領都南丘の三つ巴戦
明日はいよいよ決戦だ。 野盗や部隊規模の襲撃なども経験したが、いわゆる戦争は初めてだ。 未だに人を殺める行為には躊躇いがある。
夜風に当たって、少しクールダウン。 家人の消えた寒々しい廊下を一人歩く。 僕の寝室の前に立つ女。 ショートヘアのクール系女子。 ゾンダ家の魔導七剣士、紅一点のシンシアだ。
僕は空気の読めない男ではない。 野暮な問答は不要。 彼女の肩をそっと抱いて扉のノブに手を掛けた。
「殺しますよ」
「あれ?」
おかしい。 冷気を放つ魔剣が、僕の首に据えられている。 決戦を前に、思い出が欲しい的な流れではなかったのかな?
「私は貴方という男が嫌いです」
「それは、残念」
「その態度も言葉も全てが気に入らない」
肩を抱いただけで、そこまで言う? 酷くない?
「中で殿下がお待ちだ。 早く行きなさい」
「あ・・はい」
話でもあるのかな? 首に張り付いた魔剣をベリッと剥がすと、シンシアは僕の入室を許可した。 ヒリヒリする。
「ダイアナ・・その格好」
「男の寝室を訪れるに相応しいと思うが?」
一糸纏わぬダイアナが、僕の寝台に頬杖をついて横たわっていた。
*****
僕に抱かれながら誰かを思い出している。 彼女はそんな様子だった。 僕の知らない彼女は、誰かを深く愛していたのかもしれない。
「悦んでもらえなかったようで哀しいぞ」
「お互い様だろ?」
覚悟を決めた顔をしやがって。
「心外だな。 王女の純潔は安くないぞ」
「知ってるよ」
おかげでこっちも覚悟が決まったよ。
「家族を優先していい。 その上で力を貸してくれれば十分だ」
「自分で価値を下げるんだな」
「なに、安売りにはならん。 おまえはそういう男だ」
ダイアナは寝台から起きると、椅子に掛けていたガウンを羽織って。
「お休みブルース。 いい夜だった」
そのまま寝室から出て行った。
*****
翌朝、僅かな護衛騎士を残して、僕らは進軍を開始した。 敵に悟られぬよう、北門から大きく東に迂回、レグルス軍と王太子軍が対峙する領都南の丘に北東から侵入した。 目指すはレグルス軍の後背だ。
「兄者、首尾は上々だ」
「ご苦労だった。 最後の仕上げを頼むよ」
「がってんだ!」
配役は既に打ち合わせ済み。 さあ、存分に踊ってくれ。
+++++
ブォ―――‥!!!
戦場に響く重厚な角笛、進軍太鼓のリズムに合わせ、屈強な男達が怒声を吐く。
ドン ドン ドン ドン
「うっ はっ うっ はっ」
攻撃に特化した大盾陣、牛魔人の群をも弾き返す鉄壁、マスタング軍重騎士隊。 ただいま参上だ。
~レビゾン皇軍サイド~ ~マリーダ殉軍サイド~
「援軍がきたぞ!」 「援軍がきたぞ!」
厭戦ムードが支配的だった戦場にゲー 敵の背後に待ち焦がれた援軍が登場し
ムチェンジャーが現れた。 た。
「バドッグ王国近衛騎士団の旗です。 「あれは、レビゾン連邦の旗です。
その数およそ2000騎」 その数およそ3000騎」
「よーし! 足並み揃えるぞ、正面の敵 「もう敵は袋の鼠だ。 機を逃すな、全
に集中だ。 逃がすなよ」 軍突撃で一気にケリをつけるぞ」
「ははっ」 「ははっ」
+++++
両軍とも動き出した。 互いに、敵が退却する前に殲滅するつもりだろう。
「王太子軍は本当に動く気か? あれで」
「当人たちには、味方が沢山いるように見えてるからね。 やや劣勢だったところに、3000騎の大部隊が援軍に来たと勘違いしてる筈だよ」
「哀れだな」
侵攻当初は2000人いた王太子軍も、今や500人ちょっと。 客観的に見れば、あれで全軍突撃など正気の沙汰じゃない。
「全隊、3時方向へ駆け足。 両軍の南側へ抜けるぞ」
「ははっ」
こっちの動きは、両軍共から敵の退路を断つ行動に見える筈だ。 さあ、ガンガン羊を追い込んでいくぞ。
+++++
~レビゾン皇軍サイド~ ~マリーダ殉軍サイド~
王国の近衛隊が南に回り込む動きを見 流石はレビゾン軍、いい動きをするじ
せた。 退路を断つだけじゃない。 我 ゃないか。 しかし、この俺はマリーダ
々を追い越して功を奪うつもりかもしれ の期待を一身に背負っている。 戦功一
ん。 位は譲らない。
「後れを取るな! 砲撃と同時に歩兵は 「近衛騎士団は正面から敵を突き破れ。
全隊突撃。 騎馬隊も続け」 狙うは敵将マスタングただ一人」
「ははっ」 「ははっ」
+++++
王太子軍の近衛騎士達が勇猛果敢に挑みかかる。 1800人は居るレビゾン軍の直中に10分の1の兵力で飛び込んでいった。 彼らの目に映る友軍の9割が幻影。 隊列は不自然にスカスカだ。
「死ぬ気になれば、何とかなるもんだな」
「多分、本人は死なないと思っているぞ」
あ・・そうだね。
「よーし! 我々も威嚇を再開だ」
自ら進軍太鼓を叩いてみる。 いい感じだ。
ドン ドン ドン ドン
「うっ はっ うっ はっ」
久しぶりに、羊焼肉が食べたくなる。
「続く歩兵も衝突しました」
「これで、もう暫くは戦えるかな?」
近衛騎士200騎に歩兵が300人加わって総勢500。 3~4倍の敵に勇敢に挑んでる。
*****
1時間後、遂に残る近衛騎士は10人に絞られた。 歩兵は全滅。 大半のレグルス軍は幻影と戦闘中だ。
「レグルス軍の残存勢力。 騎馬隊300 歩兵800 その他100 以上です」
「期待以上に頑張ったね」
では、そろそろ種明かしだ。
「幻影を解除」
「がってん!」
レグルス軍の残存兵力、10人の近衛騎士、共に戦いを止めて騒然としている。 悪いが、状況を理解される前に。
「盾構えぇ!!!」
ザザザザザザザザンッ
「重騎士隊! 突撃ぃぃぃ!!!!!!」
勝負を決めさせてもらう。
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