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07.反省会はきちんとしよう.xls

 結局、上層部からは許可が下りたため、僕は更新確定(コミット)される前の状態の聖女セフィリアちゃんの魂を確保すべく、勇者世界のSouReinDB(ソウリンデービー)復元(リストア)する結果となった。

 1日ないし2日程度のトランザクション・ログを遡ったところ、丁度ストレージに確保可能な状態の融合率で聖女セフィリアの魂が保存されたポイントを見つけたので、その時点に復元(リストア)することで事なきを得た。

 で、圭子さんが担当してくれていた聖女世界側の勇者の魂なのだが……結局そちらも上層部からの許可を得て、同じ要領でSouReinDB(ソウリンデービー)復元(リストア)して、こちらも無事ストレージに確保できた。


 簡単にまとめると、2人の魂は両方とも(約1日前の状態ではあるが)無事、確保することに成功した、というわけだ。


 その後、僕たちは運用部署へ確保したデータを引き渡し、運用部署の連中はそのデータを使ってそれぞれの環境のSouReinDB(ソウリンデービー)に再度更新(アップデート)をかけ、本来あるべき姿に戻った。


「嫌な事件だったねぇ」


 圭子さんが後ろから声をかけてくる。

 やはり手にはコーヒーを持っており、差し入れとして僕の机の上に置いてくれた。


 障害解決後、案の定運用の連中が僕に障害報告書の作成依頼をかけてきて、僕はイライラしながら報告書はお前らの仕事だろ、と突っ返すメールを作成している最中のことだった。


「ほんとですよ」


 僕は圭子さんがくれたコーヒーの苦さに今回の事件の苛立ちを混ぜ込むようにして飲み干す。


「……で、結局誰がサトウタロウ君のデータを削除(デリート)しちゃったのかって分かったの?」


 僕は腹立ち紛れにリターンキーを叩き、作業を終える。


「あれも、運用部署のオペミスだそうです。なんとか復旧できないか、SouReinDB(ソウリンデービー)をあれこれ弄り回してて、やっちまったとか。ロクに何も出来ないくせに余計なことばっかしやがって……」

「あらら。結局最初から最後まで彼らの瑕疵(かし)だったわけだ」

「ですね。はぁ~~~ぁ……後味悪い……」


 コーヒーを飲み干してしまったので手持ち無沙汰になり、僕は大きなため息をついた。


「まぁ、顧客からは怒られなくて良かったじゃん。むしろ、今回の早期解決に君の功績が讃えられてるって噂だよ?シス管7Gさまさまだってね」


 圭子さんはそんな風に言ってくれたが、僕は怒りが収まらなかった。


「ホントだったらサトウタロウ君本体は消されなくて済んだんですよ……」

「言っても、その魂だって元の世界のコピーだしねえ……」


 圭子さんにそう言われて、気付く。

 ……確かに、そうなのだが。


「そもそも、彼の魂は一度現世……現実世界でトラックにはねられてる時点で、霊界……だっけ?冥界……だっけ?まぁ、どこでもいいや。魂の保管世界に『本体(オリジナル)』が保存されたわけじゃない?」

「そっすね」


 僕はぶっきらぼうに答えた。


「我々はその魂の処遇を、『上』の決めた通りに更新し、メンテナンスするだけの仕事じゃあないか。私は、正雪(まさゆき)くんがそこまで彼らの命に対して気負う必要性はないと思うんだけれどねえ」


 あくまでも我々は我々の仕事をこなしただけなのだ、と言う圭子さん。


「だとしても、僕らは彼らの生命を好き勝手に削除(デリート)していい権限は与えられていないです。ましてや、計画的な命令でどうしても、って言うんならともかく、瑕疵で削除(デリート)した事に負い目を感じないなんて、僕には無理ですよ」


 そこに一定の責任を感じてしまう僕。

 圭子さんはなおも言い募る。


「じゃあ訊くけど、サトウタロウ君の生命は、君が削除(デリート)したのかい?」

「違いますけど」

「じゃあ、正雪くんは悪くないよ。悪いのは運用のバカオペレーター」

「そこに関しては同意ですが、心情的には納得しかねますね」


 僕は苦笑しながら、圭子さんのドライな考え方を傾聴する。


「まー、私はこんなだから君の考えに賛同こそできないが、君のそういうこだわりの強いところっていうか、仕事に対して真摯な所は結構好きだよ」


 不意打ちみたいに圭子さんが言ってきた。


「……なんすかそれ。オフィス・ラブっぽいこと言い出しちゃって」


 ただの先輩にドキッとさせられたのが腹立たしくて、混ぜっ返してみる。


「ははは、人妻相手にそういう台詞は控えたまえよ。不倫になるぞ?」

「圭子さんが先に言いだしたくせに」


 圭子さんが軽口を叩き、僕は笑いながら受け流す。


「とりあえず、先日はお疲れさまでした。5年ぶりに『戦友』の勇姿を見られて、なかなか楽しかったよ」

「言っても僕らの仕事、彼女らの魂見つけ出して一時保存してただけですけどね……」


 どうしても結末の後味の悪さのせいで自虐的になる僕に、圭子さんはあくまでも泰然と言う。


「そういう地味な仕事が世の中、結構大事なのさ」


 ひらひらと手を振り、圭子さんは自分の所属するフロアへ戻っていく。


「そんなもんですかね」


 僕も手を振り、考える。


「どうすれば良かったんだろうなぁ」


 ……なんだか、いつもこんな事を考えている。

 上手く仕事が終わった、と他人から評価されても、なんか納得行かない。

 構築の仕事も、運用の仕事も、いっつもそうだ。

 分かりやすい『成果』が見える時ほど、自分に厳しくなってしまう。

 逆に、『成果』の見えない時は、自分を甘やかしてしまう事もある。


「世の中ままならないね」


 僕はため息をつき、再度メールを確認する。


「まーた報告書作成依頼の返信かよ。いい加減にしろっつーの」


 運用部署からのメールを僕は乱暴に返しつつ、定時まで仕事を続けるのだった。

『はい、こちら転生管理システムです!』7話です。


事件解決、一区切り……な回。

かなり自分の『嫌な思い出』に寄せて書いてます。ほぼエッセイですね。


ここまで殆ど即興で仕上げた割に、結構いい感じに出来たかなーと個人的には思ってます。

次のネタが特にないので閉じちゃうかも知れないけど(なので、一旦完結済みにします)

もし同じ職種インフラエンジニアとして○○ってネタも読んでみたい!とかあったら

是非コメント下さいね。


ではでは!


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面白かったので続きが読みたい!という方は


評価で★★★★★をお願いします。


ブクマ・感想、レビューなどもお待ちしております!

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