蛇足4 冬の三つ星(7/10)
夜空には、控えめな星空が広がっていた。
俺たち三人は並んで座って、狭いアパートの窓から星空を見上げた。
冬は空気が澄んでいる季節とはいえ、このまちは夜でもかなり明るい。星座の完全な形などは見えないことも多かった。
夜空に輝くかの有名なオリオン座もまた、一部だけしかハッキリと見えていない。
四つの明るい星に囲われた三連星を指差して、俺は二人にこの世界の星座を教えてやった。
「あれがオリオン座だ」
「ラックさんの名前に似てますね」
「そうか? まあ、織原久遠だから、最初と最後を二文字ずつとれば、オリオンにはなるか」
「それです!」
だから何だとは思うけれども。
「でもな、レヴィア、オリオンってのは、ギリシャ神話に登場する豪傑だ。モンスターを殴り倒して活躍する、勇ましい男だぞ」
俺の説明に、俺の右側に座っていたフリースから、
「じゃあラックには似てないね」
俺がその煽りに答える前に、左側に座っていたレヴィアは、
「ラックさんだって、やるときはやる人ですよ。おとうさんボコボコにできる人なんて、ほとんどいません」
「わかってないねレヴィアは。ラックの魅力はそこじゃない」
「なんですかそれ、私だって、別に強いから好きなわけじゃないです」
「じゃあ何で好きなのよ」
「フリースに言う必要ないと思いますけど」
俺を挟んで険悪になるのを、どうかやめてほしいと思う。
オリオンの逸話にはいくつかあり、その中には恋人の身内から嫉妬されて矢で射殺されたなんて話もあるし、調子に乗り過ぎて巨大なサソリに刺し殺されたなんて話もある。
あまりネガティブな話をしても、俺が貶される流れになりそうだから、とりあえず教えないでおこう。
俺は二人の争いが落ち着いたのを見て、オリオン座の説明を再開する。
「真ん中の三つ並んだ星からみて、左上のすごく明るい星があるだろ。赤っぽくみえると思うんだが、あれがベテルギウスだ。英雄の右肩にあたる星だな」
「すごく目立ちますね」とレヴィア。
「その対角にある青白い星も、ベテルギウスに負けず劣らずのキレイな星だ。これはリゲルって名前で、英雄の左足にあたる星だ」
「本当、きれい」とフリース。
「あの三つ星と周りの四角形を中心とした星々がオリオン座ってわけだ。ちょっと、この空じゃあ他の部分は、だいぶ見づらいけどな」
フリースは興味深そうにうなずいてくれたが、レヴィアはちょっと飽きてるようだった。
そこでは、俺はこのオリオン座を構成する星々についての興味深い雑学を一つ、披露してみることにした。ちょうどそれに乗っかって言いたいこともあったしな。
「ベテルギウスは、またの名をヘイケボシというんだ。反対側のリゲルも別名ゲンジボシという。赤が平氏カラーで、白が源氏カラーだからだろうな。つまり、大昔に戦をしていた平氏と源氏に見立てられているわけだ」
レヴィアは首をかしげた。この国の生まれじゃないから、平氏や源氏ってところから知らないのだろう。
俺は構わず話を続ける。