20話 戦火に輝く氷剣
「はぁ、はぁ、はぁ」
戦場、荒々しい斬撃音が響く戦地に一人の少女が一振りの剣を抱えて走っていた。
少女の名はアニア・ネールス・ユナリア、戦場のまっただ中に居るはずの無い人だった。彼女は思い人の元に走っていた。
戦場は混乱状態に近い状況、炎鉄騎士と名高いエレドアの部隊と北に構えていた帝国と思われていた部隊は沈黙、帝国の本隊は大将が不明のままユナリア軍本陣へ向けて進軍中怪盗フェンリルによって阻まれ、スクレイドの部隊は帝国軍本隊へ向けて進軍、今は怪盗に気を取られること無く別の方向から進軍した部隊の迎撃に当たっていることだろう。
数の上では圧倒的に不利に立たされているはずなのに、偶然と奇跡、そして多くの人も思いが複雑に交差して同等に渡り合っていた。
(ミラノさん!)
アニアは走り続けた。そして間近にまで見えてきた戦場、そこで彼女が目にしたのは一人の男の勇姿だった。
一体何百人の人間を倒したのだろう。一体何度剣を振るったのだろう。
彼の背中を護るようにして戦う大狼、ただ何かを護るようにして戦う彼、なんの為にその体を張って戦っているのかアニアには分からなかった。
だが、その時、帝国兵はアニアの存在に気づいた。
変わらず敵に剣を突き立てるミラノだったが、敵の動きが若干変わったことに気づいた。だが、その時には少し遅かったのかも知れない。
「覚悟!!」
大勢の帝国兵が剣や槍を振るい、アニアに襲いかかった。
剣すらまともに振るうことが出来ないアニアが剣を持っていても対抗する手段は無かったのだろう。剣を抜くこと無く、寧ろ剣を庇うようにして背を向けた。
刹那、銀色の風が吹き抜け、周りの帝国兵が凍り付けになった。
「王がなにをやっている…………ここは戦場だぞ」
彼女は自分を恥じた。彼女は自分を情けなく思った。何度同じようなことがあったのだろう。なんど彼に助けられたのだろう。自分は馬鹿だ。何も変わっていない、そう思った。
「ミラノさん!」
彼女はそっと目を開け、目を見ると、そこにはミラノが居た。
だが、ミラノの姿は既にボロボロ、頭からは血を流し、服は所々血がにじみ、真っ白だった服も赤くなっているところがよく分かり、どれほど怪我をしているのかも分かった。
大狼も矢傷や切り傷でボロボロで、これ以上戦えるような姿ではなかった。
「全く、戦えもしないのにこんな所まで……やっと五百人程度倒したところなのによ、形振り構ってられない状況で王女様の護衛、酷く疲れる」
見るのも辛い姿なのに勇ましく、頼りがいのある姿に見えた。
「すみません。でも、ミラノさんが危ないって思って」
「そう思ってくれるだけで結構……今は自分のみを大切にしてくれ、暗殺者相手に腰を抜かすほどなんだから戦中には来て欲しくないな」
皮肉そうに言う彼であったが、いつも以上に言葉が優しく、柔らかい物だった。
「えへへ」
「褒めてないって……剣を貸してくれるか」
「はい」
アニアは抱えていた氷剣ルシアリオをミラノに渡した。
「氷帝アルシオンよ、今だけでいい……俺に力を貸してくれ!」
鞘から抜かれた氷剣ルシアリオ、冷気を纏い、心身へと伝わるその力を一身に受けたミラノの覇気は一層とまし、たくましく見せた。
銀色の旅人、ラード神話の精霊使いの指すが、今のミラノに最も似合っていたのだろう。
「アニア、俺から離れるよな、守れなくなっては困るからな」
「はい」
煌めく白銀の刃、青い手柄に填め込まれた氷の精霊石、精霊王「氷帝アルシオン」がレィーヴェン王国に授けた一振りの宝剣は「義」という言葉と共に存在した。何者にも溶かされも砕かれもしない氷のように硬い意思を持った「義」と言う事が相応しい。
「ショータイムだ!!」
「これ以上先へ行かせるなよ!」
北、懸念であった奇襲部隊のあった方面では予想を超えていた。
『おう!』
北に構えていた旗すらも掲げていなかった少数の部隊はいつの間にかその姿を消し、山を一気に下るような形で帝国軍の旗を掲げた部隊が奇襲、その数は1500ほど、不可解なことが多く、理解できないが、エルドの部隊は急いで兵を動かし、奇襲部隊を食い止めていた。
たった100ほどの小さな部隊だが、1000以上の兵士を食い止め、優勢に戦っていた。
掲げられたユナリアとエルド傭兵団の二つの旗が倒れる様子は無く、寧ろ帝国軍の旗が急激に減っていた。
まるで一人一人が名の有る将のような部隊で、誰一人欠けること無く戦い続け、自然とお互いの背中を護りあって戦っていた。
その中でも、エルドは全員に背中を預けるようにして戦い、一番前に出ているが助けられているようにも見えた。誰からも頼られ、誰もを助けるその戦い方は孤高の傭兵ではなく、歴とした軍隊の戦い方に身写し見ることが出来た。
放たれる魔弾、進む道が修羅の道だとしても動じないのだろう。
進む道に正義という言葉が無いとしても自分が正しいと思うのならば彼らは進んでいくのだろう。
「魔弾、ショットバレル!!」
エルドは地面を蹴って跳躍し、空中で逆さ向きになって引き金を引いた。
恐ろしい速度で降り注ぐ魔弾、乱れ撃ちと言うわけでは無く、放たれる魔弾は全て的確に帝国兵を撃ち抜いた。
一方、レスト率いるネオ・トリスタン軍はというと……
「全軍、背後より帝国軍に攻撃を仕掛けます。出来るだけ軽い攻撃を行ってください、寝返れるような余地を与える程度に」
流離いの神軍師レスト・ロックハート改め、レスト・ヴィズ・トリスタンの策は吸収作戦だった。腹黒とも言い換えれる彼の考えはまさしく策士だった。




