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ファイナルエリクサーで乾杯を  作者: 黒十二色
後日談 七夕の夜に
320/334

蛇足1 七月はじめの再会(7/7)

  ★


 キャリーサは深夜の公園で、闇に紛れるように紫色の占いテントを広げていた。


 かつての異世界マリーノーツでの旅では、序盤に敵対し、複数のカードを媒介に気持ち悪い見た目の生き物を量産していた女なのだが、今では誤解だったことがわかり、それなりに仲良くやっている。


 俺は意を決して、頭が痛くなりそうな甘ったるい匂いの中に飛び込んだのだった。


「待っていたよ、久しぶりだねぇ、オリハラクオン」


 キャリーサは狭くて、くさくて、ロウソクの明かりしかないテントの中で、優雅に椅子に座り、足を組んで座っていた。


 待っていたということは、俺がこの時間、この場所に来ることを占って知っていたのだろう。


「さすがだなキャリーサ。占いスキルってやつか」


「そうだね。あたいの占いでは、探し人は、この紙に書いた場所にいるよ」


 俺が話を切り出すまでもなかった。彼女は俺の意図を全て汲み取っており、一枚のカードを手渡してきた。全てのカードを愛するキャリーサが、自分の所持するカードを手放してまで、俺を助けようとしてくれているわけだ。


 青白いカードには、『丸糸子』という文字があり、電話番号などの情報は塗りつぶされていて読めなかった。その裏側の空白には丁寧でわかりやすい手書きの地図が書かれていた。


「これは?」


「名刺さ。探し人がこの世界で名乗っている名前と、あと、あの子がよく行く場所をメモで書いておいた」


「ありがとうな、キャリーサ」


「当然のことをしたまでさ。あたいは、あんたの案内人だからね」


「もう仲間って言ってもいいと思うけどな」


「あっ、あたいが……? 仲間……?」


「こんどさ、みんなでマリーノーツに遊びに行こうと思うんだ。キャリーサも一緒にどうだ?」


 そうしたら、キャリーサは、予想外の言葉だったのか、目を泳がせながら、


「あっ、あたい、昼間はホクキオで領主の仕事してて忙しいんだよね。夜だけなら行けるかもだけど」


「そうか、じゃあ残念だな」


「ちょっ、まちなよ。そこは夜だけでも来てくれって話になるところじゃないのかい」


「夜はほら、レヴィアと二人きりで過ごしたいし」


「名刺かえしな。フリースはあんたに会いたがってなかったんだった」


「いや返さん、これはもう俺のものだ」


「マリーノーツに遊びに行った時には、注意しな。あたいのカワイコちゃんたちを四方八方からけしかけてやる」


 気色悪い怪生物を使って襲撃する宣言をしてきた。だが、キャリーサの使う見た目がヤバイ生物は、俺の自慢の『検査』スキルで一瞬にして無力化されてしまうだろう。上位スキルを使うまでもない。


「ていうかさ、キャリーサ。襲撃しかけるくらい暇なら、普通に昼間から参加できるだろ」


「まあ……そんなに言うなら、遊びにいく日付を占って、予定あけとくけども」


「オッケーだ。それじゃ、またなキャリーサ」


 ほんとに忙しいんだからね、という声を背中で聞きながら、占いテントを後にした。


 名刺の裏側の地図をじっくり見てみる。


 川があり、橋があり、岩がある場所のようだ。それ以上の情報はない。


 近所の川沿いを、徹底的に探すしかないな。


 運に恵まれ続けている俺なら、そのうち会えるだろう。異世界マリーノーツの旅路でも、本当に運だけは良かったからな。


  ★


 数日間にわたる孤独な捜索で、スニーカーはすっかり汚れてしまった。


 それらしい良い感じの場所を見つけたので、アルバイトや学業の合間に、その場所に足を運ぶ日々が続いている。


 毎日、いろんな時間に来ているのに、なかなか会えない。


 他に候補となる場所にもいくつか行ってはみたが、どれもしっくりこない。


 川、雑木林、橋、岩。フリースが好きそうな場所だ。いつぞやの、祭りのあった雨の日に、二人で歩いた場所に似ている。絶対にこの場所のはずだ。


 そして、八月のある夜のことだった。


 俺は、毎日踏みしめている小さなコンクリート橋の前に立ち尽くした。


 霞んだ空にかかる月と街灯の明かりに照らされて、彼女の髪は銀色に輝いていた。ギターケースを隣の岩に立てかけて、大きなヘッドホンを装備した小さな少女の横顔が、控えめな星空を見つめていた。





【蛇足2へ】


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