ではない。

「ねえネイ、よくこんな発見をしたわね……」

「偶然なのです。それに、エンドさんが居なければ、この火薬の量産化は考えなかったのです」

「私?」

 きょとんとする私に、ネイはうんうんと大きく頷く。

「エンドさんが鉄砲をマーシャから購入した時、ボクはすぐに気が付きました。彼らは銃そのものを売ることよりも、貴重品であり消耗品である、弾を売る事に重点を置くだろうと。そんな弾に必要なのはもちろん、火薬です。火薬が貴重なのは、火薬が本来は手に入りにくいものだったからですが、そんなものを大量に消費するような武器は、良いとは言えません。それに、値段が従来の火薬を使ったものと変わらなければ、いくら素晴らしい武器でもおいそれとは使えないものになるのです。

 そこでボクは考えたのです。火薬を量産する事は可能なのか? だとすれば、どうやったら火薬はできるのか? 元々は、馬小屋の干し草が倉庫の奥で忘れられたような状態になっていたものを見つけた時に、これが何らかの変化を起こしている事に気付き、これが火薬の原料、硝酸カリウムであることを突き止めたのですよ。

 あとは簡単です。これを効率的に発酵させる方法を考え、量産すればいい。そして、戦争が始まって、ラシケントは銃を使い、マーシャは湯水の如く使われる銃の弾を売り始めた時、これを出してやろう。あの狡賢くて最低のマーシャの奴らを笑ってやろう。奴らは必ず戦争を再開させるに違いない。エンドさんに鉄砲を伝えた事だって、戦争が無ければ売る意味がほとんど無くなってしまう。だからこそ、絶対に戦争は起こる。

そう思って、ボクは今日まで待っていたのです。この辺境の地、ブルーノの町で、ひたすら錬金術の研究をしながら、ニガヨモギは酒作りに使っているように装い、マーシャの奴らに、ボクが火薬を量産していることを悟らせないようにしたのです。

今度こそ勝ちたい。あいつらを根絶やしにしたい。ボクの手で、ボクの力で、ボクは勝利を掴み取りたい! お世話になったヨシュア様だって、きっとエフェスかマーシャの奴らが毒を盛ったとか、そんな事に違いない。事故? 病気? 知った事じゃないのです! あいつ等はそうやって、ボクらを罠に掛けるのです! 卑怯です!

 エンドさん、カルさん、戦争とは何ですか? 負ける為にするのは戦争じゃあないのです。勝つために戦争はあるのです。自分のことしか考えない、無能なルアドがエフェスに勝てるはずなどないのです。ボクは、ボクこそは、このラシケントを勝利に導くのです!」

 そこに居るのは小さな魔王。ただ勝利を求め、狂ったように笑うのみ。

 なぜそこまで勝ちたがる? 何が彼を追いつめた? おそらく、私のような市井には、とうてい分かるはずもない。けれども、きっとこのラシケントには彼のような人材が必要だ。この戦争に勝つために、勝ち抜くために、再び百年もの間に渡り、だらだらと中途半端な悲劇を繰り返さない為にも、それこそ神が、神が居るのなら、彼を遣わしたのだろう。

 私はただ、ぼんやりとその姿を眺める事しかできなかった。認める事も、否定する事もできない。それでも彼が感想を聞くから、素晴らしい事だと返しておいた。そんな私を見て、ネイはますます満足したように笑うのだった。

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