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10.先代師団長失踪事件

伏線を増やしすぎて気絶しそうです。



「聖女が元の世界に帰れるかと言う話ですが…。多分帰れます。方法は解りませんが。」

そう言って師団長は10年前に起きた事件の概要を教えてくれた。


ビコー師団長が20歳の時、その事件は起きた。

今から10年前に、聖女降臨があったらしいのだが肝心の聖女がいないという不思議な事件が起きた。

当時の師団長は責任を取る形で辞任し、その後姿を消した。

聖女がこの世界のどこかにいると信じ探しに行ったのだという。

おそらく隣国へ向かったのだろうと言われているが、本当のところは誰にも解っていない。


「ここまでが一般に知られている情報と言うか噂です。実はここには先代師団長の報告書が残っているのです。」

これですと言って差し出されたのは、なんと羊皮紙だった。

「紙じゃないんですか?」

「はい。聖女に関する記録は全て特殊な羊皮紙を使用します。この紙は聖強院の外に持ち出せない魔術紙なのです。」


受け取って文字を見ると、残念ながら私には読めない文字だった。

「すみません。私には読めない文字みたいです。」

そう言って返すと師団長は「わかりました。」と言って声に出して読んでくれた。


『シム王国歴1391年、獅子の月、48の日』

んんん?と首をかしげていると、歴の読み方を教えてくれた。

数字は同じだが月の数え方が違う。全て生き物の名で、一年は4つの月に分けられていて、龍の月、獅子の月、亀の月、鷹の月、の4つだそうだ。これで春夏秋冬に分かれている。月は4こしかない。その分日数は1ヶ月90日あるそうだ。混乱してきた。


「続けます。

『獅子の月、48の日、早朝祠の石が淡く光り聖女降臨。

保護した後、健康状態確認。

飢餓状態著しく意識薄弱。

すぐに休ませる。』」

思わず両手で口を抑えた。聖女はこんなに弱った状態で現れるのか。

私たち親子がいかに特殊か、出だしを聞いただけで違いがはっきりする。


『獅子の月、49日、聖女目覚める。

食事を与えてみる。警戒し受け取らず。

獅子の月、50日、聖女水を飲む。』


少しずつ近付いて様子を見ているのが解る内容だった。毎日ちょっとだけ何かを与え、警戒を解きつつ健康を気遣う。優しい人だと思った。

それを2週間分続けたところで師団長の声が低くなった。


「ここで突然変わります。

『獅子の月、63日、聖女消える。

前日夜、泣きながら謝罪を繰り返し、その後忽然と姿を消す。』とあります。」

「誰に謝っていたのでしょうか?」

「それが解らないのです。」


その後師団長は辞任し姿を消した。


「私は1度だけお目にかかったことがあるのですが、無口で穏やかな方だった印象があります。」

「無口な人が子どもの世話をするのは大変だったと思います。」

「そうですね。彼は弓の名手で、聖強院にイサラ有りと謳われる程の人でしたので、残念でしかたありません。」

イサラ師団長という名前だったのか。辛かっただろうと思う。


「あの、その方のご家族に話しを聞く事はできますか?」

「彼の出自は不明瞭な部分が多く、天涯孤独だったそうです。おそらく隣国から越境してきた移民の孤児だったと思われます。」

そんな人が聖強院の院兵になれるのかと聞きたかったが、差別は良く無いなと少し反省して口をつぐんだ。だが気になる。


「あの、聖強院の院兵というのは、希望者は誰でもなれるものなのでしょうか?」

「いえ、なれません。国軍に入隊し実績を積んだ人間の中から、複数人の推薦を得た者だけが試験を受けられます。試験内容は話せませんが、それに合格しなければならないのです。」

成る程、出自ではなく人間性で選ばれるのか。確かにその方がコネ入社みたいな使えない人間が入る心配が無いだけ良いだろう。


そんな真面目な人が、いや真面目だからこそ聖女が消えた事の責任を取って消えたのだろう。


「今でも探しているのでしょうか。」

「解りません。ただ。」

「ただ?」

「イサラ師団長は後ろ盾を持たない方でしたので、この国に居辛くなり隣国へ行ったのではと思います。」

なんとも後味の悪い事件だ。ビコー師団長も同じ気持ちだったらしく、今回の聖女降臨時に「まず聖女が過ごしやすい部屋をつくらねば!」と慌てて用意してる間に神殿に持って行かれたのだと憤慨している。

護ってあげたいと言う気持ちを持てる人が、院兵に選ばれるのだろうと私は思った。



ビコー師団長はこの10年ずっとイサラ師団長の件を気にしていた、と言うかイサラ氏を探していたのだそうだ。

もしも護国の聖女の様に、消えた聖女が再びこの地に戻って来てくれたら彼を苦しみから救ってあげられると考えていたからだ。


「理由は解りませんが、私はこの10年前の聖女は元の世界に帰ったのでは考えています。」

「帰ってこっちに戻って来なかったって事ですか?」

「はい。」

「でもそうすると聖女100年説が崩れちゃいますよね?」

「はい。そこが不可解なのです。ですが。」



護国の聖女は3年後に戻って来た。

つまり、10年前の聖女も戻るつもりだったが理由があってもどって来られなかった。


「聖女は皆、降臨時はとても傷つき弱っていたと記録にあります。身体に傷を持った状態の聖女もいたそうです。数代前の師団長の記録にこうあります。」


『聖女は痩せ細った幼子であった。酷く怯え、身体に無数の傷を持ち、日常的に暴力にさらされる環境にいた子であったと思われる。』


つまりは虐待か。

考えたくは無いが、10年前の子は元いた世界で亡くなっている可能性がある。


「酷い…。」

護国の聖女がどうやって帰ったのか、そしてどうやって戻って来たのか。もしかしたら王家に何か記録が残っているかも知れませんと師団長は教えてくれた。




*******************************




「そ、それでですね。」

急にもじもじし始めたビコー師団長が、私の目を見て、下向いて、目を見て下向いて、3回目に口を開いた。


「あなたのお名前を教えてもらえないでしょうか?」

「あ、はい。立夏です。」

「リッカ…リッカさんと言うのですか。素敵な名前ですね。」

「あら、ありがとうございます。ふふふ。」

すっかり仲良しになれた気がする。


彼はヒューゴみたく口が上手くない。だから少しだけ安心する。

でも何か物足りない気がするのは私がヒューゴみたいなお調子者に惹かれやすいアホの子だからなのかも知れない。





誰か読んでくれないかなとプチ欲が出てしまい恥ずかしい限りです。

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