第四章 紅葉(クレハ)の始まり④
オープニング曲 『クレハの季節』
https://x.com/HanashioKikei/status/2013089880767598755?s=20
ツイッター(現X)にて公開中
それからしばらく、先生は私の薙刀を、レイピアで受けてくれた。
そのレイピアの捌き、まるで彼女、オスカレッテ=グランディールさんと戦っているかのようだった。
多分大剣を振り回していては、何度か串刺しくらいにはなっていただろう。
でも…薙刀ならついていける。
手加減はされているにしても、少なくとも先生と互角に斬り合っていられるのだ。
「よし。今日はこの辺にするぞ」
「ハァッ ハァッ ハァッ あ ありがとうございますっ!」
「お前は元々スジは良いんだ。自分に合った戦い方をすれば、治安でも即戦力くらいには、な」
褒められた。この人のことだ、お世辞なんか言えないだろう。それだけに、底知れぬ喜びが湧いてくる。泣きそうなくらいに。
私は変わったのだ。過去を振り切るほどに。
…どうせなら。
「あの、先生。厚かましいついでに、お願いがあるのですが」
「何だ? 言ってみろ」
「はい! 私に、名前をください!」
「…はぁ?」
「私はもう、過去に囚われず、これから先の、自分にできることを、精一杯やっていきたいと思います。だから…この際、名前も変えてしまおうかと」
「あ? ああ、うん。それで、何で…俺?」
「私が尊敬する先生だからです!」
胸を張って答えた。私は真剣だ。だから先生を真っ直ぐ見つめた。
「いや、待て、そんな…いや…分かった」
思いが通じた。
「全部? 丸ごと?」
「藤枝姓は残そうかと思います」
「なるほどね。入団時は紅葉、だったな」
「はい」
「元に戻す、ってのは違うんだよな?」
「はい」
「待ってくれ…そういうの苦手で…うーん…」
先生は天を見る。真剣に考えてくれている。
「そうだなぁ。紅葉が生まれ変わって最初からって事で、クレハ、でどうだ? 紅葉の読み変えでしかないが…」
クレハ。この瞬間、私の【設定】が書き変わった。
「はいっ! とても素敵な名前です! ありがとうございます! 先生から頂いたこの名を穢さぬよう、これから生きていきます!」
「お、おう。そうか。喜んでもらえたようでなによりだ。もっとも、俺たちはもう死んじまってるけどな」
「あ!? あ、あはははははははは、おかしぃぃ」
笑いが止まらない。笑うなんて、こんなに笑うなんて、どれだけ久しぶりなことか。久しぶりが多い一日だ、今日は。
そして、先生も笑っている。豪快に。厳しい表情しか見たことがなかったから、新鮮だ。それはそうだ、人は皆、笑うくらいのことはする。私が知らなかっただけのことだ。
ノックの音。
「ヴァンフォードさん、時間です」
警護の人。私のお迎えだ。自分の「部屋」に戻る時間、ということだ。
再び私の【設定】が凍結される。
だが。
「ああ、藤枝。お前の名前の登録変更、俺がこの後やっておく。それと、明日からここまで一人で来い」
「…いいんですか? 私」
犯罪者なのに、と言い掛けたところを遮られた。
「それはそれだが、逃亡の可能性は無い、と、俺が判断した。あ! そうすると凍結と解除も俺がするのか。指紋登録しとかなきゃな。プレッソさん、ちょっとやってもらっていい?」
お迎えの警護の人が封印具を操作する。ピーという持続音に続き、「どうぞ」の声。
「クレハ、耳をこっちによこせ」
言われるままに左耳を差し出す。
ピー、ピッと持続音が消える。
あれっ? いま私、なんて呼ばれた?
「よし、登録完了っと。ちとテストだ」
先生の手はまだ私の耳にある。少し、くすぐったい。
ピッ、解除。ピピッ、凍結。
「よし、大丈夫だな。クレハはまた明日、ここに来い。明日からは凍結、解除共に俺がやる。以上だ」
「先生、今…クレハって…」
「ん? ああ。新しい武器だって、毎日使わなきゃ使い方、忘れちまうだろ? まぁ俺が付けた名前だし、せっかくだからな」
つくづく、この先生は武人なのだな、と思う。私の名前すら武器とご同類とは。武器と同じくらいには大事にされている、と思えばいいのか?
「はは。そうですね。それではまた明日もよろしくお願いします」
私は会釈と挨拶を。
「おう! 明日もビシビシやるからな!」
そして、つくづく『先生』なのだな、と思う。
◆
自分の部屋へ戻る…のだが、まず様子が違うことに驚く。
いつもは入り口に立っている監視員の人が、今日は中で待っていたのだ。
そして告げられる。
「藤枝カヱデ改め藤枝クレハ。あなたの登録変更がおこなわれ、本日付けで戦技教官補佐となりましたので、相応の扱いとなりました。つきまして、団で預かっていた荷物を一部返却、部屋に入れてあります。公正を期すため、沖田大海並びにゴリ男の両名にも同様の措置が取られています。明朝、また牢を開けますので、それまで部屋で待機していて下さい。食事は間も無く配膳されます」
「えッ?」
自分の部屋を見てみた。見覚えのある荷物。私のカバン。
「ゴリ男君! モヤシ君!」
「ぼガべギなざギ」
「あ、委員長。おかえりなさい」
「うん。ただいま。これって…」
二人とも見覚えのある、かつてあのロッジで生活してた時の私服を着ている。
「昼食の後、運ばれてきたんです」
「そう、なんだ…」
「委員長、髪切ったんですか? お似合いです!」
「ぐゲギ」
「あら。おだてても何も出ないわよ? ふふっ。でも嬉しいね。ありがとう」
「藤枝さん。お部屋へお願いします」
「あ、はい! すみません。ちょっと、良かったね!」
グッと右手の親指を立ててみせる。
「はい!」
モヤシ君の声に少し元気を感じられた。
部屋に入る時、シャルの部屋の方を見た。
規制線はまだ解かれていなかった。
部屋に入り、カバンを開けてみる。中は主に下着、肌着。それに簡単な私服も入っている。
ただ…あの男、ハルキが選んだ服も入っていた。他人から見れば違いは分からないだろうが、こんなのを着るのはゴメンだ。つくづく、私を肉体だけのモノと思っていたのだ、と感じられるから。しかしどうにも除けようがないので、仕方ない、カバンに詰めておくしか。でも、他の衣類まで穢されるような気がして、気が滅入る。
それはそれとして、やはり自分の物を身に着けられるのはありがたい。早速着替える。狭く暗い部屋ながらも、少しだけリラックスできた。
エンディング曲 『私だけ(F)』
https://x.com/HanashioKikei/status/2013221745772376537?s=20
ツイッター(現X)にて公開中




