大ブーイング
「貴殿がブルース・マスタング辺土伯か!?」
「そうだが、どなたかな?」
我が家の正門前に仁王立ちする女騎士。 薄汚れたローブの下は王家のブルー・・近衛騎士の鎧を纏っている。
「近衛騎士シャーロット・ハンザだ」
「そうですか。 で、近衛のシャーロット殿はこんな田舎に何用か?」
思いつく理由は一つしかない。 ベアトリスを陥れた王子と男爵令嬢の使いだろう。 期待通りベアトリスが酷い目に遭ってるか確認にきたのかもしれない。
「ベアトリス嬢に用があってな」
「ほう? 我が妻にご用ならば私を通してもらいたい」
やはりか。 門番の微妙な表情を見るに、ベアトリスが面談を断ったのだろう。
「私は誤魔化されぬぞ! 外部との接触を絶ち酷い仕打ちをしているのは解っている」
「彼女は私の妻だ。 部外者にとやかく言われる筋合いはない」
やはりその件か。 追放では飽き足らずさらに追い打ちを考えているのか?
「本性を現したな。 そもそも馬車に満載の女達を屋敷に連れ込んで何をするつもりだ?」
「彼女達は・・私の客人だ」
娼館まがいの修道院から保護したなどと言える訳がない。 彼女達の尊厳に関わる。
「ふっ 語るに落ちたな好色卿」
「何とでも言うがいい」
こっちは長旅で疲れてるんだ。 さっさと帰ってくれ。
「ブルース・マスタング、我シャーロット・ハンザは貴殿に決闘を申し込む! 勝利の暁にはベアトリス嬢の身柄に加え攫われた女達の解放を要求する」
「いいだろう。 ならば此方が勝ったら君の身柄を確保させて貰う」
この女を王都へ返す訳にはいかない。
「きゃぁ♪ 騎士様 頑張ってぇ!」
何故に黄色い声援が?
「好色卿から救い出してくださ~い♪」
ああ、そういう。
酷くない? おまえ達もいそいそと舞台を整えてんじゃないよ。 『閣下の対人戦は久しぶりだな~」って、呑気だな! はぁ 悲しくなってきた。
「魔獣狩りが得意だそうだが、ケビン・マードック如きに後れを取るようでは話にならんぞ」
「そうそう! あいつ、ケビン様にあっさり負けたのよ!」
今のはマリアンヌ嬢か。 人の気も知らないで、そもそもケビンはお前を裏切った男だぞ。
「もう御託はいいから、さっさと始めよう」
「ならば行くぞ!」
一足一等即の間合いからシャーロットが打ち込んできた。 瞬きする間に17連撃を放って間合いを再び取る。
「思ったよりやるようだ」
「・・・。」
剣を抜いたら無駄口は不要。 想像以上に凶暴な剣だ。 速いだけでなく重さもある。
「どんどん行くぞ!」
「・・・。」
再び17連撃、今回はそれを3セット。 3つとも内容は違った。
「・・シッ」
「・・・。」
次も同じく3セット、間髪入れずにもう3セット・・・うん、だいたい解ってきた。
「ふぅふぅ・・どうした? 討ってこねば勝てぬぞ!」
「・・・。」
シャーロットの剣技は一見凶暴で野性的な振り下ろし、薙ぎ払い、突きの組み合わせだ。 しかし、冷静に分析すれば決まったパターンの組み合わせだと解る。
3振りで一組のモーションが3種類と3振り+フェイントのモーションが2種類の計5種類のモーションを足して(3×3)+(4×2)=17連撃。 これをランダムに組み合わせるから3×3×3×4×4=432通りのバリエーションがある。
カラクリが解かれば攻略は簡単だ。 フェイントのハーフスイングから振り上げる瞬間に隙があった。
だから、・・・1・2・3・1・2・3・1・2・3・1・2・3
「4っ」 ガインッ
「なっ?」
上手くいった。
「よっと」
「・・・騎士の決闘に締め技だと?」
体勢の流れたシャーロットを手前に引き倒して、そのまま三角締めの体勢に入る。
「悪いが女を殴る趣味は無いんだ」
「うぐっ・・お・おの・れ・・・。」
綺麗に極まったら逃れるのは不可能だ。
「ぅっ・・・・。」
「・・・落ちたね」
よし! 双方無傷で完勝だ!
「ブーブーブー」
豚がいるのかな?
「女に掴み掛かるなんて男の風上にも置けないわ! ブーブー」
えー 斬ったら傷が残るし、殴ったら痣になるじゃん。
「好色卿のクセに潔く斬られなさいよ! ブーブー」
そんな理不尽な。
カシャンッ ガラガラガラ
突然、屋敷正門の鉄扉が開かれた。
「余興は終わりましたね。 ようこそマスタング辺土伯邸へ」
愛する妻2人のお出迎えだ。