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ユナリアの旗の下に  作者: 綾織 吟
一章 精霊使いの怪盗
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5話 旅人の日常

あれから数日、怪盗フェンリルが再び姿を見せることは無かった。

神出鬼没の大怪盗、もうユナリアには居ないかも知れないと話す奴も居れば品定めをしていると言う人間も居る。

だが、実際のところは違った。

ユナリア公国、王都より西、鉱山都市の近くの山にて、岩石竜が倒れた。

岩石竜の足は氷となって砕け、肉は貫かれていたりもした。

岩石竜の上には銀狼が座り、雄叫びを上げていた。

それを嬉しそうに見ているのは旅人、手にしているのはレイピア、鋭い切れ味のある刺すのが主の武器だ。

旅人は岩石竜の首を裂き、紅い宝石のような玉を捕りだした。

竜玉、そう呼ばれる竜が持つ特殊な鉱石は宝石としても高価で、かなりの金額になる。旅人は綺麗な布で竜玉を拭くと革袋に入れ、しまった。

「エリル、そろそろ解体を始めるぞ」

「ガウッ!!」

エリルは岩石竜から降りた。その直後、旅人は腰に差したナイフを抜き、倒した証拠となる角や牙、それから岩石竜の背にある鉱物などを剥ぎ取り始める。

契約の完了の証拠は重要で、鑑定士に見せればいつ採ったものかさえ判定できる。よって誤魔化すことは出来ない。

「おっ、これ、蒼鉄石だ。珍しいな、これなら綺麗な首飾りでも出来そうだ」

旅人が手にしたのは青く光る鉄の原石、特殊な物で、なかなか手に入らない。それに加えて普通の鉄より丈夫で原石の方が高価である。

「ガウッ!ガウガウッ!」

エリルはそれを見て吠え始める。

「ん?欲しいのか?」

旅人がそう聞くとエリルは首を横に振った。

「グルルルルルルッ!!」

「怒るな怒るな、光る物が好きって訳でも無いのにお前が欲しがるわけ無いよな、分かってるよ、あの王女様のお土産にしろってんだろ?」

彼がそう言うとエリルは頷いた。そこで旅人は「妙に気を回す精霊だな」と思った。

「とにかく、まずは路銀を貯めないとな、今回は高額報酬だからよかったが、こんな割りのいい話はあんまり無いんだぜ、依頼主に感謝だな」

「ガウ!」

今回、旅人が受けた依頼は大型魔物の討伐、と言ったところだが、危険度はそれなりに高い物だった。報酬も結構高く、手に入る素材もいい、つまり路銀はガッポリ貯まると言う事だ。

「帰るぞエリル、旨い酒でも飲みに行くか」

ある程度の素材をはぎ終えた旅人はそう言いながら立ち上がり、ナイフを腰にしまい、少し重たいリュックを背負った。

鉱山を後にする一人と一匹の影、なぜか賑やかに思えた。




旅人は鉱山都市まで戻り、以来の報酬を受け取り、不要な岩石竜の素材を売り、街を歩いていた。

街中を狼が歩いているというのは非常にまずいので、さすがに今は旅人が一人で歩いている。

「さてと……」

旅人は手の内にある青い首飾りを太陽にかざし、ほほ笑んだ。

青い首飾りは蒼鉄石を加工したもので、先ほど店に行って加工してきた。

蒼鉄石は元々加工しない方がそれ本来の美しさが出るので、加工する場合も形をある程度整えるだけで十分なのだ。

「これからどうしようかな」

旅人は本来お尋ね者、同じ場所にとどまれば足がつく、最低でも国内と転々をしなければならないのだ。だが、これから向かう行き先が思い当たらない、王都に戻っても危険が高まるだけ、かといってそれ以外に行く場所もなく、国外に出ても危険な事には違いないのであろう。

留まる場も、気を休める場も、助けを求めることができる場も、旅人には存在しない、唯一の助けはエリルのみ、情けないと言えば情けない。

「少し王都に戻るか……」

彼は気が向くままに行動する、ゆえに自由、ゆえに怪盗なのだ。

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