静かな別れ
一章の二話を増量しましたー。⋯⋯ たくさん増やした時には更新された小説の場所に出現するして欲しい感はあります。一回取り下げてもう一度投稿すればいいんでしょうか。
で、今夜の寝る場所だが、アンナさんは客間でいいとして、僕らはどうするかだな。一人も一階にいないのは不用心な気もしてきた。鍵を閉めてれば大丈夫なのかなあ。アンナさんが物取りするとも思えないけど、用心するに越したことはない。⋯⋯ むしろ全員客間もありか?
思ってたよりも簡単にみんなの了解は得られた。⋯⋯ これが君の名は効果か。普通に美人先輩と同じ部屋に泊まってたからなあ。衝撃出したね、はい。
「アンナさんともう少しだけ一緒にいたいなあって思ってね。」
理由を聞くとユウキは照れたようにはにかんだ。
「お主らがそういうのならわしも付き合うわい。」
シロは消極的賛成って感じだな。
「狭くないですか? 」
「たまにはそういうのもいいわね。」
イチフサは反対みたいだったけど、サクラが弾んだ声で賛成したので、全員で寝ることになった。
「えっ、みんなここで寝るんですか。」
アンナさんは驚きをあらわにする。普通客人はあり合わせの寝具を与えられて離れで寝る。常識だ。たぶんどの世界でも。⋯⋯ というより、滅多にこないんだから当然といった方が正しいかもしれないが。
一瞬顔が曇った気がしたがアンナさんは何事もなかったかのように頷き、僕らは一緒に寝ることになった。
それでなんの意味があったのか。もしくはイベントがあったのかと言い換えてもいい。
結論から言おう。何もなかった。美人のエルフお姉さんと最愛の幼馴染と白髪幼女に年頃の女の子二人。この全員に囲まれて眠っていたのに本当に何もなかった。夜中目がさめると目の前にはみたいなドッキリも、トイレから帰ってきて転んで体が重なるようなハプニングも何もなかった。ただただ快眠だった。自分の深く眠れる体質が恨めしい。
そんなわけで僕が起きたのは少し空が明るくなりかけた明けの口。またの名を暁だった。暁って語感と比べてかなり暗い時を指す言葉なんだよな。まだまだ日は登らない白むか白まないかすら微妙な時間帯だ。まあ、山ではだいたいこの辺りにはもう起きてないと遅いんだけど。
目を覚ました僕は薄すぎる明かりを頼りにすることを諦め、夜目を凝らした。動くものの姿がある。特徴的な耳が濃い影の正体を僕に知らせた。
「アンナさん! 」
思わず大きな声を出してしまう。
「なにー」
「なんじゃ〜」
「なんです?」
「なんなの」
寝ぼけているみんなの声が返ってくる。起こしてしまったようだ。夢うつつのままだが。
「剣さん。ありがとうございました。また機会がありましたらゆっくりお話ししましょう。」
彼女はそう言って一礼をし、静かに部屋を出て行った。玄関がばたりと音を立てて彼女がいなくなったことを知らせる。
「えっ、剣、アンナさんは?」
ようやく覚醒したユウキがそばに二人の姿しか見えないのを見咎めて言う。
「行ったよもう。」
僕は短く答える。
「そっか。」
ユウキはそう言って虚空を仰いだ。
「大丈夫かなあ。」
ぽつりと彼女は言った。
それを僕は心配性だなと笑うことはできなかった。これから彼女は一族をどうにかして救わなくてはならない。しかも時間は限られている。地震に立ち向かう方法は現代日本でも限られている。ましてここは日本より劣る。どれだけ備えたとしても必ず被害は出てしまうだろう。どれだけ抑えるかが腕の見せ所だが、0じゃないとアンナさんは自分を責めるだろう。誰も責めやしないのに、自分一人で気を病んで。
ただの想像だけど、ありえそうな未来に僕はゾッとした。短い付き合いだけど、彼女はずっと明るくあってほしい。そんな望みが胸の中に芽生えていた。責任感とともに困難な旅を終えた彼女。随分と重い使命を持ちながらもそれを感じさせない明るさは僕らに好感を抱かせるに十分だった。
「ユウキ、やっぱり、アンナさんを助けたいよ僕は。」
「私も。」
僕らは目を見交わす。
「「お願いシロ。」」
真摯に、目を合わせて頼み込む。
「結局、わしに頼るんじゃのう。」
シロはやっぱり呆れた顔で、でも、我が意を得たように頷いた。
「わかったわい。実際、里の場所は分かっておるしの。アンナにばれないように被害を0に抑えてやればいいんじゃろう。」
シロはサラリとしていた。まるで爽やかで腹にたまらないサラダのように。⋯⋯ 例えはよくないかもしれないうん。
しばらく間があった。
「わかってたのかよ!」
ようやく理解が追いついた僕は叫んだ。あの昨晩のアンナさんの必死の訴えはなんだったんだろう。なんとも言えない気持ちで僕とユウキは顔を見合わせた。
「もちろん私に任せてくれてもいいのよ。」
「サクラさんは何もしないでくださいね。不用意に森を燃やして被害を拡大させる予感がします。」
「イチフサ、この頃私への当たりきつくない? 」
「そんなことはありませんよ。」
「信じにくい顔ね。」
「ひどくないですか。」
最初は仲が悪いのかと思っていたサクラとイチフサだけど、そんなこともないようだ。長いこと一緒に旅をしてきたからかもしれない。僕らとももう少し仲良くなってくれてもええんやで。
「怒っていいのよね。」
「抑えてください、サクラさん。」
イチフサがサクラを落ち着けた。後輩ポジションになだめられるのってどうなんだろう。恥ずかしくないんだろうか。
「いちいち腹たつこと考えてくれるわね。」
サクラはイチフサの制止も聞かずに僕に向かって炎を放つ。いや本当僕はただの人間だぞ。死ぬ。
「どちらもいい加減にせい。そんなことしている場合じゃなかろう。」
シロだ。彼女は、サクラの放った火球を押しとどめ、消失させた。さすが守護神。頼りになる。
「剣もあんまり煽るでない。完全に怒らせるとわしでも手に負えなくなるからの。」
心します。僕はまだ死にたくない。とりあえず謝った。
「わかればいいのよ。」
⋯⋯ うん。やっぱりちょろいなこの子。性格が単純というべきだろうか。断じて褒め言葉です。信じて。
何はともあれ位置を捕捉していることがわかったので、一安心だ。落ち着いて朝食を食べることにした。和食和食〜っと。朝はご飯きゃないよね。異論は認めるけど。
このとき彼らは知る由もなかった。今日この生活が一変することなど。みたいなナレーションが入りそうな光景だった。まあ、地震が来ることぐらい分かってるんだけどね。
ここら辺まではまだスラスラといけたんですけどねー。今は詰まってます。




