蛇足4 冬の三つ星(5/10)
まあね。協力なんか見られなかったね。
はじまったのは、対決だった。
どうやら俺は、これから二杯の粥を突き付けられ、どっちが好みか判定しなければならないらしい。
フリースのほうは材料からだいたい予想がつくし、わりと料理上手でもあるから、普通に期待できる。
レヴィアのほうは、まあ……ちょっと言葉を濁すしかない。
それにフリースには手伝いのコイトマルもいる。
人型のぬいぐるみが、氷の刀で器用に雑草を刻んでいた。
そうだ、あれはどう見ても雑草だった。
七草粥みたいなものかもと思ったが、見たことない草が何種類もぶちこまれているのが見えた。
俺は、我慢できずに口をはさむ。
「どうみても普通の野菜じゃないよな」
フリースは深く頷いた。
「どこで採って来たんだ?」
「それ本当にききたい?」
「……いや、そうでもないかもしれん。きいたら食えなくなりそうだ」
「大丈夫。ラックは、よく草を生で食べてたから、それよりは安全だし、好きだと思う」
ラストエリクサーのことだな。たしかにムシャムシャ食っていたけども。
でもあれは、好きで食っていたわけではなくて、食って自らを強化しないとどうにもならなかったから涙目で噛みちぎって無理矢理に飲み込んでいただけなのだ。
草オブ草が好きなわけでは決してない。
俺が不安そうにしているのを見て、フリースは言う。
「このあたりの雑草は全部しらべた。それに、スマホもある」
「ああ、スマホな。最近は便利になったよな。カメラで撮るだけで、植物の種類がわかるようなアプリもある」
「それ使った。すごく便利。なくてはならない道具」
ここでいきなり話は変わるのだけれど、スマホといえば、ひとつ最近思い出して気になったことがある。
「なあフリース」
「なに」
「ずっとききたかったんだけどさ、フリース、あの時なんでスマホを破壊したんだ?」
あの時とは、異世界マリーノーツのフォースバレー宮殿と呼ばれる場所での出来事だ。
フリースは自撮りでレヴィアとツーショット撮影した直後、突然スマホを折って踏みつけ、機能を完全に停止させてしまったことがあった。あの時は、本当に苦痛だった。色々楽しみにしていたというのに。
フリースはその時、いずれわかると言っていたけれど、今の今まで説明してもらったことがなかった。
すっかり過去になったのだから、そろそろ理由を知りたいところだ。
「あー、あれね。そんな昔のこと、もうよくない?」
「いやすまん。気になってしまってな。何か理由があったなら、教えて欲しい」
俺が覚悟を決めた穏やかな口調で言うと、フリースはそんなにもったいぶることもなく、「まあいいか」と呟き、簡潔に言い放ってくれた。
「偽装系統のスキルもレベルが低いと、カメラとかには真の姿が写っちゃう。あのとき、あたしの隣に写ってたレヴィアがどう見えてたと思う? もう完全に魔族の姿だったからね。あの時のラックには絶対に見せられないと思ってさ」
考えていた可能性の一つだった。長年の謎が解けて、非常にすっきりできた。
俺に嫌がらせをしたくてやったわけじゃなかったんだ。優しさからの破壊だったことがはっきりとわかって、あらためて、ありがたいと思った。