第146話 国旗
で、今回の俺たちの国家としての外交デビューは終わり、フランの実兄は乗ってきた帆船で帰っていった。
条約として約束した内容にそれぞれがサインをした公式な書面をもって。
俺は、非常に疲れたが、国の成り立ちにはお付き合いが付き物であることくらいは理解しているので、我慢している。
早く、外交を専門に取り仕切る部門でも作る必要があるかな。
この程度の条約ならば外務大臣一人いれば俺がでしゃばる必要もないだろうが、さすがに現状では専門部署はまだ贅沢だな。
とにかく一連の外交を終えたことを祝してみんなをフェリーに集めるために、フランの実兄たちが確実にこの島から離れたことを確認後に、またフェリーを一の浜に戻す。
その後に今回活躍した面々を集めて慰労会をフェリーの食堂で開いた。
その席上で、フランから今回の外交を振り返ってのことだろうが質問を受ける。
「守様、そういえば、我が国の国旗はいかがしますか?」
「俺に聞かれても、俺なら『日の丸』一択なのだが、みんなで決めないとな」
「日の丸……ですか?
それって、どんな意匠なのでしょうか?」
そこから国旗の話になり、実物が見たいというから今度はフェリーに積んである国旗を持って、みんなの前でお披露目をした。
集まるみんなからの声はそれぞれだが、みなシンプルなデザインをほめていた。
ならばと俺から提案してみる。
「この意匠ならば勝手に使っても多分怒られないから、国旗はこれにしようか。
俺の元居た国の旗だけど」
その後は俺の説明した日章旗で盛り上がっていく。
お酒も入ったためか、本当にとめどもないくらいに。
皆、よりどころとなるシンボルを求めていたようで、国旗にかなりの関心があったためだろうが、率直な意見が多かった。
「これって、あまりに……」
最初にダートンが思いっきり遠慮なく……いや、遠慮したから語尾が濁ったのだろう。
うん、言いたいことはわかるぞ。
手抜きじゃないかと言いたいのだろうな。
中世ヨーロッパの貴族の紋章なんか、かなり凝ったものが多くて、正直格好良く思ったのだが、国を離れるようになると日章旗の示すあのシンプルなデザインが妙に恋しくなる。
俺が、日章旗の説明をすると、このデザインに賛同を示すものも出てきたが、それでも他の意見も多く出た。
「私は、あの巡視船で見た旗が気になりますが」
と、ケリーがあの見慣れたと言わんばかりに星条旗について意見を言ってきたが、前にも説明したけど、あの国のものはダメだ。
どこにいても意匠がらみの案件では追いかけてくる。
あのカミサマを脅してもここに来るかもしれない。
「あのデザインはダメだ」
「守様。
それは……何か理由でも?」
「ああ、デザインの扱いのうるさい国のものだからな」
「「は~??」」
一同は納得してはくれなかったが、俺が嫌っていると思ったのか、直ぐに話を変えた。
すったもんだの挙句に、日章旗ではなく、遠慮なく使えそうな旭日旗の中央にカミサマのシンボルマークを入れることで落ち着いてきた。
「こんなに簡単に国旗が決まりましたね」
と、フランが言うと、ダーナがそれに応えるように返事を返す。
「こんな簡単なことならもっと早く相談しておけばよかったですね」
「ええ。そうすれば兄に別の旗など渡す必要もなかったですしね」
そうなのだ、今回国旗の話になったのも外交上不都合というか、いろいろ面倒になったためなのだが、特に帆船の行きかうこの世界では旗の持つ重要性は俺の知る以上のものだろう。
なにせ、海上での合流には非常に危険が伴う。
唯一の識別ととは言わないが、相当重要な部分で国旗や軍旗など旗がその大切な役割を担っている。
まあ、宴席での話なのであの妙なデザインがそのまま国旗となるかは知らないが、後日に正式な手続きをということになったようだ。
で、その正式な手続きってなんだ?
で、翌日になって、昼食をフェリーの食堂で食べているとフランがダーナやケリーにダートンといった昨日の宴会のメンバーのほかに村の長たちもつれて俺のところにやってきた。
食事もちょうど終わったことなので、俺はそのままフェリーの談話室に全員を案内して、話に応じた。
昨日の国旗の件だった。
あの、近くにあったメニューの切れ端のような紙に描いた昨日のデザインが、それこそきれいな紙に、色まで付けて描かれていた。
それを俺の前に持ってきて、承認してくれというらしい。
「守様。
昨夜の話し合いに基づき、正式に国旗のデザインをお持ちしました」
とフランが言う。
「うん、昨日そう決めたね」
「では、こちらに承認のサインを」
といって、今度は別の紙を出してきた。
こちらにも、先のデザインは描かれていたが、さっきのデザインよりも小さく描かれて、いろいろと文章も書いてある。
法律の条文のような言い回しで、最後にサインを入れる欄があり、俺のサインを求めてきたのだ。
俺がサインを入れると、その場に集まった全員が一斉に声を上げて喜んだ。
「「「わ~~~」」」
「これで我が国は、どこに出しても恥ずかしくない国家となったぞ~~」
ダートンなどは、酒でも入っているのかって感じで大声で喜んでいた。
ダーナも心なしか涙ぐんでいるようにも見える。
なんで???
すると、ケートが俺の横に来て、小声で教えてくれた。
「守様。
私たちも、ここまで来るのにいろいろと苦労しましたが、ダーナ様についていた方たちは、それこそたらいまわしのように流浪してましたしね。
この地に、本当の意味で居場所を作れたことに感動しているのでは」
そういえば、前にも聞いたかな。
彼らは人種から迫害され、ついには住んでいた国まで追い出されるなど、苦労して最後は船で海上を逃げまどって龍に襲われたりしていたしな。
うん、俺も苦労してきたとは思っているけど、俺の比ではない苦労だな。
俺は、たいしたことしたわけでもないが、なんだか暖かなものが体の内から湧いてくるのを感じてきた。




