閑話 女冒険者の悲哀
私と双子の妹のライラは2人で冒険者パーティーを組んでいる。 私が炎の魔剣使いでライラが闇の魔剣使い。 ピンチは何度かあったけど姉妹で助け合ってなんとかやってきた。
「仇は討ったよロナ」
「待たせたね。 安らかに眠って」
私達には2つ下の弟が居た。 冒険者になった理由は病弱なあの子に薬を買う為だった。
2年前のあの日、私達の不在中に獣型牛魔人が村を襲った。 弟を殺した奴を斃さなければ私達は前に進めない。 獣型牛魔人を追う日々が始まった。
そして今日、2年越しの因縁に私達は終止符を打った。
「全部渡しちゃってよかったの?」
「うん。 元より私達の目的は復讐。 どうでもいい」
獣型牛魔人に追われている冒険者パーティーに出くわした私達は、彼らを助ける形で奴を斃した。 ところが斃した獣型牛魔人の所有権を彼らが主張してきたのだ。
戦闘中の獲物を横から掠めることはご法度とされている。 彼ら的には弱らせた獲物を私達が横取りしたそうだ。 んな馬鹿な。
でも少女の訴えより大人の男の主張の方が信用される。 争うだけ無駄だ。
「王都を離れようか?」
「うん。 アイカが行くなら私は付いていく」
私達は冒険者の激戦区、辺土に移住することにした。
*****
辺土に向かう車中で私とライラは今後のことを色々と話し合った。 お金のこと、結婚のこと、仕事のこと・・2年前まではロナの病気を治す為、2年前からは復讐を果す為、かなり無茶をしてきた。
そして至った結論は、もう無理はしない・・だ。 防御や回復に秀でた仲間を募って攻守のバランスを見直す。 と、考えたのだが。
「可愛いねぇ 守ってやるから俺の女になれよ」
男の冒険者の反応は大体こんな感じ。 仲間兼情婦を求めている。
「女と組んで私に何のメリットが? お断りよ」
女の冒険者は男と情を通じて庇護を得ようと考えるものらしい。
早々に、計画は暗礁に乗り上げた。
*****
そんなある日、仲間募集の掲示板に立ちおどおどする少年。 生きていれば弟は彼ぐらいだったろうか。 彼ならば女ではなく仲間として私達と接してくれるかもしれない。
「ねぇ君、メンバー募集してるの?」
私は思い切って話しかけてみた。
「はっ・・はい。 僕、リヒトっていいます。 補助魔法が得意です」
補助魔法か・・悪くないわね。
「ふ~ん。 どう思うライラ?」
「私はよく解らない。 アイカが決めて」
アイカに問いかけ振り向いた所で、纏わり付く粘着質な視線に気付いた。 視線の主は目の前の少年。 おどおどする仕草も何処かわざとらしく見えてくる。
「なぜ募集してるの? 前のパーティーを首になったんじゃない?」
「・・はい?」
ちょっと強く出たらすぐにボロが出た。
「答えられないの?」
「ぶひぶひ!・・・
・・・じゃあお試しで」
今まで会った男の中で一番気持ち悪い。
「行きましょうライラ」
「・・うん」
声を掛けたことを後悔しつつ足早にその場を去る。 何こいつ? 当たり前のように付いてくるんだけど。
「付いてくるな!」
「・・キモ」
言葉で突き放してもめげずに食い下がる。
「待てよアイカ! 魔獣に喰われておっ死んだ弟に似てる俺をほっとけないだろ?」
「それ以上、汚い口を開くな!」
挙げ句、弟を穢すような発言。 取りも直さずその場を離れることにした。
*****
それから付き纏いが始まった。 最初はあの手この手で突き離そうと試みるも尽く失敗。 無視することにした。
「領主様の奥様からの依頼なんだけど。 アイカさんとライラさんが適任だと思うの」
「領主・・貴族ですか」
「心配いらないわ。 とても立派な方よ」
受付の彼女は信用できる。 取り敢えず会ってみることにした。
*****
「ご依頼を頂いたBランク冒険者のアイカと妹のライラです」
「よくきてくれたわね」
案内された部屋で待っていたのは、作り物ですか? と、問いたくなるほど整った顔の領主夫人。
「私は護衛任務を任せる女性冒険者を探しているの。 2人は魔剣使いと聞いているけど間違いない?」
「はい。 ただ、そちらの騎士様一人で十分かと思いますけど」
領主夫人の背後に立つ長身の女騎士は明らかに格上だ。
「シャーロットは確かに頼れる騎士です。 でも護衛対象は私とは別に居るの。 あと護衛だけではなく彼女の話し相手になってくれたら嬉しいわ」
「話し相手に・・ですか?」
護衛対象マリアンヌ様の境遇を聞いて。 私達は依頼を受けることにした。
*****
後で知って驚いたのが奥様が王都で有名な『悪役令嬢』で領主様も有名な『好色卿』だということだ。 のちに誤解は解ける訳だが最初は恐かった。
マリアンヌとは直ぐに仲良くなり、庭へ連れ出し使用人の子供達と遊んだりする。
そして穏やかな気分を台無しにするのがいつもあの男だ。 屋敷の前で待ち伏せて何処までもついてくる。 実害が無いのに斬り捨てる訳にもいかず。 変装したり隠蔽魔法を憶えたり、工夫を凝らしても結局イタチごっこが続いた。
*****
そんなある日。
「ただいま・・って、だれ娘ちゃん?」
領主邸の前で屋敷の主ブルース・マスタング辺土伯と鉢合わせした。 シンセス聖教国から帰ってきたらしい。
「ふんふん・・マリアンヌの相手をしてくれてるのか。 ありがとうね」
「いえ、依頼された仕事の内です」
領主様は物腰柔らかで話しやすい人だ。 ちょっと視線はエロい。
「ところで、門の前に居る男はお友達? 好からぬ雰囲気だけど」
「・・ずっと私達に付き纏ってくるんです。 騎士さんも実害がないと取り締まれないようで」
こんなこと領主様に相談してもしょうがない。
「ストーカーか・・この世界でも居るんだな」
そう言ってすたすたと正門に向かった領主様は、猫をひっ捕まえる様に男を捕らえて拘束してしまった。
「私が言うのもなんですが・・いいのですか? 無実の人を捕まえて」
「あいつは無実じゃない。 法律は今作った。 ストーカー規制法違反だ」
やっぱ貴族を敵に回しちゃ駄目だわ。




