地震対策
家に戻ったらいつの間にか会議が紛糾していた。⋯⋯ 何言ってるかわからないと思うが俺もわからない。いや、言葉通りの意味なんだけどね。
「来ないでください! 」
アンナが大声で拒否するのをみんなでなだめている状況だ。勝手に話進めてるんじゃないよ。わかるわけないだろ。何が起こったんだよ、僕が風呂に入ってる間に。空気読むったって限度があるぞ。⋯⋯ いや、空気を読んで黙ったいれば、状況くらいならつかめるのでは? それだ。やっぱり日本人の知恵は最強だな。無駄に会議を止めなくて済むぜ。
「ですから掟があるのです。」
「掟と集落どっちが大事なの! 」
ユウキも興奮して声をはりあげる。その目は真摯な色があった。無碍にするわけにも行かなかったのだろう。アンナは少し声量を落として答える。
「それはもちろん集落ですが⋯⋯ 。でも、掟を守らなければ結局集落の方も滅んでしまいます。」
アンナの顔つきは冗談を言っているようには見えなかった。そのまま彼女は続ける。
「少し昔話をさせてください。ある時、私たちの部族の一人の女性が旅の物に命を助けられました。そのお礼として彼女はその男を集落に入れてもてなしたそうです。しかし、男が集落を出てしばらくたった時、そこを人攫いの一団が襲ってきたのです。その中にはその男の姿が⋯⋯ 。私たちの一族はよもや里で襲われることなどあるまいと油断をしており、抗うすべもなく多くの同胞を失いながらなんとか逃げ延びました。それ以来、絶対に里の場所を仲間たち以外には教えてはならないと定められたのです。」
ここでアンナは息を吐いた。僕たち三人を改めて視界にとらえ、彼女は言葉を紡ぐ。
「確かに私はあなたたちのことを信頼してもいいかなとは考え始めています。でも、これは助けられたという事実からくる無条件の信頼なのかもしれない。自分の盲信よりも古くからの掟を守った方が絶対にいいのです。」
瞳に強烈な意思を込め、彼女は言い切った。
「確かに、そんなことがあったのなら信じろって言われてもできないね。」
ユウキは困った顔で納得した。
うん。だいたいわかってきたぞ。たぶん、力になりたいユウキがアンナさんに協力を申し出たけど、里の場所は教えられないってアンナさんが突っぱねたというわけだろう。やっぱり、内政に干渉しちゃいけないよね。内政不干渉という言葉を唱えた人に拍手を送っておく。誰なのかは知らないけど。
「確かにわしらがあんまりでしゃばりすぎるのは良くないのう。すまんかったわい。」
シロは素直にアンナさんに頭を下げた。殊勝だな。シロらしくもない。まあ、神の力はみだりに使っていいものじゃないだろう。⋯⋯ 無駄に使いまくってる気もするけど。
「⋯⋯ わたし的には頼りたいんですけどね。」
アンナさんはそう言って残念そうに笑った。
「なら仕方ない。けど、僕らは地震のことをこの世界の人よりは知っているつもりだ。だから、地震に関する知識をあげるよ。」
僕にできることはこれくらいしかないから。
「地震っていうのは、主に二つの要因によって規模が決められるんだ。震源の深さとそこからの距離だ。要因は様々だけど、断層型と海溝型がある。まあ、この辺りは実際の対策とは関係ないから聞き流してもらって構わない。大事なのはここからだ。地震は普通初期微動と主要動という二つの揺れに分かれている。最初に発せられる速度が速くて威力の小さい波による地震が初期微動。そのあとにくる遅くて大きな波が主要動と言われる。つまり、感じた地震だけをやり過ごしておけばいいってことじゃないんだ。その次にくる地震という存在を考えて、それにすら負けないようなそんな行動が大事なんだ。まあ、普通に余震とかもあるし、地震を感じたら、次の揺れのことも心のどこかで考えておかなきゃならない。その心の余裕が命を守ることにつながる。」
僕からは次に備える重要性を。⋯⋯ 無駄に長いって?いや、あれだよ、東日本大震災の後不安になって色々調べてたというか。普通に理科の授業聞いていたらこのくらいの知識はあるよねというか。気にするなよ。日本人としてこれくらいのことはみんな語れるだろう?
「私からも補足しとくね。地震は、必ず来るものなの。そして、問答無用で私たちを被災者に変えてしまう。でもそこでクサっちゃダメだよ。余震も気をつけなきゃだけど、それからの生活も見据えなきゃね。と、ファンタジー世界では時々魔法による爆発で人工地震が起こるよ。だいたい原爆級の攻撃とか発生させられる人がいたらその周りで地震被害が出てると思ってたほうがいいね。むやみに威力を大きくしたら迷惑しかかけないから考えて出そうね。あと、X JAPAN のコンサートで五万人が一斉に飛び跳ねた結果震度3の地震が発生したっていう話もあったよ。」
ユウキからはさらにその先の心構えとその他もろもろを。
「ユウキさんが何を言ってるのかは途中からよくわからなくなりましたけど⋯⋯ 。ありがとうございます。そうですね。地震だけを考えていてもダメですね。それからもちゃんと暮らしを続けていかなくちゃいけないんですよね。頑張ります。」
アンナさんはそう言って羽毛のような柔らかな微笑を浮かべた。透明感のある薄緑色の髪が肩から流れ目を焼いた。やけに眩しいその姿から少し目を背けて僕はもぞもぞと何かつぶやいた。
はい、というわけで、ここでこの話の元ネタを。
困ってる村人を助ける→普通なら、お礼というか一夜の宿を借りるというか、そんなことになるはず→だが、断る!
というわけで元ネタの時点でのアンナさんの役どころは村人Bでした。よくここまで成長したなと思います。




