先っぽクライシス
王太子妃殿こと睡蓮宮の前で、ウィリアム・バドック王太子殿下と私・・近衛騎士シャーロット・ハンザは幾度目かの論戦を戦わせていた。
「ウィリアム殿下! マリーダ嬢は飽くまで婚約者候補! 睡蓮宮に立ち入らせるなどあってはなりません」
マリーダという男爵令嬢はベアトリス嬢が些末な罪で幽閉された翌日から、この睡蓮宮に我が物顔で居座っている。
「ったく・・シャーロットは頭が固いな。 ベアトリスには使わせてたじゃないか」
「当時のベアトリス嬢は候補ではなく正真正銘の婚約者です」
「マリーダもじきに正式な婚約者になる。 同じではないか」
私の苦言は殿下に聞き入れられることは無かった。
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暫くしてマリーダ・ソノス男爵令嬢が正式にウィリアム王太子の婚約者となった。 近衛騎士の心得に反しても、私はあの女を主と敬うことは出来ない。 国母はベアトリス嬢のように聡明かつ貞淑であるべきだ。
「すっごい大きなベッド♪ みんなで寝れるねぇ」
この頃には、あの女の傍若無人な振舞いは更にエスカレートして、美麗な令息を連れ込み傅かせるようになる。 連夜に渡って続く乱痴気騒ぎ、それでも睡蓮宮の護衛である私は扉を護り続けた。
「ねぇシャーロット、王族の秘密は誰にも漏らしちゃ駄目よ」
「・・・無論にございます」
ぬぉぉぉ!!! 売女が調子に乗りおってぇぇぇ!!!
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そんな爛れた日々が1カ月ほど続いたある日。
「その汚いモノを仕舞ってさっさと家に帰れ! 然も無くば斬り落とす」
「ひぃぃぃ!!!」
私は遂にキレてしまった。
「シャーロット、これは洒落にならんぞ! いいから剣を納めて・・・。」
「警告はしたぞ」 プチンッ
「・・・え? ほぎょばぁぁぁ!!!」
粗末なモノを斬ってしまった。
この日、私に先っぽを斬り落とされたステファン・パシリス侯爵令息は宰相の長男らしい。 私の辞表は即日受理され、王家に捧げた剣は没収された。 バッチぃので構わない。
「よくやってくれた・・と、言っては不味いんだが、皆 同じ気持ちだ」
「ええ、私は己に恥ずべきことは何もありません」
王族以外の男性が睡蓮宮に居た時点で切り捨て御免の状況なのだ。
「とにかく、追手が掛かる前に王都を離れろ」
しかし、長男の継承機能を斬り落とされたパシリス侯爵家は納得すまい。
「はい。 長い間お世話になりました団長」
「おぅ、元気でな。 ほとぼりが冷めたら、また顔を出せ」
この日、私は街道を行く荷馬車に紛れて王都を脱出した。
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パシリス侯爵家の怒りは想像以上だった。
最初に暗殺者と遭遇したのは王都を脱出した翌日早朝。 罪の無い商人を巻き込んでしまった。 難を逃れた私は街道を避けて森の中を徒歩で進んだ。
次の襲撃は最初の襲撃から3日後。 この日、返り討ちにした暗殺者の持ち物から、自分に賞金が掛けられた事を知った。
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王都を脱出して1ヵ月。 私は遂にレビゾン連邦との国境に達した。
「手配書の女がレビゾン国境を目指して移動しているとタレコミがあった。 宰相閣下の御令息を害した大罪人である。 生死は問わない、必ず見つけ出せ!」
赤毛で大女の私はどうしても目立ってしまう。 かと言って食料調達に人里へ下りない訳にもいかない。 足取りを消すのは困難だ。
辺土魔境を抜けるしかないか。 冒険者が多い辺土近郊ならば上手く国境を越えられるかもしれない。 そういえば、睡蓮宮の元主ベアトリス嬢を『好色卿』の生贄にしてやったとあの女が嗤っていたな。
『好色な豚からベアトリス嬢を解放する』
この発想は天啓だった。 生きる目的を失いかけていた私の新たな道標、騎士の本懐は主を救い護ることにある。 活力を取り戻した私はレビゾン国境から北へ進路を取った。
狙うはマスタング辺土伯領の首魁、好色卿ブルース・マスタングの先っぽだ。




