第十話 『みーちゃんは商売ができない』
今は夕食を食べた机の椅子にみーちゃんが腰かけ、その後ろから咲がみーちゃんの髪の毛をドライヤーで乾かしていた。
そして俺はというと、先ほどと同様テレビを観ながらソファでだらだらしていた。
最初はシャワーを浴びようと思っていたのに、疲れてここから動きたくない。
「あーくんシャワー浴びないの?」
みーちゃんは風呂に入り終わったのに、俺がまだシャワーを浴びに行ってないことを不思議に思ったのか、ドライヤーにあてられながらも俺の方を向いて聞いてきた。
みーちゃんが横を向いたことによって、咲はすごくやりづらそうにしている。
頑張れ妹よ。
「ん~、正直疲れちゃってここから動きたくないんだよね~」
今日はいつも以上に色々ありすぎた。
急にみーちゃんに告白されて、周りの目を気を気にしなきゃいけないし、そもそも女の子と一緒にいること自体ないから緊張もした。
そして、ダッシュでみーちゃんの家に行ったりで、精神的にも肉体的にも身体が疲弊しきっていた。
「そんなあーくんに朗報です!」
さながらテレビショッピングのような口調になったみーちゃん。
「疲れた身体を一瞬にして直しちゃう、最高のアイテムがあるんです!」
俺はみーちゃんの言葉に耳を傾ける。
何が飛び出してくるんだ!
「私自身です!」
って自分売っちゃうんか-い!
心の中で盛大なツッコミをしてしまった。
そして、みーちゃんは咲に何やら耳打ちをして、何かを指示された後、咲はこう言った。
「でもお高いんでしょ?」
「なななんと!お値段無料なんです!」
「いや商売やっていけない!」
つい今度はツッコミを抑えることができなかった。
みーちゃんは俺のツッコミを面白そうに笑った後、ゴホンと咳払いをして口調を戻す。
「安心してください、これはお一人様限定、いや、あーくん限定となっていますので、連絡待ってまーす。電話番号、じゃなくて、合言葉は『みーちゃんおいで』ですぐに行きます」
なんだそりゃ(笑)。
みーちゃんの言ってることがあまりにもおかしすぎて、疲れなんか完全に忘れていた。
「みーちゃんドライヤー完了」
「さきねーありがとう。あーくん終わったよ」
「それじゃあ合言葉の、みーちゃんおいで」
すると、みーちゃんは走って向かってくる。
勢いは止まることなく、そのまま俺のところにダイブしてきた。
「ふごっ……!」
横になっていた俺の上に躊躇なく飛び込んできたものだから、変な声が出てしまった。
みーちゃんのぬくもりが、俺の疲れを浄化していく。
そして思った以上に軽く、華奢な体つきで、同時に、これが俺の責任をもって守るものだと再確認させられた。
みーちゃんの乾いたサラサラな白銀の長い髪の毛が垂れて、俺の顔に当たる。
すごくいい匂いだぁ……。
みーちゃんは、右手でその垂れる髪の毛をかきあげ、ようやく顔が見える状態になる。
「あーくん、疲れはとれた?」
「それはもう一瞬で」
「大成功!」
みーちゃんは満足いったのか、それからというもの、俺の上で眠ってしまった。
すーすーと、可愛い寝息を聞きながらどうしたもんかと悩む俺であった。