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栞 ~一番簡単な蔵書印~

 あなたはどんな栞を使っているだろうか。そんなものは使わないという人も、相当数いるだろう。

 例えばうちの息子、電車での通学に本を持ち歩く子だが、栞を使っているのを見たことがない。聞けばページ数を覚えているから栞は不要とのことで……数字アレルギーの私にはとても真似のできない芸当だ。

 他にも速読派の人は栞を使わない傾向がある。ラノベ一冊数十分で読める人にはいちいち栞を挟みなおすのも手間だろうし、わかる。

 他にも本を手にとったらエンドマークまで一気に読み進める、読みかけの本は開いておいておく、内容を覚えているからパラパラとページをめくるのでいらないなど、読書スタイルによっては栞など不要であるのだ。

 それでも私は、読書という行為に栞を使わない人にも『栞』という道具を強くお勧めしたい。何しろこの小さな紙片、書籍に対する一番簡単な蔵書印となる。

 例えば友人と全く同じ本を買ってしまったとしよう。その二冊を並べたときにどうやって区別するのか、ただしどちらの本にも目立つ傷などなく、外見上で判断のつかない状態だとする。この時にパラリと開いて自分愛用の栞がはさんであれば、そちらが自分の本だと区別がつくわけである。ゆえに本ごとに新しいものを用意するのではなく、常に手元に置く愛用の一葉が欲しいところである。

 さて、こうした蔵書印的に使う栞にはどのようなものを選べばよいのか……要は『自分の感性に合うもの』ならばどれでも良いと思う。

 栞には実用から観賞用まで様々なものがある。安いモノならば書店のレジ横で自由にお持ちくださいされている出版社の名がすられた小さな紙片、いや、ちょっと読みかけの目印に挟むというだけならば、レシートの一片を挟み込んでも用は足りるのだ。しかし金額を気にせず探すならば、『自分の目印として長く掌中に置く』には最適な金属製のものや、使い込むほどに味わいが増す木製や皮革製など、見た目にもおしゃれなものが多く見つかるだろう。

 特に高級品になると、本の外にぶら下げる部分にペンダントトップさながらの細かい銀細工なんかがつけてあり、これを挟めば外から見ても自分の所有する書籍がどれであるのか一目瞭然である。小さな細工物はヴィジュアル的にも美しく、本を飾るアクセサリーとしてコレクションする楽しみもあるだろう。

 金属製の栞にはほかに、薄くカードサイズに作った金属片を透かし彫りしたものがある。薄さはちょうど厚紙ぐらい、透かし彫り部分に樹脂を流し込んでステンドグラス風に仕上げたものもあり、こちらも観賞価値は高い。ぶら下げモノをしたブックマーカーに比べると値段も安くかさばらず、観光地の土産物屋で見かけることも多いため入手も容易だ。旅行中に読みあました本の間に旅情を挟んで帰路につくというのも風流ではないか。

 木製の栞も同様、寄木細工を薄くスライスしたモノや、薄くカード状にした香木に透かし彫りを入れたものなど、ふらりと立ち寄った鄙びた土産物屋の片隅にひっそりと並んでいることが多い。木は人の手の脂を吸うため、何度も栞に触れる読書に使えば、いずれ経年劣化でしっとりと美しい色に変わるのだ。

 唯一、皮革製の栞というものを私は使ったことがないのだが、これも手の脂を吸わせ、ページの間で擦れるほどに味わいが増してゆくであろうことは想像に難くない。こうした使うほどに手になじむ道具を手元に置くのは、時間の流れるを楽しむぜいたくな遊びなのだ。

 さて、どうだろうか、蔵書印の代わりに本に挟む一葉が欲しくなったのではないだろうか。こうした自分専用の栞を選ぶにあたって大事なのは、自分の読書スタイルを見極めること、これにつきる。

 例えば本をあちらこちらに持ち歩く向きには、あまり高価な栞をお勧めはしない。栞とはここでしつこく『一葉』と書いたことからのわかるように薄くて儚いものであり、特に本の扱いがハードであれば落葉の危険が付きまとうからだ。

 私は文庫本至上主義で、出かけるときはバスや電車の待ち時間に読むためにポケットに本を突っ込むタイプなのだが、こうした扱いをすれば栞は、消耗品かってぐらい紛失する。

 いかに芸術品のごとき細工物に心を奪われても、それを落とした時のことを考えると値段を見て躊躇してしまうのだ。

 ゆえに持ち歩く本には実用目的の安い栞を愛用している。

 絶対に落としたくない栞は、家でゆっくりと広げる本に挟む。例えばトイレやふろ場に本を持ち込んだとしても、紛失した栞を探すのは家の中のみのことであるのだし、何よりも本棚に置いた読みかけの本の背に、小指の先よりも小さくて繊細な細工がぶら下がっている様子は美しい。こうした楽しみのためには、目を楽しませるような高級品の方が良い。小さな贅沢というやつだ。

 その中間に位置するのが、金属や木片を薄いカード状にした栞である。カード状であるから本のページにしっかりと挟まり、且つ値段的にも落として一生悔やむほどお高いわけではない。本は一気読みする向きにも、はじめの方のページに挟み込んでおけば手元の邪魔にもならないのでお勧めだ。ページをめくっている最中に紙とは違う素材の、それも美しく作られたものが視界に飛び込んでくるという、目の箸休め的な効果もあって楽しい。

 さて、お気に入りの一葉が見つかったら、それをいま読んでいる本に挟んでみよう。それだけでも本というものが、さらに自分の所有物となったような感覚を覚えることだろう。

 もちろん、いろんな栞を取り揃えてTPOに合わせて使い分けるのも楽しい。美しい装丁のなされた本にどの飾りをつければより美しく見えるか……読書に対するセンスが大いに問われる。だからこそ見てくれを考えて栞を選ぶ、これが実に楽しい。栞とは読書を楽しくする小さな遊び心でもあるのだ。

 せっかく読書を趣味にしているのだから、まずは読書のお道具の基礎中の基礎である栞、これに凝ってみてはどうだろうか。少し人とは違って蔵書印の代わりになるもの、特に自分の好みに合った美しいものを探してみてほしい。そうした栞の一葉が手元にあるだけで、読書の楽しみはさらに膨らむのである。


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