蛇足4 冬の三つ星(4/10)
いつの間にか眠っていた俺が再び目を開いた時、布団の中には俺ひとりだった。
もしかして、さっきのは熱にうかされてみた夢の一部だったのだろうか。いや、あれは夢じゃなかったな。二人の感触は間違いなく現実のものだった。
そんなことを考えながら身体を起こすと、すこしだけ体調がよくなっている気がした。
レヴィアの愛が効いたのか、フリースの冷却が効いたのかはわからない。あるいは両方かもしれないし、あるいは気のせいかもしれない。
俺は二人の姿をさがした。
レヴィアが、ナイロン製の買い物袋の中身をあさっているのが見えた。
おそらく、さっき鷺宮後輩が来てから、さほど時間は経っていないのだろう。
レヴィアは、なるべく音をたてないように、缶詰だとか、米の袋だとか、卵パックや万能ネギなどを取り出して机に並べていた。
やがてレヴィアは不安そうに呟いた。
「すごくありがたいんですけど、ラックさんは、あの人のことどう思ってるんですかね……」
俺に話しかけたわけではないのだろう。異世界にいた頃よりも、ずいぶん勘の鈍ったレヴィアは、俺が起きていることに気付いていなかった。
ここはひとつ、レヴィアを安心させるために本当のことを伝えよう。
「どうもこうも、ただの後輩だろ。それ以外のなにものでもない。やたら煽ってきて、俺の反応をみて楽しんでいる悪趣味なやつだよ」
「ああ、ラックさん。起きちゃいましたか。ごめんなさい」
「ん、珍しいな。レヴィアが謝るなんて」
「そうですかね」
「そうだろ」
そこで、またしても玄関が開く音がした。
今度は誰だと思ったら、フリースだった。俺が眠っている間に、外出していたらしい。
足音を立てないように靴下で床を滑ってきたフリースは、キッチンの洗い場に向かった。蛇口をひねって、持ち帰った緑色の草たちを水にさらした。
振り返って、俺と目が合った。
フリースは優しく微笑みながら、
「あ、ごめん、扉の音で起こしちゃった?」
「いや、すでに起きてたからな。大丈夫だ」
「よかった。みたところ、少しはよくなったみたいね」
「ああ、おかげさまでな。まだ全然治っちゃいないけども」
フリースはうなずき、炊飯器の蓋をあけた。
「ねえ、ラック、おなかすいてない?」
「どうだろうな、空腹かどうかもわからん。でも、とりあえず、何かは食べないとな」
「おかゆ型のエリクサー、作ってあげる」
「なんだそれ」
ふざけているのかと思ったけれど、本人は大まじめなようだった。
レヴィアも「私も作ります」と手を挙げた。
おお、二人の協力調理が見られるのか、なんとも微笑ましいことだ。