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ファイナルエリクサーで乾杯を  作者: 黒十二色
後日談2 冬の日に
330/334

蛇足4 冬の三つ星(6/10)

 しばらくして、完成の時を迎えた。


 レヴィアは炊飯器でプレーンな粥をつくり、フリースは土鍋で刻んだ草を入れた粥をつくったわけだ。


「どっちから食べますか?」


 というレヴィアの問いには言葉を返さず、俺はフリースの土鍋から粥をすくった。きかなくてもわかるだろうという意思表示であることは言うまでもない。


 おそるおそる口に運ぶ。


「うっ……」


 強い雑草の味がした。戦闘力を上げる草であるラストエリクサーを思い出した。しかし、やはり違う。いい方向に違う。この雑草粥は、青臭さの中にもうま味があって、後味がいい。とても爽やかに感じられる。


「どう?」


「うまい!」


「よかった。でも本当はね、最高においしいスイートエリクサーを作りたかった。寒い季節だから材料が足りなかったけれど」


「じゃあ、最高のやつも今度つくってくれ。楽しみにしてる!」


 フリースは本当に心から嬉しそうに微笑んで、ゆっくりと頷いた。


 すごく幸せそうだった。


 そんな姿をみることができて、俺も最高に嬉しい。


 続いて、レヴィアのターンが回ってきた。


 あえて冷蔵庫でキンキンに冷ました粥に、いくつかの工夫をほどこし、出してくれるようだ。


「ラックさんどうぞ。食べてください」


 差し出された丼をのぞきこんでみても、米の姿が見えなかった。米じゃないものに覆われているのだ。


 それは、すごい量の緑色のホイップクリームだった。丼からあふれんばかりだ。なんだこれは。


「抹茶味です」


 レヴィアは、抹茶クリーム味のお粥を出してきた。


 意味がわからないだろう? 俺もだ。


 なんだこれ、今の体調では食べる気さえ起きないぞ。でもそんなこと言ったら傷つくかもしれないから言えない。


 体調不良も手伝って、どうにも頭が回らず、食べない理由に辿り着けないでいると、ついに短気なレヴィアが時間切れを告げた。


「なんで食べてくれないんですか!」


 もはやこれまで。俺は正直に答える。


「いや普通に腹を壊しそうだし」


「大丈夫です。いいから、ほら、すくってください! 口に運んでください!」


「でもなぁ」


 こんな粥パフェなんて、味も期待できない上に、せっかくフリースの粥で特大回復しかけているところを台無しにされかねない。どうにかして「食べない」を選択できないだろうか。


 必死に考えをめぐらせていたら、


「ほら! たべてください!」


 レヴィアが木のスプーンを手に取って、クリーム抹茶粥を救い取り、立ち上がった。


 強引にねじこむつもりだ。


 俺も椅子から転がるように落ち、冷たい床を這い逃げようとした。


 捕まった。


 どたばたと抵抗を試みたが、風邪で力が出ないのもあり、膝に乗られ、首の後ろに出を回され、万事休すだ。


 濃厚な抹茶のほろ苦さと、ほどよい甘さが同時に広がった。口の中で、粥とクリームの甘みが戦いを繰り広げた。


 ――あれ、意外とうまいかも。


「おいしいですよね?」


 俺の頷きをみて得意げな顔をした後、すぐに真面目な表情を見せ、レヴィアは言う。


「どっちがおいしいですか?」


「どっちも――」


 言いかけたところで、見下ろしてくる二人の視線に黙らされた。


 引き分けなんていう甘ったるい決着は許さない。そういう目をしていた。


 本当は嫌だけど、ここまで求められたら言うしかない。


 俺は背筋をのばし、審査員気取りの格好つけた口調で言い放つ。


「フム、これは、フリースのほうが、おかゆ型エリクサーとして優れていたと言わざるを得ないな」


 レヴィアは露骨に落ち込んだ。


「もちろん、レヴィアも美味しかった。こんなに上達してるとは思わなかった。けど、レヴィアの粥は、ちょっと風邪の時に粥を食べる目的から逸脱しているのだ」


「……どういうことですか?」


「なぜ、お粥が風邪の時の食事として定番なのかというと、胃腸への負担の少なさと、汗とともに流れ出た水分や栄養の補給に適しているからだ。身体を温める効果もある。ここでレヴィアの美味しい丼をみてみよう。抹茶を贅沢に混ぜ込んだクリームが、よく冷えた粥を覆い尽くしている」


「そうですね」


「胃腸を助け、水分や塩分を補い、身体を内部から温めることで抵抗力や自己治癒力を高めてくれたのは、どっちの粥だったかな?」


「フリースのやつです」


「そういうことだ。とはいえ、美味しかったし、美味しいものを食べて欲しいっていう愛も感じたからな。レヴィアの粥も、フリースの粥に匹敵するくらいにエリクサーだったと思うぜ」


「じゃあ、ぜんぶ食べてください」


「ウッ……」


 思わず、喉の奥から声が出た。


 それからしばらくの間、寝て、食べて、起きてを何度か繰り返すうちに、特に長引くこともなく、すっかり体調は元通りになった。


「ありがとな、二人のおかげだよ」


 フリースは心から喜んでいて、レヴィアは得意げな表情を見せてくれた。


 愛のこもった美味しい粥を出してもらっておきながら、全く相応(ふさわ)しくないレベルの低い感想だけれど、二人共、すごくかわいいと心から思った。


 すまんな、今ちょっと、うまく頭が回らないんだ。



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