解除ならず
ああ、憂鬱だ。 俺は、また例の『奈落』に行かねばならんらしい。 ヴェロニカがお願いするなら仕方がない。
「ミサピヨ達を連れていけないって?」
「申し訳ありません、アキラ様。 彼女達がパンドラ・・『奈落』の魔獣に遭遇すると、暴走・・動揺して危険な事態に陥りますわ」
「しかし、俺は一月も堪えられないぞ」
「では、現地で調達されては? 領主も喜んで差し出すでしょう」
そうだな。 俺は救世の勇者だ。 皆が俺に尽くすべきなんだ。
*****
辺土に着くなり、領主の邸へ乗り込んだ。 先ずは立場を解らせる必要がある。 うひょ いるじゃねぇか? 先ずは、この巨乳女から喰ってやろう。
「とにかく、放してください」
「嫌だね」
ビリビリビリ
「なにこいつ? 乳輪でか。 がっかりだ」
「おい、アキラ! いい加減にしろ」
おいおい、田舎はレベルが低いな。
「ほれっ さっさとヤリ部屋に案内しろ」
「・・・。」
もうその気になっちまった。 このブスで我慢してやろう。
「その汚い手を放せ」
「誰だぁ? てめぇ」
俺の邪魔をする大男。 身の程を知らねぇようだ・・うおっ!? 何だ、この馬鹿力は? 死・・死ぬ。
ポーン♪
≪緊急警報! 『称号:勇者』から『生命の危機』が申請されました。 宛て『女神:メフィストフェレス』スキル緊急解除を要求します≫
よし、頼みの綱が発動した。
≪スキル緊急解除の要求が受諾されました。 敵性集団の排除に移行します≫
この邸ごと葬り去ってやる。 地獄で後悔するがいい。
≪『推奨スキル:竜巻風刃魔法』 攻撃を開始しますか? Yes/No≫
もちろんイエスだ!
ポーン♪
≪システムエラー:53が発生しました。 ネットワークパスが見つかりません≫
なっ・・なんだ? 土壇場でシステムエラーだと? 早くこの男を もう、意識が 本当に・・死
ゴキン
「ひゅ」
突然、天地が逆さまになった。 皆が茫然と俺を見ている。
ポーン♪
≪緊急警報! 身体に重篤な損傷を確認。 生命維持は困難。 間も無く死亡します≫
ちょっと待て! 死ぬのか? こんな所で、俺が?
≪自発呼吸停止。 カウントダウン開始します。 10・9・8・・・≫
待て・・待ってくれ・・・
+++++
やっと領主邸まで帰ってきた。 これから辺土統括軍の編成で色々と忙しくなる。 のだが。
「この中か?」
「ああ、すまない」
帰るなり連れて行かれたのは、レビゾン連邦の領事館。 ダイアナが、その一室に案内した。
「これ、本当に生きてるの?」
「こんな状態だが、容体は安定している」
うつ伏せ(?)で寝かされているのは勇者君。 顔はこっちを向いている。 首を不自然に逸らせた彼は、確かに寝息を立てている。
「力の加減を間違ってな」
「私の治癒魔法は優秀よ」
面目無さそうなガイアと自慢げなエーレンティカ。 なんでも、ガイアがへし折った勇者君の首をエーレンティカが直したらしい。 首を折られて、ほぼ即死の状況から救ったエーレンティカは確かに優秀だ。 優秀だけど。
「首の向きは、何とかならなかったのか?」
「骨接ぎは苦手なの」
これって骨接ぎとか、そういうレベルの話だろうか? 180度ターンした頸椎は、中でどう繋がっているのだろう? 脊椎の中に脊髄があって・・考えるだけ無駄か。 イッツ ア マジック! で納得しよう。
「これって問題になるよね?」
「何とも言えぬ。 アキラの横暴は度を越えていた」
細かな経緯は何とも胸くそ悪い話だった。 主の不在中に乗り込んで、嫁に手を出すとは、外道も極まったな。
「取り敢えず、彼が起きたら僕が話をしよう」
「すまない。 私が止めるべきだった」
「いや、ダイアナには立場があるだろ? それよりガイア」
「やり過ぎた俺にも非はある。 相手方に突き出すなり、追放するなり、好きにするがいい」
「そうじゃない。 皆を護ってくれて助かった。 礼を言う」
「ふんっ」
さてさて、厄介な事態になった。
*****
僕が戻った5日後、シンセスの部隊が統括軍本部に到着した。
「我、サンサ-ンス・シナプス、盟約に則り辺土統括軍に馳せ参じた。 神官50名、護衛の聖騎士300騎、存分に働きましょうぞ」
「シンセス聖教国の参陣を歓迎いたす。 心ばかりの馳走を用意した。 英気を養ってくれ」
派遣された数は例年の2倍。 王配サトシが実権を握って、意識改革も進んでいるそうだ。
「して、勇者様は今回の掃討戦に参加されるので?」
「彼は体調を崩して本国に帰りました」
「なんと? 軟弱ぶりは、健在のようですな」
2日前に目を覚ました勇者君は、レビゾンの騎士200騎を連れて帰国してしまった。 帰るのはいいが、護衛に200騎は多すぎでない? おかげで、シンセスが増やしてくれた分がチャラだ。
「我々はいつも通り戦えばいい。 配備完了後、直ちに出撃する」




