暫しの別れと帰郷
およそ800年ぶりにヒトに嫁ぐ花嫁。 エルフの郷の見送りは盛大なものになった。
「おい、ブルースまた戦ろうぜ!」
「ああ、気が向いたらウチにも遊びにきてくれ。 美味い酒と拳で歓迎するよ」
「おお、いいな! 考えておこう」
ガチムチをさり気なく勧誘しておく。 一騎当千のこいつらが、統括軍に加わってくれたなら、さぞ魔獣掃討も捗るだろう。
「ブルース様、私だけ途中からすみません」
「なあに、ティアは余り戦い向きの性格じゃないだろ? また、様子を見に来るから元気でな」
「はい。 お待ちしております。 必ず来てくださいね」
「ああ、約束する」
「あと、フィナのことくれぐれも」
「そうだったな。 悪いようにはしない」
さて、名残は尽きない。 そろそろ、行こう。
チュン チュン
「じゃあ下までよろしく。 ユウジ」
「お願いしますユウジさん」
英霊かと思うと、つい敬語になる。
「なんだ? 大王雀如きが畏れ多いか?」
「ガイアは黙れ」
『ガイア』というのはエルフの戦士の称号だ。 ド・・だと呼びにくいので、流用させてもらうことにした。
「ブルース君、人間の争いに関わることは無いが、魔獣や魔人は我らも共通の敵だ。 少なくとも娘を預ってもらう間は、協力は惜しまない」
「心強いお言葉です。 是非、頼らせて頂きましょう」
ガチムチ派遣の言質も取れた。
「寝る前に歯磨きするのよ」
「はい。 朝起きたら顔も洗います」
これ以上、お世話になったら駄目になる。
バサバサバサ
「しゅっぱーつ!」
ユウジさんは、軽やかに飛び立った。
*****
『重無ヴェルヌ』の北端から辺土魔境北部の森林地帯へ大王雀のユウジさんで降下。 そこからは、襟巻地竜のタカシに乗り換えて、一路 辺土魔境南部マスタング辺土伯領を目指す。
「なあ、ガイア。 そう言えば、勇者アキラが来た時も模擬戦をしたのか?」
「勇者? 誰だそれは」
「あれ? テラはアキラの誘いでシンセスへ行ったんじゃないのか?」
そうそう、エーレンティカはエルフ族の言葉で聖母を表す『テラ』と呼称することになった。 聖母・・ねぇ
「あーあの屑。 森でウロウロしてたから『街へ連れてきなさい』って命令したのよ」
「じゃあ、郷の所在は・・。」
「知らないと思うし、教える気はない」
その方がいい。 御前会議で見たアキラは、碌でもない男感がビンビンだった。
そして3日後、久しぶりにマスタング辺土伯領に帰ってきた。
*****
タカシを領民に観られては混乱の元だ。 郊外の森で降りて徒歩で移動する。
「ちょっと、遠いんですけど。 馬車の送迎は?」
「ぐっ これ程までに重力の影響があるとは・・もう疲れてたぞ」
軟弱エルフ共め。
角兎狩りに勤しむ冒険者たちを横目に、領都郊外の草原地帯を徒歩で移動する。 異世界には本当に角の生えた兎が居るんだなーなんて思ったものだ。
「なあ、テラ。 隠蔽系の魔法で耳を隠すことは出来るか?」
「あん? なんで、コソコソしなきゃいけないのよ」
僕がエルフを連れて領都に戻ったら、絶対に噂になる。 程なく王都へ伝わって、要らぬ介入を招くかもしれない。 王家に献上しろとか。
「アキラの時も勝手に婚約者にされたりしただろ?」
「そんなの、無視すればいいじゃない」
「おいおい、当面ここに住むんだ。 王家の使いとか、押し掛けてこられても面倒だぞ」
「そういえば、この国の王家ってエルフを攫ったゴロツキの子孫だったわね」
バドッグ王家って、そんな前科があるんだ。
そんな訳で、幻覚魔法で耳の造形を人間のそれに似せたテラとガイアを連れて領都の門をくぐった。
*****
久しぶりの街は、以前に増して活気が満ちていた。 王都で色々頑張ってきた効果もあるのかな。
「リィア、久しぶりだな」
「おっ・・長殿じゃん。 ベアトリスの弟が貴方に会いたがってたわよ」
「僕に?」
ベアトリスの弟って異母弟のエンリケだったか? 確か彼女の断罪に参加した男の一人だ。
「少し急ぐぞ」
「えー 私これ食べてみたかったのに」
芋なら邸でも食える。
*****
正門前に不穏な輩がいる。 あれもエンリケ関係だろうか?
「よう、ザック 今帰った」
「これは閣下、ご無事のお帰りで」
門番のザックは家族思いのいい奴だ。 しかし、警戒心が足りない。
「こちらを窺ってる奴がいるぞ。 気付いてるか?」
「あ・・はい。 まいってるんですわ」
知ってて放置してたのか? あれの周りには、嫉妬、執着、といった負の感情が蠢いてる。
「最近、奥様の用で出入りしてる冒険者の知り合いらしいです。 気味悪いですが、何かしてくる訳でもないんすよ」
「ベアトリスが冒険者を?」
まあ、諸々直接会って確認だ。 エルフの2人をザックに紹介しつつ門を潜った。
「ただいま・・って、だれ娘ちゃん?」
邸の扉を開いた所で、見知らぬ少女2人と出くわした。 腰の物は魔剣・・か。 立ち居振る舞いからして割と使えそうだ。
異母弟エンリケに、マリアンヌの護衛、おまけにストーカーか。 不在の間も色々あったみたいだ。
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