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ユナリアの旗の下に  作者: 綾織 吟
一章 精霊使いの怪盗
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6話 怪盗、帝国へ

旅人が鉱山都市を後にしてから1週間、旅人は行き先を急変更してトリスタン帝国の帝都まで足を運んでいた。

ピリピリとした緊迫する空気が何処か身に覚えがあるようだったが、あまり思い出したくないような記憶に思えた。

旅人は酒場に入り、出来るだけ多くの情報を集めていた。

旅人はあることを恐れていた。それは戦争だ。

トリスタン帝国はユナリア公国との微妙な国の関係を一気に解消するために戦争を仕掛けようとしている。

(……またこの国は戦争を…………!!)

酒場のカウンターにて集めた情報を前にして旅人はグッと手に力が入ってしまう。

旅人の過去は名と共に捨て去ったが、忘れられない物と憎しみだけは捨てることが出来なかった。今から約5年ほど前、旅人は一国の王子だった。

それを証拠とするのが彼自身が精霊使いであることだ。精霊を従える素質と言う者は大きく分けて二つ、血筋による物か素質の覚醒かの二つだ。

彼は血筋による物で、随分と昔からフェンリルと共に時間を過ごしてきた。

レィーヴェン王国、五年前にトリスタン帝国の手によって潰された国だ。北に位置する国で、国土はユナリアと同じぐらいだったが、豊かな国だった。

民は笑って日々を過ごし、寒い中でも暖かな微笑みが絶えないいい国だった。なのにそんな暮らしが一変し、帝国の手によって何もかもが破壊された。

(……後一ヶ月、もう時間は無い)

限られた時間は残り少ない、彼に出来る事は余りないが、何も変えれないと言う事は無い。

帝国は力でのし上がった国、民の支持は無く、人望も薄い、ただ武力でねじ伏せている腐った国だ。いつかは腐敗すると分かっていてもその悪政は留まるところを知らない、何一つとして変わる様子が無いのだ。

旅人はただの賊では無い、義賊と言ってしまえば聞こえは良く、彼自身を偽ってしまうのかも知れないが、決して弱者には手を挙げはしない義人である。仮にも一国の王子であった人間、民を思うのが当たり前のことだ。




その夜のことだ。トリスタン帝国の帝都、トリスタン城にて、大騒ぎが起きた。

「そっちに逃げたぞ!!」

「なんとしてでも捕まえろ!!」

城中がたった一人の侵入によって大騒ぎとなっていた。

侵入者と言うのは怪盗フェンリル、もちろん彼の隣にはエリルが共に走っていた。

怪盗は宝物この中から多くの宝を持ち出した。

その宝はまちまちの物だが、全てにおいて共通している物があった。レィーヴェン王国の宝物と言う事だ。

中には宝剣などもあり、かなりの重さだが、怪盗は宝を入れた袋を担いでいるのにもかかわらず軽快な逃げ足で城内を走った。

「エリル、正面の壁を壊せ!」

「ガウッ!」

怪盗フェンリルがそう指示をするとエリルはさらに早く駆けだし、銀の風となって正面の壁を突き崩した。

だが、その先は足場の無い外、その下は帝都を通るように流れる川だ。

怪盗フェンリルはそれに躊躇いなく飛び、川へと落ちてゆく。

銀狼も同じようにして降りてゆくが、下は川、浅いところでは無いが、滝から落ちるような物だ。

ザブンッ!!

荒い二つの水音が発し、水しぶきが飛んだ。

このまま進めば帝都を抜けることができる。だが、怪盗は宝の重さに負けてうまく泳ぐことができない。

浮いてくるわけでもなく、溺れているわけでもない、流れに任せて泳いでいるものの、息が持つはずがない。

(まずい……)

息がどんどんと苦しくなってくる中、エリルが怪盗に近寄った。

摑まれという合図であろう。怪盗はそれを感じ取り、片腕を預けるような形で摑まった。

すると銀狼の下半身が銀の粒子となり、押し出されるように水の中を進むことができた。

彼が一度息継ぎをすると、一気に川を下り、帝都を抜けだした。

彼が帝都を抜け、安全なところまで行った頃には帝国兵は帝都の川の河口に兵を配置し終わった頃だったという。

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