番外編・悪役令嬢の結婚式
「あ、あのね。ラゼ……。結婚式の日取りが決まったの……!」
定期的にモーテンス邸に招かれ、お茶をするようになったラゼに告げられたのは、めでたい知らせだった。
今日はロビーで招かれた時から、どこかそわそわしている様子だったのが気になっていたが、カーナがなんとも微笑ましい表情を浮かべて報告するのを見て、ラゼは心から安堵し喜んだ。
「ついにですか……! 本当におめでとうございます。なんとしてでも、絶対に出席させてください」
「ふふ。そこはまず、いつですかって聞くところではないかしら?」
前のめりに返事をするラゼに、カーナは微笑む。
「まあ、いつどこであろうと出席するんで」
「さすがラゼ。あなたが言うと説得力が違うわ」
嬉しそうににこにこしたままカップを手に取った女神は、また一段と綺麗になられた。
ルベンとの婚約が破棄されるかもしれないと怯えていた彼女は、もうここにはいない。
(学生時代は、いつ破滅するか不安がってたのが嘘みたいだ)
当時からすでにルベンに溺愛されていたが、それでもカーナは乙女ゲームのシナリオを恐れていた。
見ている側からすれば、とっととくっついてしまえとしか思わなかったが、本当にシナリオ通り事件が起こるのだから胃の痛い話で。
(結婚式が無事に終われば、ルベン殿下のルートは完全に攻略済みってことだよね。本当によかった。……けど、まだ気は抜けないな……)
カーナの結婚式、それ即ち皇子の結婚式だ。
そろそろ挙式するということは、すでに噂を耳にしていた。何せ、準備には時間が必要だから。
「式は来春よ。四月の三日」
「何か特別な日なんですか?」
「……その、殿下との婚約が決まったのがこの日で……」
「へぇ! 記念日だったんですね!」
城が忙しくしていることはチラッと知っていたため、いつになるのかなーとは思っていたが、もう二か月後とは。
本格的に大舞台が迫ってきていると思うと、参加者の自分までドキドキしてくる。
「招待状はまた準備が整い次第渡すわ。フォリアさんにも声をかけているから、是非ふたりで」
「はい。必ずそうします!」
きっとカーナのドレス姿は最高だろう。
この目にしかと焼き付けなければ。
ラゼは式の日付を頭に叩き込むと、祝いの品を用意しなければと、さっそく準備に思いを馳せた。
◆
「もう聞いているかもしれないが、皇子殿下とモーテンス令嬢の結婚式の日程が決まった。貴官には、是非とも参加してもらいたい」
カーナから直接結婚式の日取りを聞いてから数日後。
久しぶりに死神閣下に呼び出され、まーた厄介な仕事を言いつけられるのかと身構えたラゼに、ウェルラインは笑顔で言い放った。
最近は結婚式のことでばたばたしていると聞いていたから、そのうち何か言われるかもしれないとは思っていたが、彼の営業スマイルを見るとなんだか不安になる。
「……ハイ……。カーナ様にはすでに参加すると返事をしてしまっているのですが……」
まさか、当日に護衛に着けなんて言わないだろうな……と。
ラゼは恐る恐る問い返す。
「ああ。もちろん構わない。その日はたとえ何があろうとも会場にいてもらうから、そのつもりで」
(……ああ。なるほど……)
つまり、仕事より結婚式を優先しろというお達しらしい。
「承知いたしました。無事に結婚式が執り行われるよう、証人のひとりとして望ませていただきたく存じます」
「……はは。そこまで気を張らなくていい。ただ、まあ。人の出入りも多くなる。君の出番がないことを祈るが、彼らの周辺には気を回してほしいというのを伝えたかった」
「――ハイ」
……いや、これも仕事の一環か?
まあ、仕事か仕事じゃないか、なんてつまらないことを考えて結婚式を楽しめないなんて馬鹿らしい。
皇立魔法学園にいた時に、切り替えの塩梅は覚えた。
「私の息子も参加予定だから、会った時にはよろしく頼むよ」
肩をすくめるウェルラインは上司ではなく友人の父親の顔をしていて、ラゼの肩から力が抜ける。
「……はい。アディス様は、お元気にされていますか? 宮廷官吏のお仕事で、忙しくされているのでは……?」
「あれは、私の息子だね……。最近はバネッサに私の働き方をみて育ったから、アディスまで仕事ばかりの生活をするようになってしまったと叱られている……」
遠い目をしてそうこぼすウェルラインに、ラゼは苦笑した。
「どうぞお身体にはお気をつけてお過ごしください。お二方とも」
一瞬頭によぎるのは、まだ回復の目処が立たない自分の父親のこと。
やれやれと卑下しているが、そういうことが言えるのもふたりが健在だからこそだと思うと、少し羨ましい。
「それは是非とも、本人に言ってやってくれ。君が言うなら、あいつも少しは自重するだろう」
「……そうでしょうか? でも、お会いできたら、たまには閣下とふたりでバネッサ夫人を喜ばせてあげてくださいとお伝えしておきますね」
「――ハハッ!」
作り笑いではなく砕けた笑い方をしたウェルラインは、死神宰相なんて二つ名を持つような男には見えない。
「バネッサが会いたがるのがよく分かる。家族ともども世話になるな。君には」
「私の方こそ、いつも助けていただいてばかりですよ」
こうして軍人として、そこそこ成り上がってここにいれるのは、ザース一家の力添えあってのことだ。
不思議と縁のある彼らとの付き合いは、これからも続けていきたい。
「それでは。そろそろ会議の時間ですよね? 私も業務に戻ります」
「ああ。くれぐれも気をつけてくれ。君が結婚式に出られないなんてことになったら、なんと言われるか」
「――胸に刻んでおきます」
おまけです。投稿我慢できませんでした()




