22話 微笑む祝福
あれから丸一日と半日、レスト率いるネオ・トリスタン軍はユナリアを去り、ユナリア軍は奇跡とも言える少ない被害でユナリア城へと還ってきた。
今夜は祝勝会、多くの兵士達がそこに姿を見せる中、肝心のアニアが居なかった。
月明かりが明るい夜空の下、ユナリア城の一室で一人の男がベットに寝かしつけられ、少し弱い規則正しい呼吸をしていた。そのすぐ側には長い金髪の少女が男の手を握りしめ、すやすやと寝ていた。
一人はユナリアの英雄、アニアの命の恩人、怪盗、レィーヴェン王国の王子、多くの言い方があるが、ミラノというアニアの思い人、そう言うに最も相応しい銀色の青年。
もう一人はユナリアの希望、国王代理、そしてアニアというミラノの思い人、そう言うに最も相応しい金色の少女。
近いようで遠く、遠いようで近い二人は今、多くの道のりを経て結ばれていた。
傷だらけになり、ただ護り続けたミラノと、護られ続けたアニア、一方的に迷惑を掛けているアニアだったが、今は彼女が看病をし、逆の立場となっていた。
月明かりが差し込み、微かに人が騒ぎ合う声が聞こえてくる。だが、室内は物音もなく、二人の寝息だけが聞こえてきた。
宴が始まってからどれほどたったのだろう。王が不在だと言うのに会場は奇跡とも言える勝利に祝福するばかり、無礼講という場なのであろう。ある意味ではその場に王がいなくて良かったという物だ。
静かな部屋の中、うっすらと目を開けたミラノ、体は疲労で動かず、無理に動かそうとしても刺さるような痛みが襲うだけで体はピクリとも動かなかった。
辛うじて首は動かすことが出来、隣を見ると、そこにはアニアが居た。
何処か元気のない表情だったが、月明かりに照らされた金色の髪が輝き、美しく思え、まるで小動物のような寝顔がとても可愛かった。
ミラノは改めて自分が惚れた女性の美しさと可愛らしさを実感した。最初はこの城から少し離れた場所にある湖の辺で歌っている姿に一目惚れをした。初めは何かの間違いでは無いかと思ったが、ユナリアが大戦を起こす前にあった最後の時に確信が行った。ミラノ自身はただの片思いだと思っていた。だが、アニアも同じ事を思っていたのだ。自分が置かれた地位は天地の差、だが、心は近くにあった。遠いようで近く、近いようで遠いその関係は何時もお互いが心を痛めていた。
今、ミラノの手は彼女の小さな手で握りしめられ、守り切れた。そんな思いが実感としてわき上がってくるばかりだ。
何処か誇らしげで、何処か嬉しそうで、何処か安心したような自分でもよく分からない。それは恐らくミラノ自身が弱いからだ。エリルの力を借りなければ今の彼は居ない、だから自分の無力さを悔やむのだ。誰かの力を借りなければこれまで進むことが出来なかった。そんなことはずっと分かっているはずなのに情けなく、悔やむばかりだった。
「……人って……暖かいんだな」
包帯越しに伝わってくるアニアの暖かみは彼にとって心の氷を溶かすような物だった。
彼の言葉は氷のように冷たいはずの何時もの言葉ではなく、暖かな言葉の奥底に眠っていた柔らかな声だった。
「……ん……ミラノ……さん?」
彼の声の反応したのだろうか、アニアはゆっくりと目を覚まし、ふとミラノの方を見ると寝ぼけているのかいないのか、少し分からない様子ではあったが彼が起きていることを認識した。
「お目覚めか? アニア王女」
暖かな柔らかい声、今までのミラノにはなかった角の取れた声だった。
「み、見ました?」
はっとあることに気がついた彼女はおそるおそるミラノに聞いた。
「何を?」
ミラノはそれを知ってか知らずか、あえて聞き返した。
「そ、その……寝顔、とか」
アニアはもじもじしながら言い辛そうにそうそっと言った。
「可愛かったよ、お姫様」
ミラノはニッコリと笑うとそうあっさりと言い返した。
「はううぅぅぅぅ////////」
真っ赤になるアニア、耳の先まで真っ赤だった。
(こういうところは初心だな……色々と一人に抱え込んでるくせに……)
アニアの表情をじっと笑ってみていたミラノだったが、心の中ではどうしてもやるせない気持ちだった。
王としても人としてもまだ若輩者、子供と言ってもいい、ミラノは一応年上だが、そう年が離れているわけでもなく、長年生きている人間からすれば小さな年の差だ。
世間体は若い方がいい、王言うのが当たり前だが、若き王は道を踏み外すことが多い。ミラノも王の道を踏み外した王の一人と言ってもいい。
人は過ちを犯したときにその過ちに気づく。
だが過ちを犯した人間は知ることが多く、まだ過ちを犯していない人間に教えることが出来る。それが償いだ。
共に歩むことでその過ちはいつしか無くなる。ミラノはそう願っていた。
「……笑っていてくれ」
「え……」
「俺が銀の旅人だとすれば、君は金の王だ。だから民を導く太陽のような存在であって欲しい」
ラード神話曰く、4人の王は全てに意味を持たせる。種族に振り分ける事もできるが、王のあり方がそれどれを表す。銀の旅人は自由、理性、自然、聖なる者の使いを意味し、種族は精霊、あるいは精霊使いを意味する。金の王は正義、王道、平和、万人の王を意味し、種族は人間を意味する。黒の騎士は力、覇道、勝利、覇者たる者を意味し、その種族は魔族を意味する。白の軍師は知恵、行政、大局、冷徹なる賢人を意味し、その種族はエルフを意味する。
ミラノが銀の旅人だとすればアニアは金の王、筋の通った話しだ。
「私、ですか?」
「ああ、平和をもたらす希望だ」
まるで対極のようにたつ二人、心は近く、地位は遠い、アニアが太陽ならばミラノは月、彼女が光ならば彼は影、道を指し占めす過ちを犯した男と過ちを知らない道を歩んで行く女、全く違う立場に居る二人が寄り添い、こうしてお互いを支えている。
数時間後、みんなが寝静まった深夜、アニアもさすがにずっと居るわけにはいかず、ミラノは一人で居た。
「……いつか、平和になったら……」




