退社
「もう帰って良いですよ」
管理者に言われ、帰宅準備する。
「お先に失礼しまーす」
またあっけらかんとした挨拶をして薬局を後にする。
17時半退社。
通勤に時間がかかるのと、そうでもしないと来てくれないとわかっているからだ。
薬剤師は地区にもよるが、I市では売り手市場だ。
涼子もM市在住だが、I市で薬剤師が確保できないためわざわざ出向いている。
家に着くのは19時近くになる。
帰宅も同じように人間観察しながら、バス、電車を乗り継ぐ。
今日も1日終わった。
電車の窓から外を見ながら、物思いに耽る。
あまり変化のない毎日。
退屈な気もするが、今は変化のない日常を送れることが愛おしい。
阪神大震災、オウム真理教事件、父の自殺未遂、東日本大震災、父の死…色々な出来事があった。
阪神大震災、オウム真理教事件のときは、高校3年生だったので、大学受験もあり自宅から遠かったこともあり、実感がほとんどなかった。
東日本大震災のときは社会人で世の中のこともだいたいわかってきていたし、涼子も計画停電実施区域に在住していたので、それなりに実感はあった。
ただ、地震・津波の被害には遭わなかったので、そこまでの実感はないが。
しかし、東日本大震災は色々と考えさせられた。
何か、見方のようなものが変わった気がする。
父のこともそうだ。
辛い出来事ではあったが、それが涼子をそれなりの器の人間にしてくれた。