第12話 お若い御二人さんニャア? 絵の中へようこそニャア。おデートですかニャア?
セイフライド領地はリゲイン王国の西方にある地方でね。隣国のアルビオン帝国やラクス皇国と国境を境にしているんだ。
先祖代々に渡ってセイフライド公爵家がこの地方一帯の統治を行って来たみたいでね。その代々に渡る優秀な統治で辺境の地の筈の領内は比較的治安が良くて領民の皆は安全に暮らせてるんだ。
そのお陰なのか敵対しているアルビオン帝国の進行を数百年間に渡って防いでいるってコンプリートガイドには載っていたんだ。
まぁ、それもゲームだと僕《悪役令息》や御兄様のお馬鹿さん無双でセイフライド領地は荒れに荒れてアルビオン帝国の進行を許す事になって、リゲイン王国滅亡の危機を迎えるんだけど。
それを主人公がカッコ良く主人公無双して解決。アルビオン帝国のヒロイン達とニャンニャンして和解して新たな時代を作る的なノリであのルートはハッピーエンドに終わったんだよね……僕はそのルートでも首チョンパで死ぬんだ。悲しいね。
どんだけ僕に厳しい世界なのさ。この世界はさ。
そんな事をこの世界で生きている人達が知るわけもないよね。この情報もゲーム販売後に販売された設定集とかを買わないと知る事ができないもの。
まあ。そんな悲しい最後を回避するにも『鑑定』の力の取得は急いだ方が良いと思ってね。今日やって来たのは地方都市 《コネクト》。
セイフライド家の屋敷から馬車を走らせて20分程で辿り着くセイフライド領地で最も発展した都市なんだ。
ここにはリゲイン王国でも屈指の美術館があるんだよね。
《都市コネクト ルミナス美術館》
「わ~! シン君見て見て~! 凄い綺麗な建物だよ」
眩い最推しの子の笑顔プライスレス。どんな美術品より輝いているのが僕の最推しアレクシアなんだよね。
「はい。今日もアレクシアは宝石の様に輝いていますよ。それに今日はなんだか可愛らしいお洋服を着てらっしゃいます……ね?」
あれ? アレクシアが可愛らしい女の子お洋服を着ている?
普段は僕と同じ半袖半ズボンの活発的な格好のアレクシアが……頭には麦わら帽子。純白のワンピースに。御高そうなエド国産のサンダル。
真夏のエロゲーヒロイン三種の神器全てを身に付けたパーフェクトアレクシアは僕にキラキラな笑顔を向けてくれている。
ふ、ふつくしい……これはあの青い目の竜の美しさを軽く凌駕しているよ。ビックリだよ~!
「シン君。大丈夫~? 何でボーッとしてるの?いつもみたいに頭撫で撫でしてあげれば治るの?」
天使が僕を心配して頭を撫で撫でしてくれているよ。最高だよ。世界。
「いいえ。だ、大丈夫です。心配してくれてありがとうございます。アレクシア……の可愛さに見惚れて頂けですので……ですよね? 御二人共」
「はい。お美しいです。アレクシア様」
「はい。全くその通り。御姉様の言う通りです。アレクシア様」
突然、行き先も告げず。行方不明になった美少女三姉妹の代わりに王都からアレクシアの新しい専属メイドさんとして派遣されて来た双子姉妹ののユラさんとサラさんがアレクシアに優しく微笑みながらそんな感想を言っているよ。
「えへへ~! ありがとうなの。皆~!」
うんうん。アレクシアは順調に女の子らしく成長しているね。
最近は綺麗な銀髪を伸ばし始めてツインテールやセイバーの髪型で僕に褒めて褒めて~!って見せてくれたり。
レイラちゃんと一緒に可愛いドレスを着て社交界なんかで僕と踊ってくれたり。
駄目人間《ライチ師匠》に可愛い女の子になるにはどうすればいいか一生懸命聞いているんだよ。
………おや? これはどういう事だい? 本来なら森で僕が生前の記憶を思い出す前のあの出来事でアレクシアは僕に嫌悪して男性不信に陥って男装乙女として生きていく筈なのにさ。
ゲームの幼少クエストの時だと。ひたすら剣術やカッコ良い何かに憧れる美少年化が進んで行って。
アリス魔法学園に入学後はその鍛えた美少年力で百合ヒロイン達との仲を深めていくんだけど……主人公の超絶美少女が進んでいるってどうなっているんだい?
この僕が間近で主人公の成長を見守っているっていうのに全然男の子嫌いにならないし。
天真爛漫な優しい可愛い娘に成長しているんですけど。これもまさか運命力が関係しているって事なのかな?
いや。でもアレクシアの強さ的にはゲームよりも。こっちの世界の方が剣術も魔法も数倍強いんだよね。最近はいつも楽しそうだし。いつも僕に抱き付いてくれるしさ……これも運命力が成せる御業って事なのかな?
これはどうにかアレクシアに美少年化してもらう様に少しずつ誘導していかないと不味いのよね。
「シン様。では私達は外で待機しております」
「本日のルミナス美術館はアレクシア様とシン様の貸し切りにする様に館長には話をつけてありますのでゆっくりと中をお巡り下さいませ」
う~ん。流石、王都のシュリディンス本家から派遣されたアレクシアの専属メイドさん達だね。あのポンな美少女三姉妹とは格が違うっていうか。
こちらの意図を先に読んでちゃんと準備してくれているんだから優秀でこれならアレクシアの事も任せられて安心だよ。
美少女三姉妹もララちゃん達との共同生活を楽しんでいるみたいだし。皆幸せになれて最高だね。
《その頃の隠しアジト リンカネーション》
「ジン教の教えを広めてリゲイン王国の国教にするのです」
「「「はいっ! ララ様~! ジン教最高。ジン教最高。ジン教最高。ジン教最高」」」
「……何? この子達」
「盲信的過ぎて……」
「怖すぎるんですけどー!」
「………逃げようとしても元の場所に戻って来ちゃう。ここはいったい何処なのよぉ。エレイン助けに来てぇ~!」
◇
《ルミナス美術館内》
「これはこれはハイド・セイフライド家の悪ど……ゴホンッ! 失礼しました。シン様とシュリディンス家のご令嬢様ですね。私はこのルミナス美術館の館長を勤めさせて頂いて下ります。ハラグロと申します」
「こんにちは。ハラグロさん。シン・セイフライドです」
「アレクシア・シュリディンスです。よろしくお願いします……なの」
この人。僕の事を悪童って言いそうになっていたね。まぁ、無理もないよね。つい半年前まではコネクトに来れば必ず騒動を巻き起こすクソガキだったんだかさ。警戒されても可笑しくはないね。
それと最近はアレクシアが語尾になのを付けるのが可愛いね。うん。天使かな?
「今日はわざわざ僕達の為にルミナス美術館を貸し切りにしてくれてありがとうございます」
「ありがとうなの~」
「いえいえ。ハイド様にはいつもお世話になっておりますし。シン様の様な悪ど……方のご機嫌を損なえば。どんな報復を受けるか分かりかねますので。戦々恐々の心次第にございます」
ハラグロさんの心の声が駄々漏れで僕悲しいんでけど。
シャランッ!「ニャ~ン!」
「シン君。猫ちゃんが居るよ~! 真っ黒な猫ちゃん~!」
アレクシアが首元に変な鈴を付けた黒猫を指して無邪気に笑っているね。とても不思議な雰囲気がある猫にさ。
「そうですね。とてもとても不思議な猫ですね。ハラグロさん。ルアカハアハナサナハマアナツナタヤナハ」
「?!………何故、リゲイン王族の血筋でもないセイフライド家がその言葉を知っているのですか?」
前世の記憶があるからです。僕がハラグロさんに魔法の合言葉でそう告げるとハラグロさんの顔付きは一変した。眼光が奇妙な色へと変わり喋り方も鋭さを増して緊張感が出てまるで人でない何かに見られてる感覚に陥ってしまうから不思議だよね。
ああ、ちなみにハラグロさんに言った魔法の合言葉はね。〖絵画界への誘いはまだなのかい? あの猫の誘いに乗り従い絵画界へと向かいんだ。許可をくれるかい? グレムリン君〗って感じの合言葉を言ったんだ。
シャランッ!「ニャ~オ~ン!」
「……あれを見失わなければ行きたい場所には着きましょう……ですが見失えば対価は払って頂く。腕か内臓か……はたまた心臓か。新たな眼を欲するならばそれだけの覚悟が必要ですな」
まるで僕とアレクシアを値踏みするかの様に見詰めるハラグロさん………
「はい。それくらいの覚悟はありますよ……アレクシア。失礼します」
「へ? シン君。何でお姫様抱っこするの?」
「…………失敗を楽しみにしております。悪童…………絵画界の作品になるのをね…………実に楽しみにしておりますよ……ヒヒヒ……」
ハラグロさんはそう告げると僕達の前から突然居なくなった。
「……そうですか」
「あれ? シン君……太った男の人居なくなっちゃったよ……あれ~?」
「ええ。それよりも少し急ぎますので僕から離れないで下さいね。アレクシア」
「えっと。分かったなの~」
「ニャ~ン!」
赤と蒼のオッドアイの不可思議な黒猫が走り出すとルミナス美術館の通路が不思議空間へと屈折していくね。
そのタイミングと同時に僕は収納魔道具から神器『白銀姫の一刀』を取り出して構える。
「『白銀糸』……良かったです。釣れましね……後はこのまま絵画界へと引きずり込まれましょう。アレクシア」
「絵画界って何なの~? シンく~ん」
「ニャーオン!」
名画《観察し見定める黒猫》の中へと不可思議な黒猫が帰って行く。僕とアレクシアも黒猫に引っかけた白銀糸を通じて絵画界へと誘われた。
◇
《絵画の中》
「ルルル♪ ルルル♪ ルールルル♪」「オウッ! オウッ! オウッ! オウッ!」「ララーララーララーララー!」
歌う花園。踊り合う動物達。騒ぐ人形の群れ。ここは世界では絶対にあり得ない現象が起こる絵画の世界───絵画界。
「……シン君。ここはどこなの~?」
僕の身体に不安そうに抱き付いて離れないアレクシア。
「不思議で可笑しな世界ですよ。アレクシア……少しだけしかいませんので安心して下さい。怖がらせてすみません」
「ううん。シン君と一緒に居るから平気なのよ~」
……強がっているけど。あまり持たなそうだね。早くここに来た用件を終わらせなくちゃね。
シャランッ!「ニャ………コホンッ! まさか首輪に糸を付けて追って来るなんて予想も出来なかったよ」
「黒猫ちゃんが喋ったの?」
「………《眼猫のルナ》」
赤と蒼のオッドアイの黒猫……《乙女達は男装乙女に恋をします》の隠しキャラ。魔眼授けの猫。ルナが僕達に話しかけて来た。
「それにしても。悪童で有名な君。なんであの合言葉を知っていたんだい?……それになんの取引もなく。いきなりグレムリンに通行の許可を貰うなんて命知らず過ぎないかい?」
前世でこの世界の全てのクエストをクリアして合言葉も丸暗記してるなんて口が裂けても言えないね。チート行為だもの。
「すみませんがアナタとお話ししている時間は余り無いんです。こちらの小さな異世界で僕達に気づき始めた方々も居る様ですし。捕まる前にアナタに追い付いた報酬を下さい」
……遠い場所からジリジリと静かにヤバイ存在達が近付いて入るのが分かる。これオーフェンさんより強い人達が何人も居るね。
「ニャン……随分と一方的だね。君は……言っておくけど。何かしらの『本』も無しにルナから眼を貰おうなんて。虫が良すぎるって思わないのかい?」
「『本』ならここにありますよ」
僕は収納魔道具から『妖精祭典』を取り出して目次のページをルナと名乗る黒猫に開いて見せた。
「?! それ契約の印かい?……成る程。別の小さな所には行った事があるんだね。それで無事に帰って来れる位には力がある。なら眼力をあげても大丈夫かな」
うん。借りパクしてるだけだけどね。
「それにほら。アレクシアは金の斧も持ってますし。アレクシア。その首飾りをあの黒猫さんに見せてあげて下さい。そうすればあの黒猫さんをモフモフして良いですから」
「モフモフ~! 分かったなの~! はいっ! 黒猫さん」
「フニャ~アァ!! ちょっとっ! 女の子の方。何でいきなりルナの身体をモフモフするんだい。話してよぉ~、それに何で君まで神器を持っているんだニャア~!」
アレクシアは黒猫さんを鷲掴みすると。まるでパンの生地を捏ねる様にモフモフし始めた……最後の語尾のニャアとあざとくて可愛いね。
「正しい合言葉も言いました。資格も魅せましたし。さっさと下さい。鑑定眼を」
「………いや。君達面白い運命をしているから。ルナ事あげるよ……ここ《ルミナス美術館》に居ても暇なだけだしね」
「はい? 君事あげる? あのそれはいったい?」
「これからよろしく。悪童の子と運命の娘。君達とはこれから長い付き合いになりそうだしね……ニャーン!」
ルナが鳴き声を上げると絵画界の空間が歪み始めてルミナス美術館があった場所へと僕とアレクシアは立っていた。
「あれ~? 何で私達。お外に居るの?」
アレクシアがルミナス美術館があった場所を見ながらキョロキョロし始めた。
「……鑑定……姫?……この眼。本当に鑑定出来てるんですか? ルナ君」
「あってるよ。ご主人……左目は鑑定。右目はルナの家にしたからね。これからはご主人の右目に住むからよろしくニャン」
ルナ君はそう言うと僕の右眼から現れて静かに僕の肩へと降り立った。
この《眼猫のルナ》を追いかけて何かしらの神器を魅せると眼が与えられるイベントクエストで、ルナ君本人が手に入るなんて思いもしなかったよ。そして……
「あーっ! 猫さん居たの~!」
「ニャ? ああ、運命の娘もこれからよろしく……ニャァァァ?!」
「気持ち良いのお~! 可愛いの~!」
「や、止めてニャア~! モフモフするのは止めてなのニャア~!」
ルナ君はアレクシアに捕まり。モフモフ地獄の日々が開幕したんだ。
それにしても良かったね眼猫のルナ君。僕みたいな優しい飼い主が見付かってさ。
これから色々な子達からモフモフされるんだからね。君の身体の原型ちゃんと残るか僕少し心配だよ(笑)
「スゥゥーッ! お毛並みが最高なの~!」
「毛が抜け落ちるから止めてなのニャア~!」




