蛇足4 冬の三つ星(8/10)
ベテルギウスとリゲル。そのちょうど間にあるのが冬の三星だ。
レヴィアとフリースに、俺は星座の解説を続ける。
「そんでもって、俺が思うのは、赤いベテルギウスは、なんか熱くて情熱を感じるからレヴィアっぽいってことだ。青白いリゲルは、なんか冷たくて落ち着いた感じがするからフリースだな」
ちなみに、リゲルが肉眼ではみえないものの実は二重星であるという話があって、これがフリースとコイトマルの関係に似ているなとかも思ったりする。それから、ベテルギウスのほうがリゲルよりも表面の温度が熱いという話もあって、これもレヴィアとフリースの特性に重なるところがある気がする。
あと、ベテルギウスだけはオリオン座を形成する他の星々とは別方向に動いているという話があったり、いずれ超新星爆発で星の一生を終えるという話があったりするんだけど、こっちは何となく縁起が悪い気がするので、絶対に口に出したくないな。
そういう余分な情報を話すかどうか迷っている時間が少しあって、やがてレヴィアが「なるほど」と頷いて、
「では、真ん中の三つの星は、ラックさんですね」
「お、聞いていないようでなかなか鋭いな、レヴィア。俺が言いたいのは、まさにそういうことだ」
フリースの方は、深く頷き、
「つまり、ラックはこう言いたいのね。あたしがリゲルで、レヴィアがベテルギウス。三つ星の位置にいるラックをめぐって、対立している構図だって」
完全に理解しているようだった。
「よくわかったな。さっきの不十分な説明で」
そこで、すかさずレヴィアが「おばあちゃんだからですね。年の功ってやつですか」とか言ったが、フリースは目も合わせず無視を決めた。
レヴィアはすねて、俺たちの反対を向いてみせた。
フリースはレヴィアには構わず、優しい声で言うのだ。
「でもね、ラック、あたしは、そうは思わない」
「何か違う解釈があるんだな?」
フリースは深く頷いた。
「今のあたしたち、あの真ん中の三つの星みたいだなって」
周囲の四角形は、今、俺たちを囲っているこの部屋という解釈だろうか。もしくは、外と繋がっている窓という見立てだろうか。
いずれにせよ、部屋の中で寄り添い合って横並びになっている今と、何万年前かもわからない光の集まりとが繋がっているように感じているようだ。
フリースらしい、ロマンあふれる素敵な星空解釈だと思う。
きっと、フリースは俺と一緒にいたいだけじゃなくて、レヴィアともずっと一緒にいたいんだろう。
けれども、俺は、近い未来にハッキリと選ぶのだ。
レヴィアかフリースか。
魔族として生まれた者か、エルフの血を引く者か。
全然違う二人のうち、どちらか一人を。
死ぬまで、いや死んでも一緒にいたい、そんな、たった一人の相手を。
俺が考え込んでいるのが気になったのだろうか、フリースが少し不安そうに声をかけてきた。
「ていうか、ラックの解釈って、何がどうなってそうなるの? 対立する二つの勢力があったとして、三つ連なった星が、どうして戦いのど真ん中にいるの?」
思いがけず嬉しい質問がきたので、俺は嬉々として語り出す。
質問してもらえたことが嬉し過ぎて、聞いている側の理解などお構いなしだった。
「それについては、確証はないものの、(中略)オリオン座以外ですごく有名な河鼓三星という星宿があって(中略)兵隊への号令を役割とするんだが(中略)アルタイルを含み、ここで牽牛と重なるわけで(中略)役割が移ったとしたらどうだ。(中略)要するにだ、一つは、古くからの織姫と彦星の七夕話が、平氏と源氏の合戦話にすり替えられた可能性で、(中略)もう一つは、実はそもそもオリオン三連星への流用が、源氏と平氏の結婚話を意味する可能性だ。どっちにしても、時を越えてロマンを与えてくれるものなんじゃないかって思うんだよ」
あまりにも未熟な俺はアツく語ったのだが、残念ながら反応は非常に薄かった。
フリースは、途中から明らかに話をきいておらず、静かに星を見上げることに集中していた。
「終わった? 長い話」
ちょっとひどいなと思った。
レヴィアに至っては本格的に飽きたのだろう。いつのまにやら眠っていた。
もっとひどいなと思った。