第71話 シャルの推理⑥
「……どういうことだ?」
なるべく俺から質問することは避けていたが、流石に今のは反応せざるを得なかった。
「私も調べている途中で気づいたんだけど、ミカド・トウセンは約6年前に開催された『ルーキーズカップ』の出場者なのよ。そのときの順位は4位。まあ入賞は入賞なんだけど、絶妙な位置過ぎて流石に私でも憶えてなかったわ」
「何……? いや、ちょっと待て、さっきミカド・トウセンが開拓者として活動し始めたは20年前言っていただろう。それだと計算が合わなくないか?」
俺達も去年参加した『ルーキーズカップ』は、その名の通りルーキーを対象としたデウスマキナによるレース競技大会だ。
参加資格は活動歴3年以内かつ、Dランク以下という制限があったはずだ。
以前とは参加条件が異なった可能性はあるが、流石に活動歴10年以上のベテランが参加できるとは思えない。
「それがね、ミカド・トウセンって実は活動1年目くらいの時期に一度開拓者を辞めてるのよ」
「……?」
説明されたことで増々ワケがわかたなくなってくる。
……いや、わざわざ一度と言ったのだから、恐らく途中で活動を再開したということだろう。
しかし、仮にそうだとして辞めた理由もわからないし、それで急に『ルーキーズカップ』に参加した理由もわからない。
時間をかけて冷静に考えればわかるかもしれないが、残念ながら今この瞬間に答えに至るほどの推理力を俺は持ち合わせていなかった。
「ちゃんと説明するから安心なさい。さて、前提知識も伝えられたし、ここからは総括よ。二人の反応で当初の推理と変わっている部分もあるから、何か不自然な点があったらいつでも指摘してくれて構わないわ」
シャルはここに来る前から今回の件の経緯や目論見についても全て推理済みだったようだが、質問への回答や反応から推理内容を少し補正したということだろう。
その分推理の精度も下がっているだろうから、あらかじめ不自然な点があるかもしれないと前置きをしたのだと思われる。
「じゃあ、時系列順に説明していくわね。まず、約20年前にミカド・トウセンは龍の国からメリダ王国に亡命してきた。恐らく抜け忍であるミカド・トウセンは掟により処罰――抹殺対象ではあったけど、国家間のトラブルを避けるために機密保持契約や行動に関する制約を課されたうえで放免されている。制約の内容まではわからないけど、他にも前例はあるから多分同じような内容だと思うわ。……あ、前例っていうのは似たような事例じゃなくて、他の抜け忍の実例って意味ね」
シャルが付け足すように補足したのは、「別にアンタのことじゃないからね」とでも言いたかったのだろう。
確かに一瞬、「前例とは俺のことか?」と思ったが、いくら色々な条件が似すぎているとはいえ、国も立場も違うのだから流石に制約の内容までは同じということはないだろう。
「え……? 抜け忍って、他にもいるんですか?」
「公表されている情報に限定しても何人かいるわよ? このサイトの情報も有名な抜け忍の自伝から抜粋したものだからね」
有名な抜け忍というと俺にも少し心当たりがあるが、自伝を書くようなヤツとは思えないのでシャルの言う抜け忍とは別人と思われる。
掟とやらの内容が事実なのであれば逃げ出したくなる気持ちは十分理解できるし、案外抜け忍はそれなりの数が存在するのかもしれない。
「まあ今となっては掟もかなり緩くなってるらしいから、近年はわざわざリスクを冒してまで抜け忍になる者は減ってるらしいわ。こんな情報が出回ってるのもその影響かもね」
情報を開示できている時点で、少なくとも課せられたであろう制約には含まれていなかったかということだ。
もしくは、既に情報としての価値が薄くなっているか……
「で、色々な制約があるからこそ開拓者になったんでしょうけど、残念ながらそう現実は甘くないわ。……理由はトールもマリウスもわかるんじゃない?」
「……金か」
「あっ……」
個人的に依頼を受けるような機会でもなければ、開拓者として報酬を得るためにはギルドへの登録が必須である。
しかし、登録したての開拓者は当然Fランクから始まることになるため、低難易度かつ低報酬の依頼しか受けることができない。
俺自身それに苦しめられたというのに、シャルと組んからは十分な報酬を得られていたので完全に失念していた。
「そういうこと。なりたての開拓者が得られる報酬なんてアルバイトの給料以下でしょ? 兼業ならともかく、新人が専業でやれるほど開拓者業界は甘い世界じゃないわ」
開拓者は事業ではないから経費を計上することができないし、仕事として扱われないため固定給も存在しない。
そのため報酬が少ない低ランクの頃は、最低賃金という概念が存在するアルバイトの方が遥かに安定した収入を得られるのである。
だから余程の思い入れがない限りは開拓者だけで生計を立てようは思わないし、やるにしても趣味や副業であることがほとんどだ。
……俺だって、職さえあれば生活費はアルバイトなどで稼いでいただろう。
「ミカド・トウセンはギルドのデータベースではランクDになってたけど、『ルーキーズカップ』の記録ではEと記載されていた。恐らくは『ルーキーズカップ』の結果を評価されて昇格したんでしょうね。でも、それはつまり開拓者として活動していた1年はFやEだったってことになる。とてもじゃないけど、生活費が稼げていたとは思えないわ」
「だろうな」
「それに、さっきも言ったとおりミカド・トウセンの搭乗デウスマキナのデータは【土蜘蛛】じゃなかった。これは恐らくだけど、【土蜘蛛】の使用自体になんらかの制約があったんだと思う」
……確かに、その可能性はあるか。
俺の場合は【パンドラ】の存在を帝国に秘匿していたし機密にも含まれていないから使用に制限はなかったが、国や組織が所有しているデウスマキナであれば使用制限がされてもおかしくはない。
というか、もしそうだとしたら返還を要求されそうなものだが、何か理由があるのか……?




