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ファイナルエリクサーで乾杯を  作者: 黒十二色
後日談2 冬の日に
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蛇足4 冬の三つ星(2/10)

 二度と口に入れたくない。


 それはもう、想像を絶するほどにマズいからな。


 スパイラルホーン。砂粒ほどの大きさのそれだけでも、数時間は嫌な気持ちになれる。良薬は口に苦しといっても、あまりに苦しが過ぎるシロモノだ。


 料理技術があればスパイスのように使って美味しくできるという説もあるけれど、レヴィアにそんな腕があるだろうか。


 いや無い。あまりにも無い。


 俺は視線にメッセージを込めて、フリースを見た。


 ――どうかレヴィアを止めてくれ。

 ――あれやだ。たべたくない。

 ――たすけて。


 フリースはゆっくりと大きく頷いてくれた。


「レヴィア、何をしようとしてる? まさか、それをラックに飲ませるの?」


「そうです。これを削ってたくさん飲ませれば、あっという間に治ります」


「やめたほうがいいんじゃない?」


「なんでですか? あ、フリース、勘違いしてますね? これは、私の身体の一部だった角じゃありませんよ。私の一部だったものがラックさんと一緒になるのが(ねた)ましいからって、気にしすぎじゃないですか?」


「そうじゃない」


「じゃあ、なんで止めるんですか。最高のお薬になるんですよ?」


「それは異世界(マリーノーツ)での話でしょ。こっちの世界でこっちの人が口に運んだら、どうなるか……。あたしが何を言ってるか、わからない?」


 なるほど。言われてみれば確かに。マズイだけじゃなくてリスクもあるとか、ますますその角を口に入れるべきじゃないな。


「でも、つらそうにしてるラックさんをみて、何もしないわけには」


 そんなレヴィアの心配に、フリースは毅然として返す。


「いやいや、病院で診察してもらって薬をもらうのが一番でしょ」


「そんな! 病院なんて危険です! 学校の健康診断とかで、いつも何をされるかって心臓ばくばくで、こわい思いをしてるんですよ! ラックさんをああいうおそろしいところに行かせたくないです!」


 知らぬ間にレヴィアが病院嫌いになっていた。考えてみれば、もしも幼いころに病院に行った経験が一度も無かったら、何をされるか不安になるかもしれない。


 俺もそんなに病院好きではないから気持ちはわかる。


 これは未来のためにもレヴィアの病院嫌いを緩和しておきたいところなのだが、急に医療施設への嫌悪感を無くすことも非常に難しいものだ。


 今は体力にも気力にも余裕がないので、レヴィアの病院嫌い克服は今後の課題にすることにして、めっちゃ甘やかすことにする。


「ありがとな。レヴィアの意志を尊重して、このまま自力で治すことにするよ」


 いや病院行けよとでも言いたげなフリースの視線を感じる。


 わかっている。病院が間違いなく正しい選択肢だ。わかっているけれど、俺は二人のために病院に行かずにさっさと治ってみせる。


 俺は一つ深い息を吐いた。うまく呼吸できずに、いやな音の咳が飛び出てきた。しばらく止まらなかった。咳をするたびに、がんがんと頭に痛みが走った。


「しょうがない。せめて少しでも楽にしてあげる」


 フリースがにじり寄ってきて、俺の額に手を触れた。ひんやりと冷たい。魔法の力で冷やしてくれるようだ。


 気持ちいい。咳も頭痛もたちどころに引いていく。だいぶ楽になってきた。


 ふと、フリースの控えめな胸のあたりを見ると、ぬいぐるみが見えた。青いニットのセーターに包まれながら、なんとなく心配そうに俺を見つめているような気がした。


 ぬいぐるみの首もとに結んである青いリボンにも見覚えがあった。


 これは、もしかして……。


「コイトマル?」


 呟くような俺の問いに、ぬいぐるみは元気いっぱいに答えてくれた。


「うおおお! よくぞ気付いてくださいました! ラック様。コイトマルは、ついに! なんと! 自由に動けるカラダを手に入れたのです! これは非常に嬉しい出来事! さっそく甘いものでパーティでも! と、思ったのですが、体調を崩され苦しんでいるのを見て、パーティだなんて、単語さえ口にできませんね!」


 してるしてる。今もう口にしてるから。


「まずは体調を何とか戻してください。そうしたら、このコイトマル、旅先で必ずラック様のお役に立ちましょう」


「ああ、ありがとうな、コイトマル」


 俺がそう言った時、なぜだか部屋の湿度が高まった気がした。ただ感謝を述べただけなのに、何故なのだろう。


 もしかして、とレヴィアのほうを見ると、なんかコイトマルを睨みつけているように見えるんだが。


 これは、もしかして、わかりやすく嫉妬しているのだろうか。




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