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君の笑顔が消えた世界で、夏だけが騒がしい。  作者: 伏見 ひより
【第一章】君がいない夏が始まった。
1/1

#0/君がいなくなった世界

 夏の蝉はうるさく、鳴き止むことはなかった。

ミーンミーンという音は耳にこびりついた。そんな音を背後に君の声を思い出す。

(トオル)!この木、たくさん蝉いる!”

公園の木の前で、蝉にはしゃぐ君。もう高校生なのに、子供っぽい笑顔を見せた。

———もう一度、見たかった。

君は突然、鬱陶しいくらい粘り気のある蒸し暑い夏の日。


 交通事故で死んだ。


 受け入れることはできなかった。受け入れたくなかった。幼稚園、そんな小さいころから僕の記憶の中にいて。存在していて当たり前と思っていた。そんな笑顔が一瞬で消えたんだ。

嘘だと思いたかった。夢だと思いたかった。でもそれは現実で、止まらず夏は進んでいた。

 学校へ向かう足も思うように動かない。黒いズボンの中は暑くてたまらない。白い半袖のワイシャツ、薄いはずなのに涼しくはない。感じる風すべてが生暖かく、扇風機もぬるい風を運ぶだけ。

 重い腰をあげ、鞄を持ち玄関へ向かった。

「行ってきます。」

 両親は海外出張。実質、今は僕だけ。一人暮らしのようなものだ。返ってこない”行ってきます”。最初こそは寂しかったが、”君”がいたから別にどうってことなかった。

 でも僕からはもうすべてが消えた。”君”もいない、両親だって帰ってくるのは先のこと。自分の居場所はどこにあるのか、もうこれで完全にわからなくなってしまった。

立ち直る自信も、新たに頑張る気も何もない。いっそのこと、”君”の後を追いたい。そう願うほどだ。

 「沙耶(サヤ)…」

君の名前を呟いたって返事は返ってこない。

 ”ただいま!”その一言だけでも聞きたい。それなのに、そんな現実は絶対に来ない。もう沙耶は死んでいる。葬式だって行った。沙耶の親とも話した。これは受け入れるしかない現実だ。でも、受け入れる準備はできていない。

 俯き、太陽の光を受け入れぬまま学校へ向かった。車道を通る車の走行音が聞こえる。安全運転。それなのに、”交通事故”という言葉が頭をよぎり苦しくなる。沙耶は悪くない。信号だって、左側走行だって守っている。ただ相手のトラックの運転手が悪い。過労によって居眠り運転、アクセルの踏みっぱなし。それに偶然会ってしまっただけ。ただ、運が敵に回っただけ。

あと一分、一秒違ったら何か変わっていだろうか。君の笑顔はここにまだ残っていただろうか。

 そんな無意味なことを考えていたら学校へ着いた。今日もまた、意味の感じない日が始まる。


 * * *


 今日は特に何もなく進んだ。数学だって簡単な練習問題ばっか。それで”わかんない”と悩んでいる人の様子を見ると嫌気が差す。

 国語は少し苦手。いや、結構苦手だ。筆者の意図や主張などどうでもいいと感じる。読んで、内容が分かればそれ以上探索する必要性を感じない。文豪作品なども何を言っているのか理解できないことが多い。

 社会は嫌いではないが、テストの点はいまいちだ。

 理科は好きで、生物の話を聞くのは楽しい。理科の先生のした、蛇とカエルの話は面白かった。

 英語はまぁまぁだ。平均程度はできるがスラスラと文を作ることは苦手。

 完全に理数系という感じである。でも最近は沙耶のこともあり勉強が身になっている気がしない。夏の蒸し暑さも、授業で面白いことがあったときの笑い声も、蝉の声も、喋り声も鬱陶しいとしか感じない。

こんな一日が続いていくことが嫌でしかない。生き甲斐を見つけられない。沙耶がいなくなった、それだけでここまで気が沈むとは…喪失感はまだあるときには気づけないものだ。

 「透~今日も一緒に帰れない?」

話しかけてきたのは小さいころから仲の良いクラスメイト。いつも一緒に帰っている。気が沈んでいる僕を助けようとしてくれているとわかるが、正直鬱陶しいと感じてしまう。

「ごめん。今日も無理。」

「そっか~また明日。」

また明日…か。明日なんてみたくもない。ただ苦しいだけだ。


こんな日常が、今日も明日もずっと続いてしまう___。


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