18話 アッシュとライリエナ。
……ピピピッピピピッピピピッ……
「え、何の音…?」
「ああっ!大変、あと10分しかない!!」
「勇者?」
「ごめんなさい、私がこのアクリル界に居られるのは最大6時間までなの!」
「時間制限…?てことはお前、地球から通ってるのか!」
「そうなの!あああ、もうやばい!詳しい説明はまた明日来るから!!またね、お兄ちゃん!お邪魔しました、ご馳走様です!!」
「あらまぁ……。またきてねー。」
「せわしないな…」
どたばたと外に出ていく炭菓。
と、思いきや…
すぐもどってきた。
「お兄ちゃん、これ、はい!使い方は明日説明するから、持つだけ持ってて!またねっ!!」
「あ、き、気をつけて帰れよ!!」
「ありがとーー!!」
さっきの音がなる機械?を空にかざすと、炭菓の姿がパッと見えなくなった。
転送装置みたいなものか……。
「アッシュ、それ何なんだ?」
「うーんと……見覚えが………あ、確かポケベルだ!似てる!」
「ぽけべれ?」
「僕たちが住んでた世界でも、もう使えない…過去の通信装置だよ。それに似てるの。ポケベルね。」
「ふーん。」
「通信?それなら 金技術のテレフォンパスとか?」
「そうそう。イメージはそんな感じ。」
テレフォンパスは、地球の携帯電話みたいなもの。
切手サイズの金属で、ピアスとかペンダントとかブレスレットとかにして身につける。色や形も様々だ。
重ね合わせるとお互いの魔力を交換できて、通信が可能になる。
番号じゃなくて、登録された魔力から指定したい相手を選択して、通話できるようにする。
このモノトーン国では外門と城門に大きな魔法板が設置されていて、通信に使われているのが一番目立つ。
…というのもまだまだ民間には浸透してないんだ。ちょっと高いから…ウチにもないし。
けど、お城の兵士達は全員、国から配布されたのを持ってるし、父さんも現役門番の時はつかってたみたい。
もう少し安価になればきっと売れるよ?
メタリムの技術は最高級らしいから。
でも、なんでポケベル型…
しかもくすんだ灰色…
つか、地球人なんだしケータイでも良くないか…?神様のセンスが謎だ…
とりあえずベルトにセットしとく。
わしゃわしゃっ
「わわっ、父さん!?」
「よーし!明日はお城にいくからな。みんなで風呂屋にいくぜ!」
「あら、いいわね。ずっとシャワーだけだったもの、たまにはおっきいお湯屋ってのもいいわー。」
「風呂…?」
「おーきな深い囲いの中にお湯と薬草や果物が入ってて、怪我や病気とかが良くなるんですって。すごーくあったかいのよ。最近寒くなってきたし、体が芯からあったまるわよー!」
「ああ、森にも怪我を直す泉がありましたが、そういうのですか。楽しみです。」
「ホント久しぶりだ!いいね!」
「…ぅ……」
「どーした、ライ?」
「あ、あたし、遠慮するにゃ。みんなで行ってきてにゃ………」
がしり。
「あなたね、最近獣臭いのよ。シャワーもさぼってるでしょ……?」
「ひ、ひにゃぁぁぁあっ……!!」
「徹底的に洗ってあげるわ!」
「たっ、助けてにゃーーーー!!」
「……ああ、猫科って水、苦手だったな。」
「ライ…」
「ライ殿、不潔です。」
「あらあら。」
「はははっ!いい機会じゃないか。しっかり洗われてこい!」
「に゛ゃぁぁぁーー………!!」
……………………………………………………………………………………
「ふぎゃぁぁぁぁーーー!!!??」
「暴れるなーー!!」
「危ないわよ!」
「いやにゃぁぁぁぁ!!」
……ばしゃばしゃざばざばざば……
「賑やかだなぁ、女湯…」
「…兄ちゃん…ルーナンが、おやじ化してる……」
「え?」
……カポーン…
「…気持ちいいですね……」
「あ゛ーーーー、たまんね。やっぱいいな、風呂。」
「薬草ちょっと臭いキツイですけど、悪くないです。たまにならいいですね。」
「だろー?連れて来てよかったぜ。…ふぃー…」
「「あ゛ーーーー、きもちいー……」」
「……なんだありゃ…」
「ルーナン…完全にオヤジだよ…」
「いつの間に意気統合してたんだ…」
僕たちがすんでるのは農業地の東村。
銭湯があるのは工業地の西村。
石鹸やタオルも販売しているので、手ぶらで来れるんだ。
東村で取れた果物や薬草をつかった西村製造の入浴剤は、遠くの国からも発注が多くて、かなり繁盛してるみたい。
一番人気はダブリオレンジ、二番手はマリマリ草。
夕方………
「くすんくすん…」
「さっぱりしたでしょ。」
「ライもルーナンもモッフモフだね!ふかふかー。」
「あの、主殿…尻尾を引っ張らないでください…痛いです……」
「流石ノリエールだ、すぐに汗も水気も渇いた。」
「ふふ。風魔法の応用よ、きっとアッシュならすぐできるわ。」
「母さん、今度教えてね!」
「ライ殿…いい加減泣き止んでください…」
「けがされたにゃぁぁ…くすんくすん…」
「……お、おいおい…」
夕飯に、パンと一緒におばあさんからもらった揚げ菓子も出してもらって。
いつも通りたらふく食べて。(食べさせられた、とも言う…)
塩で歯をみがいて顔を洗って、父さんと母さんにぎゅってしてから寝る。
「「タグーグ(おやすみなさい)。」」
「ああ、タグーグ。」
「良い月夜の夢を。」
「「はーい。」」
「ふぅ…」
「くわぁぁ…つっかれたぁ……」
「……」
「ん、どうしたアッシュ?」
「……ううん、なんでもない。 ルーナン、毛布だけでいいの?」
「はい、やはり布団は苦手です…」
「そっか…」
「じゃ、また明日な。」
「タグーグ。」
「タグーグ…主殿、兄上殿。」
ルーナンは、床に毛布を引いてくるまり、そのまま壁にもたれるだけ。
どうしてもベットだと寝付けないみたい。
ライはもとから慣れてるみたいだけど。
…そのライと姉ちゃんは仕切の向こうで二人一緒に寝てるから、覗こうと思えば簡単。
でも、んなことしたらライに嫌われるよな…
しないしない。
おとなしく寝よう……
つか、本当にエロオヤジじゃないか、僕…
………ねむれねぇ…
なんか色々ありすぎて、目が冴えてる…
うー……
…キシキシ…ぺた、ぺた……
カチャ……パタン。
…ひたひた……
ん……?
姉ちゃんは靴下はいてるはずだから…今の足音はライ…?
ベットからそっと抜け出して、後を追う……
上から聞こえる足音を便りに、二階から繋がる屋根裏のはしごを上がる。
冷たい風が一瞬通り過ぎて、窓の閉まる音が聞こえて冷たい空気の流れが止まる。
もう多分屋根の上。
流石猫、身軽だな……
『みーみー…』
『にゃぁん。』
『ゴロゴロゴロ…』
「ふふ…皆久しぶりだね。ホリィも元気そうでよかったにゃ。」
『なぁん、みゃーん。』
『にゃーぅなーお?』
「私?うん、元気。よくしてもらってるにゃ。今日はお風呂に連れていかれてにゃぁ…まいったにゃ、水嫌い。」
『にゃ、にゃ!』
「あれに柑橘類入ってる日だったら、全力で逃げてたにゃ。」
『みゃーぅなぁーぉぅ…』
「…うん……一緒にいたいにゃ…でも…怖い…食べるためなら殺すだけでいい。あれは、虐殺にゃ。……あのアッシュにあんな殺戮衝動があるとは思えないにゃ…もしかしたら…どこかの世界から転生してきたアッシュじゃなくて、こっちから転生したアッシュの性質…なのかも…やっぱりおかしいんにゃ。そう考えるのが自然かもしれな――――」
がたんっ
「あ、アッシュ!」
『シャーッ!』
『みぁーん?』
『にゃーっにゃー!?』
「……もしかして、毎晩こうやってお話してたの?」
「う、うん……」
「そっか。 初めまして、猫さん。」
『シャーッシャーッ!フーーーッ!!』
黒猫が、威嚇してくる。
白猫は足元によって来て、するすると尻尾をそわせて足にもたれてきた。よく見たら首輪がある。
「そんなに威嚇しないでよ、怖くないよ。」
「あ、アッシュ…あのね、わたしは、その…」
「もう一人の僕については、まだわからないよ?」
「!」
「僕に、もう一人分の命があるのは、多分間違いないよ…違う世界に来た、それだけでも不思議なのに、もう一人の僕が出て来たらきっと…僕は居なくなるんだと思う。」
「アッシュ?!」
くしゃくしゃっとふわふわの天パを撫でる。
「僕は、それまでにライを手に入れるからね。」
「……え!?」
「こいつがライのこと、どれだけ好きでも。諦めないよ!」
「にゃ、にゃ?!」
「今の会話、聞いててわかったんだ。やっと…僕が動物の声を聞き取る能力にある欠点。」
「にゃぅ?」
『シャーッ!!』
ぷらんと、黒猫の背中を捕まえてぶらさげる。
「乱暴しちゃダメ、アッシュ!」
「この黒い野良、ライに恋してるよね。」
「!」
「けど、ほかの三匹の声はわからないんだ。」
『離せ、うらぁ!てめーがライを泣かせたんだろごらぁ!!』
「そうだね。ごめんね…君が大好きなライを泣かせたのは、確かに僕だ。でも、僕だってライが好き。渡さないよ…?」
『っ!!てめ、本当にわかるのか……!!な、なんか余計にむかつく!離せ!!』
「わかったわかった。ほら…」
だだだーっとかけていく黒猫。
つられるように白猫とブチ猫、トラ猫が去っていった。
「……ほ、本当…?」
「うん、僕に好感をもっている動物の声はわからないんだ…」
「つまり…アッシュがモンスター討伐にいかなくなったのは…断末魔が聞こえるから…?」
ライの薄褐色の顔色が、青ざめた気がする。
「そうだね。はっきり聞こえるようになったのは、ライに出会ってから…だよ…きつい拒絶を受けたのがライが初めてだったから、能力がはっきり開化したんだと思う…」
「わ、わたしのせいで…っ…」
「違うよ。ライのおかげで、気がついたんだ。僕がいいたいのはありがとうだよ。」
「…?」
「鍛えれば、オンとオフを切り替えられるようになるはずだから大丈夫。御礼が言いたかったんだ。でも、照れ臭くて…たまたまライが外に行くのに気がついて、ついてきたんだ。勝手に来てごめんね?」
「アッシュ…」
「大好きだよ、ライ。もし君があの黒猫に捕まったとしても。奪うつもりでいくからね…?」
「う、にゃ…?!」
「タグーグ(おやすみ)、ライ。」
「に、にゃぅっ、…た、タグーグ…」
金の月を背景に立つライは、とても綺麗だ。
それ以上、何もいう必要なんかない。
とにかく恥ずかしい…!
ひたすら、こっそり走ってベットに滑り込んだ。
「アッシュ…どうしよう…どうしたらいいにゃぁ……」