父憂い娘想う
国王陛下は良く言えば優しい、悪く言えば甘い御方だ。 ブルース君から助命の嘆願書が提出された時点で、ハーベスト卿に極刑は無くなった。
「これで、毒を盛られるのは7回目、刺客も3回来たかな?」
「13回ですよ。 侵入される前にほとんど片付けられてる」
しかし、彼に証言をさせまいと、身に覚えのある者が次々と刺客を送ってくる。
「昨日、パットセン子爵の次男が処刑されたよ」
「あの変態小僧か」
「違法奴隷を買うだけならまだしも、その扱いがちょっと酷くてね」
「そうか、あの娘を渡す前で良かった」
「ああ、家に帰しておいたぞ」
例の『聖母テラ謹製:解呪の護符』が効いたのか、毒気の抜けたハーベスト伯爵は、ここ数年の悪事を全て詳らかにした。
「それで、マリアンヌの件だが、調べてくれたのか?」
「ああ、『愛妾落ち』事態は隠れ蓑だね。 彼女は他国の貴人と結ばれたようだ」
「そうか・・どこの国だ?」
家族への愛情を取り戻した彼は、娘の行く末を案じていた。
「他言無用に願いたいのだが」
「ああ」
「マリアンヌ嬢はエルフの男と結ばれたそうだ。 今頃、先方の許可を貰いにエルフの郷を訪れている」
「エ・・エルフの男だと?」
「ああ、だから他言無用で頼む。 双国の初代王と並び立つ・・なんて誇大妄想から担ぎ上げる輩が出るやもしれない」
実はブルース君の嫁も、一人エルフだけどね。
「成程な・・それで、どんな男だ? エルフといったら女みたいな優男か?」
「ああ、普通はそう思うよね。 私も最初は驚いた」
「やはり、問題ある男なのだな」
「いや、違う。 寧ろ貴方のお気に入りだ」
「何だと? エルフの知り合いなどおらん」
先日、彼に差し入れした『無敵将軍冒険絵巻』の最新刊、それを開いて見せてやった。
「この男が婿殿だ」
「はっ?」
最新刊で初登場する筋肉超人ガイ。 我々の抱くエルフのイメージとは大きく異なる脳筋キャラだ。
「絶賛してたじゃないか。 『ツボった』だっけ?」
「これが?」
彼のこんな愉快な顔は久しぶりに見た。 気分がいい。
*****
ハーベスト伯爵の処分に先立ち、領地の帰属について決定が成された。
「私の力及ばず申し訳ない」
「そんな・・頭を上げて下さい。 旧ハーベスト領を息子に任せて頂けるだけで十分ですとも」
ハーベスト伯爵から取り上げられた広大な領地。 これを、パシリス侯爵は王家に返還せよと迫ってきた。 『マリーダ様の意向』などと世迷言を並べて。 そもそも、あの領地は領主間戦争でブルース君が奪取したものだ。 流石にパシリス侯爵の専横は阻止したのだが。
「鉱山の権益を奪われては全く旨味がない」
「いえ、鉱山で爵位を買ったと思えばいい。 それに、考えがありますので」
「ほほう、やりますか?」
「ええ、ゾンダ家との密約を知った時点で、正直 鉱山からは興味を失いました」
「それ程まで期待しているのですね」
「勿論ですとも。 東西に長いハーベスト領に、新たな街道が敷設されれば・・ふふふっ 王都周辺に関所を設けるものぐさ貴族はひっくり返るでしょうな」
愛妻家で穏やかな印象のマッケィン侯爵。 その実、商取引に関する知見と情熱は王国随一だ。
「物流が変わりますか?」
「変えるのですよ。 享楽に耽る寄生虫を、王都から引き摺り出してやりましょう」
王都の人口が増え続ける一方で、バドッグ王国全体の出生率は1%をきっている。 王都に籠る貴族は、自分の領地から領民が消えたことに気付いてすらいない。
「しかし、全てマイク君に任せて、自分は領都に戻ってしまうとは、度量が大きいのか無関心なのか」
「両方でしょうな。 あの御人は」
+++++
「お帰り2人とも。 どうだった? エルフの郷は」
「とても美しい処でした。 ガイア様のご両親も素敵な方で」
「それは良かった。 精霊樹の儀式、大変だったろ?」
「なっ・・何てことありませんでしたわ」
ずいぶん苦戦したみたいだ。
「して、ブルースよ。 マリアンヌのご両親は無事であるか?」
「ああ、奥方はベアトリスの兄上が保護している。 伯爵の処分はこれからだろう」
「父は裁かれて然るべき罪を犯しましたので」
領主間戦争のことは、マリアンヌには内緒で進めていた。 しかし、彼女は状況から察していたらしい。
「大丈夫だ。 伯爵の処分は、おそらく国外追放で決まりだろうと聞いている」
「それの何処が大丈夫なのだ」
「辺土はバドッグ王国の領土じゃないらしいからな」
冗談かと思っていたら、本当に王国全図に記された国境線は辺土の外縁だった。 どの国にも属さない魔境という位置付けらしい。
「では、お父様は」
「然るべきのちに、奥方と共に迎え入れる予定だ」
顔を合わせ辛いけど、あの人って何気にやり手らしい。 働き手はいくらでも歓迎だ。
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