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残り物には福がある  作者: 橘 葵
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決死隊

 辺土魔境の中心に位置するカルデラ盆地『奈落』 その外輪山の一画に辺土統括軍最前線基地がある。


「被害状況は?」

「はっ! 当直の兵2名が重傷です。 証言から壁蜥蜴ゲッコーの仕業と思われます」

 不味いな。 魔獣は基本的に魔素が濃い『奈落』の中に留まろうとする。 普段は弱い魔獣が追い出される形で『奈落』の外へ出てくるのだが、壁蜥蜴ゲッコーは決して弱い魔獣ではない。 つまり、それだけ『奈落』内の生存競争が激化しているということだ。


「閣下、間も無く霧が晴れます」

「ふむ・・やはりか」

 魔素の霧が晴れて観測台から『奈落』内部が見えてきた。 森林や泥濘部に多い魔獣が餌の少ない草原地帯にまで進出している。


「早くしないと部隊を下ろすことも困難になりますな」

 前線基地には『奈落』へ下りる鋼索鉄道ケーブルカーが敷設されている。 但し安全に部隊を下ろすには聖女セレスティアの聖法結界によるサポートが不可欠だ。


「レビゾンの先行部隊はもう直ぐ到着だったか。 シンセスは?」

「あと3日は掛かるかと」

「あー例の勇者君か、まいったな」

 通る街々で歓待を受けているらしい。 


「3日は待てない。 催促と迎えの使者を送ってくれ」

「はっ! 直ちに」

 せめてセレスティアだけでも先に送ってくれないかな。 


 *****


「シンセスの到着はやはり遅れるようだ。 このままでは鋼索鉄道ケーブルカーの駅が破壊される可能性もある」

「決死隊を募るしかないわね」

 ダイアナが到着した頃には更に状況が悪くなっていた。


鋼索鉄道ケーブルカーの乗車定員は50名だ。 先陣は僕に任せてもらう」

「私も出よう」

「おいダイアナ! こんな無謀な作戦に輿入れ前の姫様を同行させる訳にはいかない」

「間違えるなブルース卿。 今季の最高指揮官は私だ。 デッケン、志願兵を募れ!」

 困った奴だ。


「はっ! 既に人選は完了しております」

「ご苦労。 但し貴様の参加は認められない」

「・・殿下?」

「貴様は私に代わり指揮を執れ。 貴様にしか任せられない仕事だ」

 指揮杖を渡されたデッケンは、ダイアナと視線を交わすと決死隊の作戦立案に移った。


 安心しろ。 絶対にダイアナを死なせたりしない。


 +++++


「ようこそ勇者様! ご尊顔を拝し恐悦至極に存じます」

「あー挨拶はいいから。 宴の準備をしてくれる?」

「はい。 ただいま」

 アキラ様はこの街にも()()()()逗留するつもりのようだ。 辺土統括軍本部から連絡が届く度に状況は悪化している。 こんな事をしている暇はないのだ。


「アキラ様、前線は非常に切迫した状況のようです。 私だけでも先行したいですが」

「乱暴なお姉様はパーティーよりも戦場の方がお好きなようね?」

「セレスティア、俺は暴力だけで全ては解決しないと思っている」

「いえ、そういう話ではなくて・・・。」

 また始まった。


「魔獣にだって生存権はある。 害獣だからと殺すのは人間のエゴだ」

「ですが、いま命の危険に晒されている人達を助けなければ・・・。」

「アキラの考え方は先進的だわ。 戦場しか知らないお姉様には理解できないのよ」

「シルフィーナは俺のよき理解者だ。 君が居てくれて本当に心強いよ」

「・・アキラ様ぁ」

 現実と乖離した理想論を語るアキラ様、聖女の務めを私に押し付けて民の称賛を一身に受ける異母妹シルフィーナ。


「勇者の任地で奉仕するのも聖女の務めだ。 別行動は認めない」

「・・承知しました」

 勇者の権威を高めるため、訪れた街で私は治療や浄化といった奉仕活動を行っている。 この程度の仕事なら元聖女候補のシルフィーナでも出来るだろうに。


 ブルース様、ダイアナ様、どうかご無事で。


 +++++


「これより降下作戦を開始する」

 ダイアナの号令で鋼索鉄道ケーブルカーに乗車する。 因みに鋼索鉄道ケーブルカーと言っても前世の観光地で乗ったアレとはだいぶ違う。 車両と言うより台車に近くて、急斜面に沿って傾斜した台車に水平に傾けたベンチが設置してあるだけの代物だ。


「各員乗車」

 僕の右隣がダイアナだ。 一方の左隣には今回から従軍している小柄な男が座っている。 この男はベアトリスが登用した従軍書記官でデイビッドという。 彼の仕事は常に僕の傍らにあって戦場を見届けることらしい。 初仕事から哀れな男だ。


「降下を開始しろ」

 鋼索鉄道ケーブルカーがゆっくり動き始めた。 吊りバネの懸架と滑車を組み合わせた機構で、ローテクながらよく考えられている。


 しかし、所詮は中世レベルの技術水準。


 ガシャンッ

 前線基地の方向から響く嫌な音。 おいおい、未だ100メートルも進んでないぞ。 程なく鋼索鉄道ケーブルカーは加速しながら暴走を始めた。


「うおぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 絶叫マシンは叫ぶに限る。 隣のダイアナも楽しそうだ。 あ・・デイビッドは白目を剝いてしまった。 あっと言う間に中間地点を通過して徐々に速度が落ち始める。 バネの張力が効き始めたのだ。 僅か数十秒で終着駅まで到達すると驚き顔の魔獣と目が合った。 そして直ぐにお別れ。 斜めバンジーよろしく上昇を開始したのだ。


「ブルースがシートベルトを開発したお陰ね。 これを楽しめるようになった」

「ベルトの過信は禁物だぞ」

 シートベルトが設置される以前は車外へ投げ出される事故が多かった。 5回ほどバインバインと上下して、僕らは『奈落』の玄関口、草原地帯に到着した。


 本日のお出迎えは魔狼ウルフの群ですか。


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