第120話 フランの故郷
俺はフランに植民都市にいるフランの兄の訪問について指示を出した。
「準備して帆船で向かってもらうわけにはいかないかな」
「守様が行くのではなくて?」
「ああ、巡視艇で向かえば要らぬ誤解も生じよう」
「そうですね、祖国奪還を強制されそうですしね」
「それだけは避けたいかな」
「で、守様は……」
「ああ、帆船が植民都市に近づく前に、合流するつもりではあるが、その前にフランの祖国の様子を調べておきたい」
「守様のあの魔法でですか?」
「魔法とは違うが、まああの時に使ったものをもう一度利用して調べてみようかと。
まあ、その前に祖国の場所を正確に知らないといけないから、まずは今日と同じように空から向かって見て、場所の特定からかな。
どちらにしても明日、今日と同じようにフランの祖国に向かってみるよ。
悪いがケリー、明日も付き合ってくれ」
「はい。解りました」
翌日の朝から俺達は早速作業に取り掛かる。
ダーナにこの地を任せ、現在でも定期的に獣人国との間で運用している帆船の運用状況を変えるべく、動き出した。
具体的には、初回同様にフランが獣人国に出向き、この度の外交日程を説明して、しばらくの間この帆船が使えないことを先方に知らせるために俺達よりも早くにこの地を発っていた。
俺はというと、ダーナと打ち合わせをした後に、巡視艇でフランの故郷を目指して船を走らせることにしている。
フランとは離れて行動をすることになるので、情報が共有できるようにと、とにかく頻繁に山頂にできたばかりの無線基地を通してフランと連絡を取り合う事になった。
そこまで万全の体制を組んでからの出発だったこともあり出港が昼近くになってしまったのは致し方がない。
遅れた分は、積極的にヘリを活用していく。
島から離れ、警戒もレーダーだよりになる頃に、俺は攻撃ヘリを使い、巡視艇からフランの祖国方面に向けヘリを飛ばす。
作戦行動半径近くまで距離を稼いでは巡視艇に戻り休憩する。
この作業を3回目に行った時、目的のフランの故郷だと思われる場所までヘリを飛ばすことができた。
確認のために、一度戻り後部席にケリーを載せて、もう一度その場所まで向かう。
十分に高度を取り、更には街からも距離を保って近づきケリーに確認を取る。
流石に、ケリーでも上空から故郷の町を見たことがないらしく、俺の質問に対して自信なさげだ。
「多分、ここが私達の街ですが……」
「ああ、ケリーなら上空から街なんか見ないからよくわからないことくらいは想像がつくが、質問を変えて、ケリーたちが住んでいた街のそばに、大きな港町はあったかな」
「いえ、大きな街なら国境そばにもありましたが、港となりますと、私達の……失礼しました、私達は既に守様の国の住人でしたね。
以前住んでいた街以外にはありません」
「なら、決まりだな。
となると、少し街の中の様子も知りたいが……ドローンでも飛ばすかな。
昼間は危険だから、夜に近づいて少し探ろう」
俺は一旦ヘリを巡視艇に戻して夜を待った。
夜まで待たずに、日没後1時間で、暗くなるのを確認してから行動を始める。
港から5kmくらいまでレーダーを使いながら慎重に移動して、その場で停船した。
「守様……」
当然、隠密作業になるが、当たり前の話で艦橋は灯火制限をするまでもなく真っ暗だ。
それでも、念を入れレーダー画面等からの光が漏れるのを気をつけるように促してから俺はドローンを飛ばす。
「会話を聞くことができるやつですか」
「ああ、だが、相当近付かない限り難しいぞ」
俺等はそんな会話をしながらドローンを飛ばして、波止場そばの暗がりまで向かわせた。
幸い、人通りが全くない場所でなかったようで、割と頻繁に人が通る。
まだ宵の口を過ぎた時間だったことも幸いしたのだろうか。
その画面を横から見ていた騎士の一人が声を出す。
「守様、私はこの場所を知っています」
その声が大きかったのか周りの騎士たちに口元を抑えられたが、俺は笑いながら解放するように言っておいた。
「大丈夫だ。
流石に光は遠くからでも見えるから暗くはしているけど、流石にここで大声を出してもあっちには聞こえないよ。
5kmはあるからね」
「わかりました」
「で、知っているというのは……」
「はい、この場所、治安があまりよろしくないところで」
そこまで一人が話すと別の騎士が問いただす。
「え? ひょっとしてこの場所って……」
そう、騎士たちの会話から、俺達がドローンを飛ばしたあたりの情報がわかってきた。
このあたりの治安が良くない場所として。治安を守る部署のものからしたらちょっとした有名ポイントらしい。
大人の社交場的な怪しげな店が多く、しょっちゅう事件を起こす場所らしい。
だが、それだけに酔っぱらいが大声で話すこともしばしばで、その怒鳴り声から喧嘩に発展することも珍しくないらしい。
「なら、ここで待てば街の様子はわかりそうかな」
「それはどうでしょうかね……」
ケリーは俺の考えに悲観的だ。
だいたい酔っ払いの会話から情報が得られるとは思っていなさそうだ。
俺からしたら、誰でもいいが、とにかく生の会話なら、どんな会話からでも知りたい情報が得られそうなので、ケリーの心配は理解しつつも、その場で待つことにした。
「ケリーの考えもわかるが、そういう場所の情報って何も知らない俺にしたら結構貴重だと思うので、もう少し待ってみるよ」
俺の会話に、どこに問題があったのかわからないがケリーたちが一斉におかしな反応を示す。
ある者は顔を赤らめるし、ある者は『守様も男ですしね~』なんて言ってくる。
『男ですね~』って何を納得したのか……え?春を売る女性がたむろしたりして。
俺は慌てて誤解を訂正しようとしていたところで、声を拾ってきた。
『おい、きいたかよ。教国連中、逃げ出す算段をしているらしいぞ』
『逃げ出すって、何だ?』
『ああ、なんでも帝国が約束を果たさないとか……』
『何だよ、その約束って?』
『そんなの知るか』
二人の男はそんな会話をしながら去っていった。




