番外編・悪役令嬢の結婚式②
「ん〜。王家の結婚式ともなると、きっと人も大勢いるのよねぇ。二次会にも参加するとなると、狼牙を品定めしてくる輩もいるだろうし、手は抜けないわ! 母さんはどう思う?」
「そうねぇ……。この前は青のマーメイドドレスだったから、また違ったテイストのドレスでも素敵じゃないかしら」
ドレスのカタログを積み上げた机の前で、あーでもないこーでもないと試行錯誤しているのは、オネエさん軍人のジュリアス・ハーレイである。
そして、ここは皇都で有名なブティック。
ジュリアスの母親テナ・サリバンが経営しており、祝勝会でのドレスでも大変お世話になっていた。
そして今日は、カーナの結婚式に参加するためのドレスを選びに来ていたわけである。
「……あの、どれもすごく素敵なドレスなので、今回は既製品のものから選べればと……」
またオーダーメイドにしようと言い出される前にと。
ラゼは頬を引きつらせながらジュリアスとテナに告げる。
「んもう! ラゼったら、カタログから無難なドレスを選んで終わりにするつもりだったでしょう? それじゃあ、ワタシは許さないんだから!」
失礼に当たらないくらいのドレスを用意したく、ジュリアスに相談したところ、こうしてブティックに連れてこられた。
ラゼとしては、最低限の見栄えがれば十分で、ここに置いてあるドレスならなんでも大丈夫だろうという信頼あっての主張なのだが、ジュリアスは不満らしい。
「今回は主役もいらっしゃいますし、そこまで力を入れなくても……」
「だ・め・よ! アナタも貴族の一員ってこと、忘れちゃ!」
「…………はい……」
完全に言い負かされて、ラゼは積み上げられたカタログに手を伸ばした。
(どれが自分の体に合うかとか、よくわからないからジュリアさんに見てもらえるのは嬉しいんだけど……。また時間がかかりそうだなぁ……)
前にドレスを仕立てたときは、バネッサが手伝ってくれた。
何着も試着をして、抜かりなく準備してもらったのは助かったが、自分の着飾った姿を何回もいろんなパターンで見なくてはならないのが、どうにも疲れて。
「なるべく動きやすいドレスだと嬉しいです……。何かあった時に動けるくらい……」
「……ん〜。ラゼがそう言うなら、シンプルで高級感のあるドレスにしましょう」
「それなら、こんなのはどうかしら?」
「へぇ!! 素敵! 見たことないタイプね。どうしたの、このデザイン?」
テナからスッと差し込まれたドレスに、ジュリアスが目を丸くする。
テナが離婚した後は離れていたふたりだが、雰囲気がすごくよく似ていた。
ジュリアスも元々は服飾の道に進みたかったそうだし、話が盛り上がって楽しそうだ。
「ラゼ! これはどう!?」
「…………あ。結構、好きかもです」
「でしょう!? これ、すっごくレースが素敵なの。シンプルだけど上品でいいと思うわ!」
これだけ立派なレースだと、お値段がするんだろうな、と。一瞬でも頭によぎるが、貯金ならある。
こういう時にでも使わなければ、いつ使うのかと言い聞かせると、ラゼはジュリアスに勧められたドレスを購入した。
◆
「ラゼちゃぁあ〜ん!!」
待ち合わせで待っていると、目が合った瞬間、走ってくる親友に思わず笑みが溢れる。
「はは。走んなくても逃げないよ」
「へへ! ラゼちゃんに会えるの嬉しくて!!」
突撃してきたフォリアを受け止めると、屈託のない笑みを浮かべた彼女が身体を離した。
「なかなかお休みが合わなくて寂しぃよぉ。今日は有休使わさせちゃってごめんねぇ」
「そんなの気にしなくていいよ。私もこうやって一日一緒にいられるの嬉しいし」
フォリアは皇国病院で治癒師として働いてる。
まだ新米なのにエース並みの働きをしているらしく、最初の頃は少し痩せてしまって心配なくらいだった。
仕事終わりに一緒にご飯を食べるようになったのも、それが理由だったりする。
「よぉし。さっそくだけど、カーナ様の結婚祝い探し張り切っていこー!!」
「うん」
休みを合わせて時間を取ったのは、ふたりで一緒にカーナへの祝いの品を選びにきたから。
次期皇后に贈る品となると構えてしまうが、学友として祝いたいという思いから、ささやかながらフォリアとふたりで出資することにしたのである。
「きっとカーナはたくさんお祝いの品をもらってるんだろうねぇ」
「私も色々考えてきたけど、難しいよね……」
歩きながら皇都の商店街を目指してみるが、そもそもここに集まるものなら、カーナだったら簡単に手に入る気がする。
「すっごく高価なものとかは、やっぱりわたしたちが用意するのは違う気がするけど、だからと言ってお花とかありきたりすぎるものもなんか違うというか……。うーーーーん」
これまでも何がいいか、色々と案を出し合ってはいたが、結局モノを見て決めようということで今日まで延びていた。
「そもそも、わたし、結婚式って参加するのが初めてで……。それも、王家の結婚式ってなると、すっごく緊張しちゃうよ……」
「そっか。まあ、すごい人たちが集まりそうではあるよね」
「……そのすごい人たちの中に、ラゼちゃんも入ってるの忘れてない??」
「えー? 私はカウントしなくていいでしょ。こうやって一緒に買い物する仲なんだし」
「そ、そうだけど、そうじゃないと言うか……」
しょぼんとしたフォリアが言いたいことは分かる。
狼牙なんて称号があるから、フォリアからすればラゼも偉い人の仲間入りなのだろう。
しかし、中身がこれだ。まったく一緒ではない。
「ラゼちゃんは、軍人さんたちの結婚式に出たことがあるんだよね? その時は何を贈ったの?」
「無難にお酒。何本あっても困らないだろーし、消え物だし」
「なるほどぉ」
部下の結婚式といえば、昔会場の近くにつけておいたマーキングが、学園祭の準備をした時に役になったなと思い出す。
「なんか、こう、カーナ様のために何か役に立てるモノを渡せたらいいんだけどなぁ」
「どれも、私が用意しなくてもって思っちゃうところが悩みどころだよね」
「そうなの。凝すぎなのかなって思うけど、妥協したくないよぉ!!」
商店街に入ってからも、なんとなく目当てのものが見つからずに外をぶらぶら。
「わたしたちらしいプレゼントってなんだろうねぇ……」
「んー。一回、プレゼントから離れて考えてみたほうがいいのかも?」
ラゼが言うとフォリアは腕を組み、立ち止まる。
「たとえば、ラゼちゃんといえば甘いものだよね」
「フォリアといえば天使ふわふわ可愛い」
「……んん……。そう思ってるのは、ラゼちゃんだけかも……」
「そんなことないが??」
何を言ってるんだと。
強めの圧を放つラゼに、フォリアは苦笑だ。
「あとは得意型の魔法にちなんだものとか……?」
「あー。確かに、得意な魔法ってその人のイメージになってるかも」
カーナは氷の魔法を得意としている。
ちなみに、ルベンは水と炎の両方に長けた使い手だ。
(氷魔法なら、スケート靴とか意外性あっていいかもだけど、結婚祝いにはなぁ……)
なかなか難しい話だ。これだ、というぴったりのものが浮かばない。
「あ!! じゃあさ、逆にわたしたちの得意な魔法をプレゼントするっていうのは!?」
「魔法を?」
「うん! ラゼちゃんの移動魔法とわたしの治癒と浄化の魔法を組み合わせて、何かできないかな?」
「なるほど」
転移装置なるものは、この世界に魔導具として存在している。治癒魔法についても、応急処置程度なら効果を発揮する魔導具はある。
魔石と回路を記した方陣があれば、魔法が発動する道具は製作可能。
ありきたりな移動魔法はさておき、フォリアの浄化魔法を付与できれば国宝級の魔導具になるだろう。
が、それがホイホイ簡単にできれば、苦労はしない。
フォリアの言葉を現実にするには、魔法を付与するための回路の発明から必要になる。
「今から、そのふたつを組み合わせた魔道具を作るってのは現実的ではないな……。転移装置を準備することはできても、治癒魔法と合わせてってなると……」
「それなら!!!」
フォリアは弾かれたように顔を上げた。
「何かあった時に、わたしたちを呼び出せる転移装置を用意すればいいんだよ!」
興奮した面持ちの彼女が話し出した案に、ラゼは驚きに目を見開きながらも、うんうんと頷き返す。
「――確かに、それなら準備できる。けど、フォリアはいいの? その……ぶっちゃけ結構、私たちにも負担がかかる贈り物になるけど……」
「大丈夫! お妃様になるカーナ様のことを考えたら、全然負担なんかじゃないよ!」
「……そっか。それなら道具は私が用意する。マーキングが必要になるから、フォリアも何に印を刻むか考えておいて」
「うん! わかった!!」




