朝食会
「レン様。起きてください。」
誰かの声が聞こえる。
誰の声?聞き覚えはない。
父さんの知り合いかな?また父さんは俺達に内緒で誰か連れてきたのか?久しぶりに帰ってきたなら、家族水入らずで過ごせるようにすればいいのに。いつも、必ず誰か連れて帰ってくるんだから。
「レン様。もう朝ですよ。起きてください。」
何か俺、揺れてるな。誰かが揺らしているのか?うーん。もう少し寝せてくれよ。まだ起きたくない。
「…レン様!起きてくださいませ!」
「……ん……。……な、に?」
俺は大きな声で呼ばれて、ついに渋々目を開けた。
うーん。まだ眠いな。
「レン様、おはようございます。やっとお目覚めになられましたね。もう朝食の時間が差し迫っております。ご支度をしますのでお急ぎ下さい。」
挨拶をされ、俺が声が聞こえた方に目を向けると、そこには青い髪を肩あたりでゆるく結んだ一人の青年がいた。瞳も髪と同じで青だ。それにとてもきれいな顔をしている。まるで芸術品の様だ。ここまできれいだと罵る気もおきないな。
「………レン様?」
青年は不思議そうに首を傾げた。俺がじっと見つめていたせいだろう。
だが、そんな仕草も様になっている。
・・・というかさ、今気づいたけど、ここは何処だ?そしてこいつは誰だ?それに何でこいつは青色の髪に瞳をしているんだ?染めたのか?カツラなのか?コンタクトなのか?それとも地毛か?外国人か?どれなんだ?
「…………誰?」
俺は頭の中で色々と考えた末、結局口から出て来たのは、そんなシンプルな言葉だった。
「ああ。これはご挨拶が遅れて申し訳ございません。私はこの家で執事見習いを勤めております、セシル・シルバートと申します。今日からレン様のお世話をさせて頂く事となります。宜しくお願い致します。」
青年、改め、セシルは、そう一息に言うと、頭を下げた。
「え、えっと、はい。お、私はレン・サガラと言います。よろしくお願いします。」
俺は、え?執事ってあの執事?と思いながらも、日本人の性なのか、反射的に挨拶を返していた。
「はい。では早速ですが、既に朝食の時間が迫っておりますので、ご支度の準備を致したいと思いますが、宜しいですか?」
「え、………はい。」
俺は何を言われているのか理解しないまま、ただ頷いた。
それからは、あれよあれよ言う間に着替えさせられた。
そして、支度が完全に整う頃には、俺は今の自分の状況をはっきりと思い出していた。
そう。俺は異世界転移というものをして、ジーンに拾われ、今はジーンの家族に会いに来た翌日だった。
昨日は、昼食を食べると、部屋に案内され、俺は疲れから広い布団に寝っ転がると、そのまま眠ってしまった様だ。何故か朝起きたら寝巻きみたいな物に着替えていたから、黙って夕飯を欠席した事にはおそらくならない。…………筈。
今、俺の心配はそれだけだ。
それにしても、この世界に来て初めて、日本の事を思い出したな。今まで、何だかんだ言ってまだ心の整理がついてなかったんだろうな。と言う事は、今はもう心の整理がついたということか。確かに、日本の事を思い出しても懐かしいな、としか思わなかったからな。俺は薄情なのか?
「レン様。参りましょう。もう時間が迫ってきております。」
「え?あ、はい。」
俺はセシルに呼ばれて、考え込んでいた頭を上げた。
そのまま、セシルが食堂に促して来た為、俺は一旦考えを保留にすると、あとに続いた。
✽✽✽
「おはよう。レンちゃん。」
食堂に着くと、奥様に一番に声をかけられた。当主様はまだ来ていないようだ。
って、レンちゃん!?今、レンちゃんって言ったよな!?何でレンちゃん!?昨日までレンって呼んでたのに!流石に二十一歳にもなって、レンちゃんはないですよ!奥様!・・・あ、そう言えば今は七歳の姿だった。やばい。今朝日本での事を思い出したばっかりだから、つい忘れてた。…でも!やっぱり精神二十一歳の俺にはきつい!
「レンちゃん?どうかしたの?早くお座りなさいな。」
「えっ!?いいえ!はい!」
おーい!俺!いいえ。はい。って一体何だよ!?おかしいだろ!動揺しすぎだ!ほら、奥様達も不思議そうに見てるじゃんか!あー、ちょー恥ずかしい!
「レン。」
ジーンに名前を呼ばれてそっちを見ると、腕を掴まれて、隣に座らさられた。
「ごめんなさい。ジーン。ありがとうございます。」
「いいや、これくらい別にいい。それに、お前こそ大丈夫か?」
「え?……あ、はい。俺はもう大丈夫です。」
流石ジーン。伊達に何ヶ月も一緒にいない。俺が混乱している事に気づいて、意識を逸らすために座らせてくれたみたいだ。
俺はその気遣いに小さな声でお礼を言うと、前に向き直って朝食が運ばれて来るのを待った。
暫くすると、当主様が、その数分後には四人のメイドが台を引いて食堂に入って来た。
その瞬間、食堂にいい香りが広がった。
俺は久し振りに魚の匂いを嗅いで、喉を鳴らした。
いや、ジーンの家でもちゃんとご飯は食べてたんだがな、如何せん男の一人暮らし(今では二人暮らしだ)、ご飯がまともに作れる訳がない。俺は一応料理は出来るんだが、ジーンが危ないから駄目だと言うので、この世界でした事はない。だから、選択肢は自ずと限られて来る訳だ。その結果、一人では外出出来ない俺の為に、ジーンは屋台の料理を買って来てくれるのだが、その中身が肉しかない。とにかく、肉肉肉。朝から晩まで肉。肉づくしで、俺は早いとこノックダウンされた。
それが久々の肉以外の料理の香りだ。俺が喉を鳴らすのも仕方ないだろう。
俺は目の前に置かれた魚料理を一口食べて「美味しい」と呟くと、それからは何も言わずにどんどん口に入れていった。日本でも食べたことが無いほどの余りの美味しさに、礼儀作法なんて頭から飛んでいた。
それから暫く、俺が我に返ったのは、皿の上のものがなくなってからだった。ヤバイと思い、俺が
そろそろと顔を上げると、
「…っ……。」
奥様と目が合った。なにか言われると思い、俺は反射的に身構えた。
「……レンちゃん。美味しかったかしら?」
奥様の最初の言葉に、怒られると思っていた俺は拍子抜けしてしまった。
「はい。美味しかったです。すいません。つい、美味しすぎて急いで食べてしまいました。」
「ふふっ。いいのよ。貴方が美味しそうに食べてくれるのを見ていると、私も気持ちがいいわ。」
「そう、ですか。」
オブラートに包み込んでくれた。がっついていた自覚があるだけに、そう言ってくれるのはありがたい。今後は気をつけよう。こんなドキドキはもう味わいたくないしな。
「レンちゃん。この後、九の時頃に、一緒に来て欲しいところがあるのだけど、着いてきてくれる?」
「はい!」
俺は奥様の言葉に即座に頷いた。
え?何処に行くのか聞かなくても良いのかだって?良いんだよ!ジーンが何も言わないから、危ない事ではないんだろうし。それに、居候、じゃなくて、養子の身では断りずらいからな!
そうして、俺が内心で言葉を並べ立ててる間に朝食会はお開きになり、俺は奥様の指定した時間になるまで部屋でゴロゴロして過ごしたのだった。




