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伝説の始まり

「──次、カイ・エルロッド。前へ」


厳かな声が、王立式典のに響き渡った。


年に一度の『至高の石碑』による適性測定。18歳を迎えた若者たちが、世界システムから与えられた己の「器」を知るための神聖な儀式だ。


周囲の視線が一斉に俺に集まる。

そこにあるのは、純粋な期待だ。なんと言っても俺は、幼少期から「神童」と呼ばれ、剣術でも魔力操作でも同世代を圧倒してきた。誰もが、俺が歴史に名を残すSSS級のステータスを叩き出すと信じて疑っていなかった。


「ふん、せいぜい僕の『A級』を超えないように祈ることだね」


すれ違いざまに声をかけてきたのは、公爵家の次男坊、レナードだ。さっき優秀な数値を引いて鼻高々の男を無視し、俺は部屋の中央に鎮座する、黒く巨大な石碑へと歩みを進める。


(……ようやく、この時が来たか)


胸の高鳴りを抑えながら、俺は右手を伸ばし、ひんやりとした石碑の表面に触れた。


その瞬間。

ゴ、ゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!!


地響きのような轟音が、式典の間を揺るがした。

「な、なんだ!?」「石碑が……!」


黒い石碑が、見たこともないほどの白銀の輝きを放ち始める。まばゆい光が部屋を埋め尽くし、あまりのプレッシャーに、周囲の受験生や衛兵たちがその場にひれ伏した。


検査官の老魔術師が、目を見開いて叫ぶ。

「おお……! なんという魔力だ! 石碑が、これほどの光を放つなど前代未聞! やはりカイ、お前は歴史に名を残す最高峰の──」


──ピシッ。


不吉な音が、響いた。

光が一点に収束し、石碑の表面に走ったのは、一本の「ひび割れ」。

次の瞬間、石碑の表面に浮かび上がっていた古代文字が、狂ったように激しく明滅し始めた。赤く、禍々しいエラーの光。


『──■■■……Error……■■──』

『システム限界……再起動を……不可視の──』


俺の脳内にだけ、ノイズ混じりの無機質な機械音が直接響く。

だが、周囲にはそれは聞こえない。彼らの目に映ったのは、バグを起こしたのちに、完全に光を失って静まり返った石碑と……そこに大きく表示された、冷酷な『結果』だった。


【 カイ・エルロッド 】

・腕力:0

・魔力:0

・俊敏:0

・耐久:0

【 総合評価:ALL 0 (適性なし・無能) 】


静寂が、式典の間を支配した。


「……は?」

誰かが、呆然と声を漏らした。

さっきまでの熱気が、嘘のように急速に冷めていく。


「ALL 0……? なんだこれは。測定不能の、完全な『無能』ではないか!」

検査官の態度が、180度ひっくり返った。その目は、先ほどの敬意を完全に失い、ゴミを見るかのような軽蔑に満ちている。

「石碑がひび割れたのは、お前のあまりの魔力の無さに、システムが拒絶反応を起こしたからだ! 紛らわしい真似をしおって……時間の無駄だ、下がれ!」


「ははっ! なんだよそれ! 期待させておいて『ALL 0』かよ!」

レナードの爆笑が引き金となり、周囲の受験生たちからも一斉に嘲笑が湧き上がった。


「神童なんて、ただの早熟の勘違い野郎だったわけね」

「触れただけで国の宝(石碑)を壊すなんて、疫病神じゃない?」

「エルロッド家の恥晒しめ、さっさと消えろ!」


浴びせられる、罵詈雑言の嵐。

昨日まで俺を持ち上げていた奴らが、一瞬で手のひらを返し、 嬉々として俺を奈落の底へ突き落とす。


だが。

俺は彼らの罵声など、微塵も耳に入っていなかった。

ただ、自分の右手をじっと見つめる。


(違う。世界が俺を拒絶したんじゃない……逆だ)


石碑が割れた理由が、感覚で分かった。

俺の中に眠る『B×C』──二つの力が融合し、完全に目覚めたあの瞬間。

俺の魂の器は、人類を測定するためのシステムなんていう小さな枠組みを、完全に超越してしまったのだ。


測れるわけがない。

無限を、有限の器で量れるはずがないのだから。


「ALL 0、か……」


俺は、クスクスと笑うレナードたちに背を向け、静かに歩き出した。

周囲の嘲笑はまだ続いている。だが、俺の心は驚くほど静かだった。


これ以上、ステータスを「足す」必要なんてない。

だって、俺はもう──。

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